「時代についていけない高齢者」予備軍の一人として、タッチパネルにキレた高齢男性に思わず同情してしまう

誰かの排除を認めることは、自分への排除がなされてもそれに甘んじなければならないこととイコールだ。それは確実に、あなたの首を絞めるだろう。
Atsushi Yamada via Getty Images

少し前、たまに行くご飯屋さんに友人と行った。

個人の店で、庶民的な価格でいつも賑わっている人気店。ランチの時間も終わり頃に入ると、いつもと違うことに気がついた。

これまでは店員さんに口頭で注文するというやり方だったのに、席にタッチパネルが設置されている。

「おお、変わったんだね」と言いつつ注文を終え、届いた料理を食べていると、近くの席に高齢の男性が一人で座った。常連客らしく、水を運んできた女性の店員さんに「日替わり定食」と声をかける。

すると、店員さんは「これで注文してください」とタッチパネルを指差した。え、と戸惑う高齢男性に、「すぐわかるから、簡単だから」と笑いながら去って行く店員さん。が、男性はタッチパネルに悪戦苦闘している様子。

「なんだよ、全然わかんないぞ」と独り言がどんどん不機嫌になっていく。

奮闘すること数分、たまらず店員さんを呼び出し、「全然わかんない! 日替わり定食!」と注文するものの、店員さんはどうしてもタッチパネルで注文してほしい模様。

「ほら、こうやって…」と教え始めたところで、「もういい!」と高齢男性は席を立った。そしてそのまま店を出ていってしまったのだ。

その姿を見ながら、ひどく胸が痛んだ。自分の数十年後の姿のように思えたからだ。

若い世代からしたら、できないなんてありえないだろうタッチパネルの操作。だけどそれが大きなハードルになる層がいることは理解できる。

私だって、スマホでQRコードを読み込んで注文、という店にはいまだに抵抗を感じてしまう。 

とにかく、あの高齢男性にとって、これまでずっと口頭で済んでいたことが苦手なものを介さなくてはいけなくなったのだ。それは結構な絶望だろう。しかもそれは飲食店だけでなく、あらゆる場面に出現するようになっている。世間の多くの人にとっては「便利」なものが、自分にとっては「不便」でしかないという現実。それってものすごく「取り残され感」や疎外感を覚えるものだろう。 

もちろん、そういうものに適応すべきという意見もわかる。が、タッチパネルだけじゃなく口頭でも注文できるようにするとか、明らかに困ってる人には代わりにやってあげるような配慮は必要だろう。

2016年に「障害者差別解消法」が施行され、「合理的配慮」という言葉が広く知られるようになったわけだが、「デジタル機器が使えない高齢者」への配慮って、完全に社会的にスルーされてる気がするのだ。「時代についていけない高齢者」予備軍の一人として、これは由々しき事態である。

同時に、思った。あの高齢男性、常連っぽかったけど、もう二度とこの店には来ないだろうな、と。

それだけではない。おそらくタッチパネルを導入したこの店の利用客の年齢層は、明らかに下がるだろうなとも。

ちなみにその店は、いつ行っても高齢のお客さんが多かった。それなのに導入したということは、ある程度、高齢の常連客離れも想定しているということなのだろうか。

というか、最新機器を導入することによって一定の世代や層を排除することが可能、ということに気づき、ちょっと怖くなった。それが「悪用」された先には、どんな世界が待っているのだろう?

そこで思い出すのは昨年知った、韓国のノーキッズゾーン。

韓国には、そのようなエリアが存在するらしい。その名の通り、お子様お断りの場所。カフェやレストランなどで掲げられているそうで、なんだかこの言葉の「強さ」に驚いたのだが、韓国にはノーシニアゾーンを掲げる店もあるという。

「子どもNG」なら、まだ安全のためとか理由が想像できる。が、高齢者お断りって、剥き出しの差別に思えるのは私だけではないだろう。

「でも、子どもも高齢者もいない場所でくつろぎたい」という人もいるかもしれない。

しかし、特定の層を排除する場所は、あっという間にあなたを排除する場所になるだろう。

そして突き詰めれば、多くの人が素敵だと思うような場所は、健康で清潔で、体脂肪率が一定以下で収入とルックスが一定水準以上の「誰もが素敵だと思う人」しか入れない、なんてことになっていくと思う。

誰かの排除を認めることは、自分への排除がなされてもそれに甘んじなければならないこととイコールだ。多くの人がここを見落とし、自分だけは大丈夫だと思って排除へのゴーサインを出す。しかし、それは確実に、あなたの首を絞めるだろう。

ということで、タッチパネルやQRコードが「排除」の役目を果たさないよう、さまざまな立場の人への配慮があるといいなと、怒って帰った高齢男性の後ろ姿を見ながら思ったのだった。

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