今秋のアメリカ大統領選挙に向け、共和党大統領候補のトランプ氏が副大統領候補に選んだオハイオ州選出のJ.D.ヴァンス上院議員。3年前に子どもを持たない人のことを「子なしの猫好きおばさん」と呼んでけなしたことが取り上げられ、ミームにまでなっている。
40歳のヴァンス氏は、長年にわたって子どものいない人たちのことを道徳に反し、劣った存在だと言ってきたことが記録に残されている。大統領選の投票日を11月5日に控え、過去の発言が次々と掘り起こされている。
ハフポストは7月30日、ヴァンス氏が2021年5月に保守系メディア「The Federalist」のインタビューで語った内容を報じた。「アメリカの人々にもっと子どもを持ちたいと思わせるために、共和党は何ができると思うか」という質問にヴァンス氏は、「少しばかり厳しいことを言うと、我々の国であるアメリカに存在する『子どもは持つべきではない』というイデオロギーと戦争を始めないといけません」と答えている。
子どもを持つことよりもキャリアを優先する女性を支援する人たちにも言及し、「寂しくて、孤独で、哀れ」と非難した。
ヴァンス氏が副大統領候補になって以降、家族や母親であることなどについての発言が大きく注目されている。
2021年に「Intercollegiate Studies Institute」の会議で行ったスピーチでは、現在副大統領を務めるカマラ・ハリス氏について「民主党の子なし猫好きおばさんの1人」と述べ、アメリカという国の将来に何の責任も持っていないと話した。「ハリス氏には生物学上の子どもがいない」という発言もあり、大きな批判につながっている。
このインタビューでは、有権者の発言権のあり方についても言及している。投票にあたっては、子どもを持たないアメリカ人は子どもを持つ親と同じ発言力を与えられるべきではないという持論を展開している。
こう話した数日後には、FOXニュースのタッカー・カールソン氏に「カマラ・ハリス、運輸長官のピート・ブティジェッジ、下院議員のAOC(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)。民主党の未来は子どものいない人たちに握られている」と話し、「国の未来に直接的な利害関係がない人たちに、我々の国を委ねてしまったなんてどうにかしている」と述べていた。
ヴァンス氏が過去に行った発言は、政治界を超えて反発を招く事態になっている。
同氏は沈静化を図るため、7月26日シリウスXMのトーク番組「The Megyn Kelly Show」に 出演し、批判が集まっている発言について「皮肉だった」「猫には何の恨みもない」と説明した。「子なし」としたハリス氏は2人の子どもの継母であること、運輸長官のブティジェッジ氏は夫とともに双子を養子として迎えていることに触れた。しかし、子どもがいない人への謝罪はなく、アメリカの出生率低下への批判を繰り広げた。
ヴァンス氏は「みんな私が伝えたかった本質ではなく、皮肉にばかり注目している。私の指摘は残念だが真実を語っている」と続け、根拠を示すことなく「民主党は移民をアメリカ人の子どもの代わりにできると考えている」と主張し、白人至上主義者による陰謀論「グレート・リプレイスメント・セオリー」(人種の大置き換え論)を展開した。
ヴァンス氏は、インドからの移民を親に持つ妻ウーシャ・ヴァンスさんとの間に3人の子どもがいる。
2021年3月に出演した右派ポッドキャスト「Charlie Kirk Show」では、子どもを持たない人に課税強化する考えを持ち出していた。子どもを持つ人よりも高い税率を課すというものだ。
ヴァンス氏の広報担当は、同氏が示した政策は、民主党が支持する子ども税額控除と基本的に同じと説明している。
ヴァンス氏はコロナ禍についても民主党への批判を繰り広げていた。メディアマターズによると、同年7月末から8月初旬にかけてFOXニュースのインタビューに3回応じ、新型コロナウイルスを抑え込むためのマスクやワクチン接種要件などを子どもたちで「実験している」といった内容を繰り返した。
「カマラ・ハリスにしてもAOCにしても、もし誰かの子どもで実験したいなら、自分の子どもを作ればいい。私の子どもで実験するな」とFOXニュースのタミー・ブルース氏に答えている。
一方で、子どもを産んだ人たちがどのように子育てをするかへの批判は問題視していないようだ。2021年9月に南カリフォルニアの高校で行ったスピーチでヴァンス氏は、親たちは結婚生活が惨めで、暴力的だったとしても子どものために離婚すべきではないと述べている。アメリカの高い離婚率の原因は、1960〜70年代に起きた文化・性の革命にあるとしている。女性の体の自己決定権を認める最高裁判決(2022年にこの判決を覆す判断がなされている)につながったのがこの時だったとしている。
「性の革命がアメリカ国民に仕掛けた策略だ。結婚生活は暴力的でさえあったかもしれないし、間違いなく不幸なものだったとする。下着を変えるように配偶者を変えることが、長い目で見た時に幸せな選択となるという考えだ。父親と母親にとっては良かったかもしれないが、私は懐疑的だ。子どもたちにとってはいいことではなかった」
ヴァンス氏は連邦政府による中絶禁止を支持することを公言している。2021年にスペクトラム・ニュースの取材に、レイプや近親相姦によって妊娠した人について、無理やり子どもを産ませるという考え方を見直す必要があると訴えた。赤ちゃんの生きる権利の問題という考えからそう主張している。上院議員として、連邦政府による体外受精の保護法案に反対票を投じている。
今年7月30日にはCNNがヴァンス氏の新たな問題発言を報じた。2020年11月に保守派のトークショーで発言したもので、子どもがいないアメリカ人のことを「気が狂っている」とし、「ソシオパス」と呼んでいた。
「子どもを持つことで生活の流れは力強く、本当に価値のあるものになる。アメリカの指導者層にいる人たちの多くがそれを欠いた人生だ。人々をソシオパス化し、精神的な安定さを少々欠く国にしてしまうのではと危惧している」と「Chris Buskirk Show」で話していた。
「Twitter(現X)を訪れてみて。最も気が狂っていて、猟奇的なのは子どものいない人たち」とも言っていた。
ハフポストはトランプ氏とヴァンス氏の広報担当に、共和党にとって女性や子どもを持たない有権者の票を失うことにつながらないなどの質問についてコメントを求めているが、回答はまだない。
ヴァンス氏の広報を担当するテイラー・ヴァン・カーク氏はCNNの取材に「ヴァンス氏は『子どもを持つべきではない・家族を持つべきではない』という考えを支持する左派の政治家について話しただけ」と答えている。
DNC(民主党全国委員会)広報担当のアイダ・ロス氏は7月30日に談話を出し、「J.D.ヴァンスのような不気味な人間が、子どものいない大勢の人たちのことを『ソシオパス』や『気が狂っている』と攻撃するのは、侮辱ではすまされない行為です」と糾弾した。副大統領候補であるヴァンス氏が自身の暴言を政策づくりに反映させてしまう懸念についても強調した。
ロス氏は「ドナルド・トランプと同様に、ヴァンスはアメリカの人々が求めていない危険で不人気なアジェンダを掲げている。ヴァンスがどんなに意地悪で攻撃的な侮辱を吐いたとしても、人々の心は変わらない」とも述べている。
ハフポストUS版を翻訳しました。