気象庁は、東京都などの関東甲信が6月21日頃に梅雨入りしたとみられると発表しました。平年より14日遅く、昨年より13日遅い梅雨入りです。
これからのシーズン、洗濯物を外干しできなかったり、外で遊ぶ予定が中止になったりする日が続くことも考えられます。すでに「夏が待ち遠しい」と思っている人もいるかもしれません。
一方、「梅雨がない」と言われている地域が日本にはあります。それは、北海道です。
私は2年前の6月、北海道札幌市で1カ月弱過ごしましたが、多くの日で晴れ間が広がり、気温と湿度は低く、快適に生活することができました。
気象庁が発表する「梅雨入り・明け」も、沖縄から東北北部までしかありません。
なぜ北海道は梅雨がないと言われているのでしょうか。札幌管区気象台の大木紗智・技術専門官に理由を聞きました。
(2022年6月13日にBuzzFeed Japan Newsで配信した記事を一部編集して再配信しています。肩書きなどは当時です)
なぜ北海道は梅雨がないと言われているのか
ーー基本的なことですが、梅雨の定義を教えてください。
北海道に梅雨がないと言われている理由については、問い合わせもかなりあるようですね。
まず、そもそも梅雨とは何かについて説明します。梅雨の定義は、「晩春から夏にかけて、雨や曇りの日が多く現れる現象、その期間」です。
では、なぜそのような現象が起こるのか。その要因の一つに、「梅雨前線」があります。
梅雨前線は、日本の北側にあるオホーツク海高気圧と、南側にある太平洋高気圧の間にできます。
オホーツク海高気圧は冷たく湿った空気を北側から流します。一方、太平洋高気圧は暖かく湿った空気を南側から流します。
すると、冷たい空気と暖かい空気がぶつかり合い、そこに梅雨前線ができます。
そこでは風がぶつかり合っているので、上昇気流が起こります。上がっていった空気は上空で冷やされ、雲になり、雨が降ります。
この梅雨前線は、2つの高気圧の勢力によって北に移動したり、南に移動したりしますが、一般的には沖縄からだんだんと上がり、東北までいきます。
ーーでは、なぜ北海道はほとんど梅雨前線の影響を受けないのでしょうか。
梅雨前線は北海道まで上がってこないことが多く、顕著に梅雨という現象はみられません。理由は、2つの高気圧の勢力関係にあります。
梅雨前線が北に上がってくる頃には、南側の太平洋高気圧の勢力が強くなり、オホーツク海高気圧の勢力は弱くなっています。
前線は、2つの勢力が同じくらいの大きさでなければ維持できません。片方だけが強い状態では、前線としての構造を維持できず、弱まってしまうのです。
これが、北海道に梅雨がないと言われる理由です。
ーー「蝦夷梅雨」という言葉を聞いたことがあります。
たまに北海道付近まで前線が近づき、梅雨のような現象が起きることもあります。それを、「蝦夷(えぞ)梅雨」と呼ぶ人もいます。
特に、函館など道南地方はその傾向があるようですが、蝦夷梅雨は定義がはっきりしていません。
例えば、オホーツク海高気圧から冷たく湿った空気が入ってくるので、オホーツク海側の地域では5、6月に曇って寒い日が続くことがありますが、これを蝦夷梅雨と言う人もいます。
ただ、基本的には北海道で本州のような梅雨の現象は見られません。蝦夷梅雨の定義ははっきりしていないため、気象庁では正式な用語としては使っていません。
ーー梅雨を避けるために本州から北海道に来て過ごす人もなかにはいると思います。将来、温暖化の影響などで北海道に梅雨がくることは考えられますか?
正直、温暖化の影響で北海道がこの時期、梅雨のような気象状況になるかどうかはわかりません。
ただ、気温が上昇しているのは事実です。気温が上がると、空気中に水蒸気をいっぱい含むことができます。その分、雨が降る量が増えるという予測結果は出ています。
しかし、それがどのような影響を及ぼすのか……。はっきりとは言えない状況です。
大木さんのインタビューを終え、札幌管区気象台が国の「日本の気候変動2020」をもとにまとめたリーフレットを見てみました。
それによると、札幌市の20世紀末(1980〜99年の平均)の年平均気温は8.7℃で、100年あたり約2.5℃の割合で上昇しているそうです。
また、北海道では短時間強雨(1時間降水量30ミリ以上)の発生頻度も増加しており、約30年前と比べておよそ1.6倍ということです。
今後はどうなるのでしょうか。リーフレットでも、以下のように地球温暖化の影響をまとめています。
「夏の猛暑や強い雨がさらに激しくなり、暑さによる健康被害、大雨による土砂災害や水害、高温による農作物の被害などの影響があると考えられています」
ただし、この影響は世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に保つことを目指す「パリ協定」が達成できるかどうかで変わってきます。
達成できず、追加的な緩和策を取らない場合、札幌市を含む石狩地方の年平均気温は21世紀末(2076〜95年の平均)と20世紀末の比較で、平均気温は4.9℃上昇します。北海道の「短時間強雨」の量も約4.1倍となります。
一方で、達成できた場合は、で約1.5℃の上昇に抑えられ、「短時間強雨」の量は約1.7倍です。
地球温暖化が北海道の「梅雨」にどのような影響を及ぼすかは、いますぐにはわかりません。
しかし、北海道に限らず、日本各地で大きな水害など発生し、増加傾向にあるのは事実です。まずは自分達にできることを考えていきたいですね。