外務省は、神宮外苑再開発の問題を報告書から削除する要請の撤回を――。
国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の報告書から、明治神宮外苑再開発に関する指摘を削除するよう求めた外務省に対し、市民団体が6月7日、削除要請の取り下げを求める要請書を提出した。
東京・明治神宮外苑では、樹木を伐採して野球場やラグビー場を建て直し、高層ビルを建築する再開発が計画されている。
この計画に対し、国連ビジネスと人権の作業部会は5月、市民との協議が十分に行われていないことなどを理由に「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」と懸念を表明した。
しかし、この指摘に政府は真っ向から反論しており、「報告書には事業者の意見が反映されておらず、公平ではない」「事業者は法に従って環境影響評価を実施しており、住民説明会も開催している」と主張。神宮外苑に関する項目をすべて削除するよう求めている。
この削除要請の取り下げを求めたのは、再開発予定地域の住民らによる「明治神宮外苑を子どもたちの未来につなぐ有志の会」だ。
同会はこれまで、神宮外苑で子どもたちが安心・安全に暮らしていける環境を守るため、市民と対話する場を作るよう再開発の事業者や東京都に求めてきた。
2023年7月には、国連ビジネスと人権の作業部会の聞き取り調査で、再開発では子どもたちの権利が守られる必要があると訴えた。
有志の会は政府の削除要請について「事業者の主張をそのまま政府見解にして、削除要請の理由にするのは公平性を欠く」として、中立性に疑問を投げかけている。
神宮外苑再開発に対しては、国際影響評価学会(IAIA)日本支部や、ユネスコの諮問委員会であるイコモスなども、環境影響評価の内容や進め方に問題があると指摘してきた。
また、住民説明会も参加者が限定され、有志の会の代表である加藤なぎささんも出席できていない。
有志の会は上川陽子外務大臣に対し、削除要請を取り下げるとともに、事業者と専門家、学術研究者らが一堂に会して対話できる場などを求めるよう要請している。
政府の要請は東京都が作成した
「報告書には事業者の意見が反映されておらず、公平ではない」という政府の見解は、再開発事業を承認した東京都の意見をもとに取りまとめられた。
外務省の松尾裕敬サイバーセキュリティ・情報化参事官は6月6日に開かれた参院外交防衛委員会で、この問題についての山添拓参議院議員の質問に答え「神宮外苑部分についての意見は東京都が検討・作成した」と述べた。
さらに「住民に意見を聞いたのか」という質問に対しては「聞いていない」と回答した。
山添議員は、この対応について「政府が主張すべきは事業者の意見を聞けということではなく、事業者に対して住民や専門家や学術研究会との対話を行うよう促すことではないのか」と指摘している。
有志の会の加藤さんも、要請書提出後の取材で、「政府には、事業者だけではなく、市民や専門家らの意見を公平に聞く場を創出してほしいということを改めて要請した」と述べた。