オリンピックが開催されているフランスのパリでは7月30日、36℃まで気温が上がり、屋外で競技をするアスリートたちの健康が脅かされている。
アーチェリー男子団体に出場した斉藤史弥選手(19)は29日に熱中症になり、試合後に会場の救護室へ運び込まれた。スケートボード男子ストリート予選でも小野寺吟雲選手(14)が熱中症のような状態になったと明かしていた。
気候変動による気温上昇への影響は深刻化しており、酷暑の中で競技に挑む選手たちは、失神や熱中症などを発症する恐れも高まっている。
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専門家や五輪選手が、気候変動がもたらす影響について警鐘を鳴らしている。
五輪選手たちのSOS。猛暑は「深刻な敵」
パリ五輪に出場している各国の選手たちからも、猛暑、そして気候変動の影響について不安の声が上がっている。
イギリスのローイング代表、マチルダ・ホジキンス=バーン選手は、パリ五輪での猛暑が「深刻な敵」となっているとし、「スポーツは気候変動に繰り返し打撃を受けることがますます明らかになっている」と懸念を示した。
オーストラリアの競歩代表、リディアン・カウリー選手は、競技中の熱中症への不安を語った。
「熱中症を経験した者として、これらの極端な気温がいかに危険であるかを知っています。身体は完全にシャットダウンモードに入ります。今週、スタートラインに立つアスリートたちは、できる限りの準備をしてきました。しかし、この過酷な気温は、化石燃料の燃焼を止めない限り根本的には避けられません」
その上で、五輪のあり方について「気候変動に本気で取り組むなら、イベントがより持続可能になるだけでなく、化石燃料製品で私たちを苦しめるスポンサーとは決別する必要がある」と述べている。
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スポーツ生理学の専門家である、イギリスのポーツマス大学のマイク・ティプトン教授は、高温での屋外の競技について、危険性を指摘する。
トライアスロンやテニス、ボート、馬術、ビーチバレーなど、屋外で長時間にわたってプレーする競技は、「危険ゾーン」の気温で競技を行うことになるという。
ティプトン教授は、高温の中での競技の危険性について、こう述べている。
「30°C台中盤からの高温は、特に長時間運動するアスリートにとって『危険ゾーン』に当たります。これには、長距離走や競歩、トライアスロン、ホッケーのようなチームスポーツが含まれ、パフォーマンスの低下や失神、熱中症などの医療緊急事態を引き起こす可能性があります」
気候変動による気温上昇の影響で、以前は快適にスポーツができていた季節に熱中症の危険性が高まったり、同じ地域でも、同時期の気温に変化が起きたりしている。
パリで30℃以上の最高気温が観測された日数を、1924〜1933年と2014〜2023年で比較すると、1924〜1933年には69日だったが、2014〜2023年には188日まで急増している。
100年で、気温が上昇していることが分かる。
日本のアスリートらも危険性を訴え
気候変動の影響による猛暑が、スポーツに与える深刻な影響に関しては、日本のアスリートらも声をあげている。
会見では、競歩の鈴木雄介選手や元陸上選手の為末大さんが、自身が経験した競技中の熱中症の経験や、大会開催のあり方などについて話した。
鈴木選手は2019年、カタールの首都ドーハで東京五輪出場権がかかった世界陸上男子50km競歩のレースで、熱中症になった。
ドーハの気候を鑑みて、大会は深夜に開催されたが熱中症になり、大会後も熱中症の後遺症が残り、東京五輪出場を辞退せざるをえなかったという。
2021年に開催した東京オリンピックでは、気温34°C超、湿度70%近くに達し「史上最も暑い」大会となった。
為末さんは、大会実施の地域と季節を考え直すことや、競技を夏季から冬季に移すことなどを提案。アスリートも声をあげ、一丸となって、気候変動対策に取り組んでいく必要性を訴えた。
猛暑や豪雨などが発生する背景には様々な要因がありますが、近年頻発化・激甚化している異常気象の背景の一つには、気候変動の影響があります。
気候変動の主な原因が、大量の温室効果ガス排出などの人間活動であるということは、科学的に「疑う余地がない」と言われています。熱中症や災害への警戒や対策を行うと同時に、気候変動を止める行動が必要不可欠です。
そのためには、国や企業の脱炭素化を急速に進めることが重要です。政策や企業行動に注目し、声を上げることも大切なアクションの一つです。個人でできることもあります。
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