セクストーション被害が「自己責任」の日本。削除要請に200万円以上を支払う人も

FBIは、デジタル性暴力の全面的な責めを加害者に求めている。これに対して日本の警察は、被害者に落ち度があると思っている。この差が両者のセクストーションへの対応に現れていると私は考える。【探査報道シリーズ「誰が私を拡散したのか」第3回】
(イラスト:qnel)
(イラスト:qnel)

知らない間に、自分の性的な写真や動画がネットで売買されていたらどうしますか。実際にそんな被害が多発しています。一度でも投稿されれば瞬く間に広まり、削除しても削除しても、拡散のスピードに追いつきません。

私は友人が被害に遭ったことをきっかけに、2022年から取材を始めました。するとハッキングやリベンジポルノ、盗撮などさまざまな方法で集められた画像が「商品」として売られている実態が判明しました。甚大な数の被害者がいると考えられます。

加害者は金を得るため、SNSやアプリを使って画像をどんどん拡散します。拡散の温床となっていたアプリは性的画像に特化した仕組みを備え、ビジネスを展開していました。

被害者が拡散を食い止めるには、画像を投稿した加害者やインターネット事業者に自力で削除を要請するしかありません。

ところが規定を定めた「プロバイダ責任制限法」は穴だらけ。加害者や事業者に、画像の削除を義務付けていませんでした。

被害者が警察に相談しても、削除要請をしてほしいと言われるばかりです。性的画像の削除と引き換えに金などを要求される「セクストーション」被害に至っては、件数の統計も取っていませんでした。

法制度の不備と警察の怠慢が、ますます被害者を追い込んでいます。

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「何回も削除の依頼を」警察にも突き放され

被害者は拡散された写真や動画を削除してもらうため、掲載されているウェブサイトやアプリの運営者に自力で削除をお願いする。他に方法がないからだ。

1回目の記事に書いたように、私の友人は自分の写真や動画が取引されていると気付いた後、警察に被害を相談した。だが男性の警官は、「発見した段階で、何回も削除の依頼をしていただくしかない」と言った。

性的画像は一度投稿されれば「商品」となり、瞬く間に広まる。お金目当ての投稿者と、性的な画像を消費したい人たちがいるからだ。

被害者たちの画像は、アプリに1回投稿されただけで数百〜数千の人に保存されていた。保存した人たちは、さらに別の場所へと拡散する。それほどまでに広がったものに、個人が対処するのは不可能である。

セクストーションに「注意喚起」

結局、被害者たちは自分の写った画像を探し、何度も削除依頼を続けるしかない。だが、加害者に画像の削除を依頼したところ、さらなる犯罪に巻き込まれるケースもある。セクストーションだ。

セクストーションとは、性的な画像をもとに、金を要求したりさらに画像を送るよう脅したりする行為。性(Sex)と恐喝(Extortion)を組み合わせた言葉だ。

これまでに取材した10代の男性は、画像を「裏コミュニティに投稿する」などと脅され、複数人に合計15万円を支払った。

ところが警察は、その深刻さを認識しているとは思えない。私は警察がセクストーションに関して発表している情報を探してみた。すると大阪府警、埼玉県警、佐賀県警による情報発信が見つかった。それぞれウェブサイトやSNSで注意を呼びかけている。

大阪府警はホームページで、次のように「注意喚起」している。

「インターネット上での知らない人との接触は、とても危険です。自分の裸や陰部などの動画や写真は、決して他人に送信してはいけません。(インターネット上に広がると、画像を削除することはまず不可能です。)」 

佐賀県警のホームページでは、「セクストーション被害にあわないために…」という見出しで、こうアドバイスをしている。「アプリは信頼できるマーケットから入手する!」

FBI「驚くべき数の自殺」

セクストーションの被害は国際的な広がりを見せている。米国のFBI(連邦捜査局)は、2024年にセクストーションの特集ページを開設した。若者に対して金銭の支払いを求めるセクストーションについて、次のように警告している。

「脅威の増大により、驚くべき数の自殺による死者が発生している」

日本の警察と対照的なのは、注意を喚起するだけではなく、被害に遭ったらどうすればいいのかを示していることだ。被害者には、最寄りのFBI事務所への相談や、オンラインでの通報を促している。当事者が受けられる支援の内容や、相談窓口の連絡先も記載されていた。

被害の拡大を防ぎ、本人の心理的負担を軽減するための法的仕組みもある。

例えば児童がCSAM(児童の性的虐待コンテンツ)の被害に遭うと、被害の記録をデータベースに集約する。これは「児童搾取通知プログラム(CENP)」と呼ばれる。被害児童の画像に関するFBIの捜査は逐一、本人や家族に進捗状況が通知される。

この際に被害者は支援を受ける権利があることを伝えられ、具体的なサービスの情報を受け取ることになっている。いつでも助けを求めていいと、本人に認識してもらうためだ。性的画像の拡散被害は繰り返し起きる。その特徴を捉えた対応だ。

「あなたの落ち度ではない」

FBIは、セクストーションの特集ページで「被害に遭ったことは本人のせいではない」というメッセージも発している。

「金銭セクストーションは犯罪です。でもそれは、あなたの落ち度ではありません」 

「子どもたちは加害者の手口に陥ったとき、恥や恐怖、混乱によって助けを求めたり、虐待を報告したりすることができなくなることがよくあります。保護者と若者は、犯罪がどのようにして起こるのかを理解し、オンラインの安全性についてオープンに話し合う必要があります」

セクストーションに対するFBIと日本の警察の姿勢の違いはどこから来るのか。

FBIは、デジタル性暴力の全面的な責めを加害者に求めている。これに対して日本の警察は、被害者に落ち度があると思っている。

この差が両者のセクストーションへの対応に現れていると私は考える。

「セクストーション被害はあなたの落ち度ではない」と伝えるFBIのウェブサイト
「セクストーション被害はあなたの落ち度ではない」と伝えるFBIのウェブサイト

削除費用に200万円以上 

国内の被害者に代わり、画像の削除要請などを支援しているのがNPO法人「ぱっぷす」だ。性的画像の拡散被害に遭った際の相談を受け付けており、相談も削除要請も無料だ。

ぱっぷすの金尻カズナ代表は、現状の仕組みが被害を「自己責任」にしていると話す。

「自分の写った画像を探すためには、アダルトサイトやインターネット掲示板で他の性的画像も大量に見る必要があります。被害者にとって、二次的なストレスやトラウマにつながる危険性もあります」

ぱっぷすには、月100件ほどの相談が寄せられる。2022年度は、サイトやSNSの運営者に対して約1万8000件の削除要請を行なった。

弁護士に依頼して対応する方法や、民間の削除業者に依頼する方法もある。しかしこうした画像は繰り返し投稿され、キリがない。あるセクストーションの被害者は、画像2点の削除要請の代行費用として弁護士に20万円支払った。削除業者に総額200万円以上払った人もいた。

削除要請の約4割が放置

被害者にとって、さらに過酷な状況がある。

削除要請を行なっても、全ての画像が消されるわけではないのだ。ぱっぷすの2022年度の実績では、要請を行なったうち37.9%は削除されずに残った。完全に削除されたものが53.3%。一部削除されたものが8.1%だった。

削除要請にかかわる事業者の対応は、「プロバイダ責任制限法」で定められている。事業者のサービス上に投稿された画像などが人権を侵害している場合は、削除しても投稿者からの損害賠償請求をされないという内容だ。被害者にとっては、削除が進むと期待できた。

ところが、法では削除要請に応じる義務を定めていない。応じなかったとしても罰則があるわけでもなく、それ以上の対応を求められることもない。

今年5月にはプロバイダ責任制限法が改正された。大手プラットフォームに削除に関する相談窓口を設けることや削除基準などの透明化を義務付ける。1年以内に施行される。

だがこの法改正も不十分だ。被害者から要請を受けた情報の削除はやはり義務付けてはいないからだ。対応を求められる対象も一部の大企業に限られる。

性的画像が拡散され、実生活でストーカー被害にも遭った女性は、親族たちも協力してさまざまなサイトやSNSを毎日監視している。投稿を見つけたら削除を要請するが、しばらくするとまた画像が出回っているのを見つける。最初に被害に気がついてから、すでに4年以上が経った。

=つづく

【取材・執筆=辻麻梨子(@marikotsuji15)/ Tansa】

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