「書類送検ってどういうこと?」「書類送検されてびっくり」ーー。
サッカー・フランス1部リーグのクラブ「スタッド・ランス」に所属する伊東純也選手が7月2日、準強制性交致傷容疑で書類送検されたと各メディアが報じたことを受け、SNSで様々な憶測が広がっている。
この事案を巡っては、伊東選手から抵抗できない状態で性的暴行を受けたとして、女性2人が大阪府警に告訴。一方、伊東選手側も告訴の内容が虚偽だとして、女性2人を府警に告訴していた。
書類送検は、その後の法律に則った単なる手続きにすぎない。しかし、SNSでは伊東選手の有罪が確定したかのように誤解している投稿も散見される。
書類送検とは何なのか。なぜメディアは報じるのか。事件取材の経験がある記者が解説する。
経緯を振り返る
この事案は、週刊新潮のサイト「デイリー新潮」が1月、伊東選手らから性的暴行を受けたとする女性2人の証言を報じたことが発端。
女性2人は準強制性交致傷容疑で、伊東選手側は虚偽告訴容疑でそれぞれ大阪府警に告訴し、受理された。
また、伊東選手側は「事実無根の告訴でスポンサー契約を打ち切られた」などとして、女性2人に約2億円の損害賠償を求めて提訴している。
府警はその間も捜査を進め、7月2日に伊東選手を準強制性交致傷容疑で、女性2人を虚偽告訴容疑でそれぞれ書類送検した。今後、大阪地検が双方の刑事処分を判断する。
書類送検とは?実は「マスコミ」用語
前述した通り、各メディアが報じた書類送検というのは、地検が刑事処分を判断する前の段階だ。
そして、そもそも書類送検という言葉はマスコミ用語で、法律用語ではない。
被疑者の身柄などを検察官に送る「送致」と、告訴や告発があった場合に書類を検察官に送る「送付」の両方の意味で、「送検」と使われている。
今回のケースでいえば、法律上は「送付」となり、双方の告訴を受理した大阪府警が法律上の手続きに則って書類を大阪地検に送付したにすぎない。
刑事訴訟法242条には、「司法警察員は、告訴または告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類および証拠物を検察官に送付しなければならない」とある。
つまり、メディアが「書類送検した」と報じたからといって、必ずしも起訴されるわけではなく、ましてや有罪となったわけではない。
起訴はあくまで検察官に与えられた権限で、検察は起訴・不起訴を決定するための捜査を行う。
警察の「意見」とは
また、犯罪捜査規範195条には、「事件を送致または送付するに当たっては、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書または送付書を作成し、関係書類および証拠物を添付するものとする」とある。
警察は送付するにあたり、①厳重処分(起訴してほしい)②相当処分(起訴・不起訴の判断を委ねる)③寛大処分(起訴猶予が相当)④しかるべき処分(起訴を求めない)のいずれかの意見を添付する。
今回、大阪府警がどのような意見を添付したかは報じられていないが、警察が起訴できないと考える場合でも送付はしなければならないということになる。
なぜメディアは報じる?
では、なぜこのような段階でメディアは報じるのか。
理由の一つに、「書類送検を報じることが特ダネとしてカウントされる」ことがある。
各メディアの記者は、警察の庁舎内にある記者クラブで取材をすることが多い。なぜなら、記者クラブには日々、被疑者の逮捕から防犯活動まで様々な「紙」(発表文)が投げ込まれるからだ。
記者はその紙をもとに担当課などに取材して記事を書くが、発表されたものを書いているだけでは社内で評価されない。
紙で発表される前に書いたり、そもそも発表されないものを書いたりすることが重要で、そのために記者は朝から夜まで捜査幹部宅を訪れて非公式に取材する「夜討ち朝駆け」を繰り返す。
そして、送付事案は基本的に警察から発表されることはない。
だからこそ今回、各メディアは「(警察が)書類送検したことが(捜査)関係者への取材でわかった」と、特ダネを報じる際の書き方で発信している。
特ダネとして報じられているため、「抜かれた」各社は当然“後追い報道”することになる。
つまり、競争意識に駆られた報道合戦という意味合いも大きいのだ。
一方、警察が「しかるべき処分」を付けている場合など、不起訴となる可能性が高い意見だったことが取材で判明した場合は、あえて報じなかったり、「不起訴の見込み」と書いて報じたりすることもある。
実際、今回の伊東選手のケースでは、時事通信が捜査関係者から聞いた話として、大阪地検が「不起訴とする公算が大きい」と報じている。