投票用紙、実は「紙」じゃなかった。なぜ書き心地が滑らかなの?その正体を探った【東京都知事選2024】

「書きやすい」「つるつるの触り心地が最高」などと、選挙のたびに話題になる投票用紙。実は、一般には流通していない“特注品”なんです。

7月7日は、東京都知事選の投開票日。選挙のたびにひっそりと注目を集めるのが「投票用紙」。触り心地がつるつるで、書き味も絶妙...。

実はこの投票用紙、木材からできた「紙」ではありません。

投票用紙は何からできている?書き心地はなんであんなに滑らかなの?

知っておくと投票に行くのがさらに楽しくなる、投票用紙にまつわる豆知識をご紹介します。

その正体は...

国政選挙や一部の地方選で使われる投票用紙は、一般的な紙とは異なります。今回の都知事選でもほとんどの投票用紙に使用されているその正体は、独自の製法で開発された合成紙で、プラスチックフィルムの一種。「ユポ」と呼ばれ、ポリプロピレン樹脂と、目では識別できないほど細かくした「無機充填材」を混ぜて製造されています。

ユポは、合成紙メーカーの「ユポ・コーポレーション」が開発しました。もともとユポは、森林資源の保護のため、安価な石油を使って製造する一般紙の代替品として開発されました。

しかし2度のオイルショックが打撃となり、原材料費の高騰から当初の目的を方針転換。耐水性に優れているなどの特徴を生かし、様々な用途で使われるようになりました。

同社の担当者によると、私たちの暮らしに身近なところでは、ペットボトルや缶に貼られているキャンペーンシール、ハムの包装を束ねるシール、選挙ポスターなどに採用されています。

国政選挙などの投票用紙に使われているユポは、選挙機材大手のムサシとユポ・コーポレーションが共同開発したもの。そのほかのユポとは異なり、投票時の不正防止のため一般には流通していない特別な仕様になっています。

 

「投票用紙について、よく『どこで買えますか』と問い合わせをいただくことがあるのですが、一般には販売していません。選挙では不正が絶対に許されないため、印刷時に失敗したものも数量を厳しく管理されています」(ユポ・コーポレーション)

ユポの投票用紙は1980年代から地方選で使用され、その後衆院選や参院選でも使われるようになったそうです。

投票用紙以外の用途では使われていないため、あの滑らかな書き心地を堪能できるのは選挙の時だけです。

投票用紙の見本。折り目はついても、自然と開く特徴がある
投票用紙の見本。折り目はついても、自然と開く特徴がある
ユポ・コーポレーション提供

 開票の手間が省ける“仕掛け”があった

ユポの投票用紙の特徴は、「折り畳んでも自然に開く」こと。

「反発が強く、折れにくいというユポ自体の性質があります。折り畳んでも、元に戻ろうとする力が強いので自然に開くんです。もともと折れにくさはデメリットだったのですが、投票用紙としてはそこがメリットになりました」(ユポ・コーポレーション)

この特徴によって、折り畳まれた投票用紙を人力で一枚一枚開くという作業工程が省かれ、効率よく開票作業が進むようになったそうです。

書き味が良い理由

触り心地がつるつるで、書き心地も滑らかな投票用紙。あの質感は、どのように生み出されているのでしょうか?

担当者は次のように説明します。

「鉛筆の芯が紙の凸凹に引っかかって削れていくことで、文字を書くことができます。ユポの原料である無機充填材が非常に細かくなっており、ユポの表面の凸凹がいい具合に滑りやすく、多くの人が書き味も良いと感じているようです」

担当者が自社の開発担当者に聞いたところによると、投票用紙の研究開発時には書きやすさ以外にも、票を集計する際に使う機械の中で滞りなく運ばれるかといった「ちょうど良い滑り具合」の調整にも苦労したそうです。

担当者は「有権者の方には、せっかく持っている一票の権利を大切にしていただきたいです。この機会に投票用紙の書き心地を試したり、自然に開く反発力を確認したりと実際に体験してもらえたら」と呼びかけています。

日常では出合えない投票用紙。ぜひ投票所で、実物を体感してみてください。

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