東京23区で、同性カップルの事実婚表記を認めている自治体は?4区が記載する「縁故者」とは何か

同性カップルの住民票の続き柄を男女の事実婚と同じ記載とする自治体がある中、東京23区がどのように対応しているかを調べました。「夫または妻(未届)」と、「縁故者」や「同居人」との違いについて、専門家に聞きました。

長崎県大村市が5月、男性カップルに対し、続き柄の欄に「夫(未届)」と記載した住民票を交付した。男女間の事実婚の表記を、同性カップルにも適用した形だ。

同様の運用は、鳥取県倉吉市が2023年10月に開始。栃木県鹿沼市京都府与謝野町も今後、同様の対応をする方針だ。

では、東京都内の自治体では、同性カップルの住民票の続き柄について、どう対応しているのか。ハフポスト日本版は東京23区に取材した。

23区中、最も多かったのが「同居人」で18区。次いで「縁故者」が4区、「同居者」が1区だった。「夫(未届)」または「妻(未届)」と記載している区は1つもなかった。

また今後、「夫(未届)」「妻(未届)」のように、男女間の事実婚と同様に記載することを「前向きに検討する」と答えたのは杉並区のみだった。

◆東京23区の同性カップルの住民票記載は?

ハフポスト日本版

23区で分かれた「同居人」(同居者)と「縁故者」の記載は、どのように意味が異なるのか。

総務省によると、「縁故者」は親族で、世帯主との続き柄を具体的に記載することが困難な者(事実上の養子など)を表すという。一方、「同居人」は明確に定義しておらず、父や母、妻や夫、兄弟や子供などに該当しないケースで、友人などが当てはまる。

墨田区は同性カップルの場合は原則として「同居人」だが、パートナーシップ宣誓制度を利用して宣誓しているカップルは、親族を表す「縁故者」と記載。

世田谷区、渋谷区、杉並区では、パートナーシップ制度で宣誓した人から申出や希望があった場合、「縁故者」との表記にしているという。

港区は基本は「同居人」と記載しているが、外国人同士の同性カップルの場合は、婚姻の証明が難しいため、「縁故者」としているという。

また、いずれも「事実婚を認めたものではない」としている。

◆今後の方針は?

大村市のケースを受けて、今後男女の事実婚と同様に「夫(未届)」「妻(未届)」とする方針はあるのか。

23区に聞いたところ、杉並区のみが「前向きに検討する」と回答した。岸本聡子区長は6月7日、区議会で「さまざまな影響が考えられるが、これらを乗り越えて希望する当事者に寄り添っていきたい」と表明

同区の区民課は「杉並区だけが取り組むと転出を招くという視点も考慮し、パートナーシップ制度のある13区と意見交換をして、制度との整合性を図りながら検討する方針です」と説明した。

目黒区は「今後、区独自のパートナーシップ制度の導入の機会を捉えて、住民票の記載についても一体的に検討していく」、世田谷区は「大村市のケースを受け、どう対応するかは今後考える」、渋谷区は「未定」と回答。

「総務省の見解を踏まえて対応を考える」や「国の動向を注視する」と回答したのは9区だった。

◆「男女は、結婚も事実婚も選べる」

大村市の対応は法律上、問題にならないのか。また、男女間の事実婚と同様の表記をすることに、どのような意義があるのか。ハフポスト日本版は、結婚の平等を目指す弁護士らでつくる『公益社団法人Marriage For All Japan ―結婚の自由をすべての人に』の共同代表の寺原真希子弁護士に取材した。

住民基本台帳法では、以下のように定めている。

(住民基本台帳の作成)
第六条 市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。

(住民票の記載事項)
第七条 住民票には、次に掲げる事項について記載(前条第三項の規定により磁気ディスクをもつて調製する住民票にあつては、記録。以下同じ。)をする。
四 世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄

(戸籍の附票の改製)
第十九条の二 市町村長は、必要があると認めるときは、戸籍の附票を改製することができる。

(事務の区分)
第四十一条の二 第十九条の三の規定により市町村が処理することとされている事務は、地方自治法第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。

寺原さんは、この規定を踏まえ、「住民票の続柄の記載方法は、法的権限の主体として、自治体が定めることができます」と説明する。

その上で、大村市が同性カップルの続き柄を男女の事実婚と同様に扱ったことについて、「自治体ができる最大限の対応であり、事実上結婚している同性カップルの実態を反映したという点で、大きな意義があります」と評価する。

一方で、東京23区の対応は、配慮をしている自治体でも「縁故者」の表記にとどまった。これについて、寺原さんは「自治体としても迷い、実態に近しい表記にしたいと考えた上での対応なのだと思います」と受け止める。その上で、「今回の大村市の事例で、男女の事実婚と同じ表記にできることが分かったと思うので、同性カップルの実情に沿って、積極的に(大村市などと)同様の対応をしてほしい」と話す。

また今回、同性カップルに対して、男女の事実婚と同様の記載がされたことで、異性カップルの事実婚に認められている、社会保障などの法的保護が同性カップルにも認められる余地が高まった、といえるという。

とはいえ、寺原さんは「法的保護のレベルが段違いなので、事実婚表記は結婚の平等の代替手段にはなりません」と強調する。

「各自治体ができる限りのことをやっていること、それを求めている同性カップルがいるということが改めて明確になったので、国には現状を踏まえて、婚姻の平等の法制化に着手してほしいと思います」

「男女の場合だと、結婚も事実婚も選べます。だからこそ、同性カップルにも両方を認めるよう、並行して動いてほしいです」

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