国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会の報告書から、神宮外苑再開発に対する指摘を削除するよう求めていた日本政府に対し、訪日調査に携わったピチャモン・イェオファントン委員が削除しない考えを示した。
「報告書を修正する予定はない」
「ビジネスと人権」作業部会は2023年7〜8月に訪日調査を実施し、2024年5月に報告書を発表した。
この報告書の中で、神宮外苑再開発について、環境アセスメント(環境への影響を事前にに調査、予測、評価すること)における「パブリック協議」が不十分で、「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」と指摘している。
一方、日本政府はこの指摘は誤りだと反論。
「報告書には事業者の意見が反映されておらず公平ではない」「住民説明会を実施している」などの理由を挙げて、報告書から神宮外苑再開発の指摘部分をすべて削除するよう求めていた。
イェオファントン氏は1日のイベントで、この削除要請について「報告書は国連の特別手続きマニュアルと行動規範に忠実に従って作成した」と説明。
記載されている情報は、「複数の利害関係者との協議や、信頼できる科学的な報告書の調査などから、慎重に見極めたものだ」として、「報告書を修正することはなく、現在の内容は当面維持されるだろう」と述べた。
また、イェオファントン氏は、どのようにすれば有意義な協議ができるのかという質問に対して、「計画で最も影響を受ける人々との積極的な関与と対話」を通じて実現されると回答している。
日本イコモス国内委員会も「パブリックな協議を」
神宮外苑再開発に対しては、文化遺産保護に関わる国際的なNGOイコモスも2023年に「ヘリテージアラート」を出して、計画を見直すよう求めている。
日本政府が作業部会の報告書から神宮外苑部分の削除を要請したことについて、日本イコモス国内委員会理事で東京大学名誉教授の石川幹子氏は「国連人権理事会の警告を真摯にうけとめていない」と述べた。
政府は、作業部会が問題視した環境アセスメントのプロセスについて「法令や条例に則って一般の人々から意見を聴く仕組みを取り入れており、不十分な住民協議との指摘は誤りだ」としている。
しかし、石川氏は「イコモスなどのNGOや専門家、近隣で子育てをする有志の会など、多岐にわたる人々との対話が行われていない」として、国連人権理事会「ビジネスと人権」作業部会が必要としたパブリック協議を行うよう求めている。