知らない間に、自分の性的な写真や動画がネットで売買されていたらどうしますか。実際にそんな被害が多発しています。一度でも投稿されれば瞬く間に広まり、削除しても削除しても、拡散のスピードに追いつきません。
性的な画像はスマートフォンや写真クラウドのハッキング、元交際相手などからのリベンジポルノ、盗撮など、あらゆる方法で集められます。
子どもの虐待映像までが多く見つかりました。
性的な画像に自宅の住所や名前などの個人情報も付け加えられ、より高値で取引されることもあります。被害者は恐喝やストーカー被害も経験していました。多くの被害者が誰にも言えないまま、一人で苦しみ続けています。
性的な画像を金儲けの道具にしている加害者は、それらをスマホのアプリやSNS、画像の送受信サービスを使って取引します。
中でもアプリは、多額の利益を運営者にもたらします。同じ仕組みのアプリを作り続けている運営者もいます。
深刻なのは、本来は被害に対処すべき役割が機能していないことです。加害者を摘発する警察、アプリやウェブサイトの運営者、SNSや検索エンジンなどの巨大プラットフォームが傍観の姿勢を貫いています。
私は、私自身の友人が被害に遭ったことをきっかけに、2022年からこの問題の取材を始めました。被害者の方々に話を聞き、性的画像の拡散被害が当事者の人生を長期間にわたって壊していく状況を目の当たりにしています。被害を止めたい一心で、今も取材を続けています。
画像の投稿を繰り返す加害者、雲隠れしたアプリ運営者、そして米国に本社を置く巨大プラットフォーム。被害者を追い込む「地獄の構図」に迫った結果を報じていきます。
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(※性被害の実態や加害者の手口を報じるため、この記事は性暴力の描写を含んでいます)
SNSで大量のセクハラDM
何気なく開いたSNS上に突然、自分が写った性的な写真や動画が表示される。画像を見た人たちから、大量のDM(ダイレクトメッセージ)が届く。その日から広がり続ける画像の削除に追われ、人生が壊されていく…。
そんな恐ろしい経験をしているのが、性的画像の拡散に遭った被害者たちだ。
はじめに話をしてくれたのは、私自身の友人だった。彼女はある日、SNSに何十通もDMが届いていることに気付いた。差出人には心当たりがなく、多くが匿名のアカウントだった。
「えっちな写真と動画、流出しちゃってますよ」
「動画みて連絡させてもらいました〜笑笑」
彼女に対し、自分の局部の写真をいきなり送りつけてきた男もいた。
DMの送信相手に彼女が話を聞き出すと、写真53枚と動画19本が画像の送受信が可能なアプリで取引されていることがわかった。どれも他人に送ったことのない画像だ。スマホと連携していたクラウドサービスには、見知らぬログイン履歴が残っていた。ハッキングされていたのだ。
被害発覚から10日ほどで、彼女の画像は862人に購入された。アプリは画像のダウンロード数が表示される仕様になっている。
警察「何度も削除要請するしか」
数日後、彼女は警察に相談の電話をした。被害にどのように対処したらいいかを尋ねるためだ。ある警察署の男性警察官が約30分間にわたり、彼女の状況を聞き取った。
電話口の警察官は、「うーん」と唸ったり、言葉に詰まって数秒間沈黙したりした。アプリの名前を伝えても、知らないという。だが、自分の画像が数百人に拡散されていると伝えると、その警察官はきっぱり言った。
「はっきり言っちゃいますけど、ネット上でそういうふうに拡散されたら、それを完全に無くすということはできない。発見した段階で、何回も削除の依頼をしていただくしかないです」
警察はどのようなことができるのか。彼女はSNSで嫌がらせのメッセージが送られたことも伝え、尋ねた。
「合意なしでアップされた写真にアクセスし、写真の本人に連絡してセクハラすることって何の罪にも問われないんですか?」
相手の歯切れは悪い。
「それは場合によりますね。どういうふうに連絡が来ているのかをみないとわかりませんし、そもそもそのー…まあ今名誉毀損とかいろいろありますので」
「警察でやる事件というのは、相手に罰を与えたい…ということで事件化するんですね。だから名誉毀損で慰謝料を請求したいとなれば、民事の裁判もできるというのは実際あります。そこはあなた次第ですけど。民事の話は弁護士さんとかに話してもらって」
だが彼女は相手に罰を与えたいのではない。今も広がっている自分の被害に対処してもらうことが先決だ。しかし、警察官は「アプリの運営者に削除依頼をしてほしい」と繰り返すばかりだった。
彼女は言う。「自分の身に起こったことだって、考えないようにするしかない。考えたら生きていけないから」。
突然被害に遭い、警察は対処できないと言う。出回ってしまった画像を、完全に削除できる方法もない。あまりに理不尽である。これは彼女の身だけに起きていることなのだろうか。私は取材すると決めた。
スクロールで出てくる顔・顔・顔
取材し始めてみると、彼女が被害に遭ったのと同じ方法で、ほかにも大勢の女性が被害に遭っていることがわかった。主に使われていたのが、「動画シェア」や「アルバムコレクション」というアプリだ。どれも画像を取引する仕組みが酷似している。
例えばSNSで「動画シェア」と検索すると、顔写真付きの投稿が大量に出てくる。「写真に写っている女性の性的画像が買える」という宣伝だった。スマホをスクロールすればしただけ、次々と別の女性の顔が出てくる。駅やトイレなどで盗撮されたと見られるものも多い。
数の多さに、初めは私も怯んでしまった。「この中に自分の知り合いや、まして自分自身がいたらどうしよう」と何度も思った。
だが取材を進めると、その度に深刻な状況に直面する。やめるわけにはいかない。
自宅に消印のない手紙、帰り道にストーカー
被害はオンライン上にとどまらない。
別の被害女性は、5年ほど前、元交際相手がインターネットの掲示板にリベンジポルノの投稿をした。相手は投稿してから1時間ほどで削除したと弁明したが、女性の画像はあっという間にアプリやSNS、性的画像の集まるウェブサイトへ広がった。
彼女の生活は一変した。
被害を知った当初は、自力で投稿を探しては運営者に削除の依頼を送った。だが次第に追いつかなくなった。
外に出ることが怖くなり、仕事を休んで自宅に閉じこもった。街中を歩いていると、この中に自分の動画を見た人がいるのではないかという恐怖に駆られるのだ。
数カ月かけて少しずつ外に出るようになったが、通勤の帰り道では誰かに後をつけられていると感じた。1度や2度ではない。
ある日突然、手紙が自宅のポストに届いたこともある。内容は動画の流出を伝えるものだ。手紙に消印はなかった。誰かが自宅のポストに直接投函したのだろう。
すぐに当時の自宅からは引っ越した。だが、どこにいても誰かが自分のことを知っているかもしれない、という不安は消えない。
その頃、女性は自殺をはかった。病院へ運ばれ、一命は取り留めた。
今も時折、彼女の画像はネットに投稿されている。外を歩くときは、マスクとメガネをつけて顔を隠す。髪型も大きく変えた。人の目に怯える気持ちは消えない。
「持ってるだけ金送れ」
性的画像をネタに、金を要求する恐喝被害まで出ている。
2023年の12月頃、ある男性はXで自らと相手の女性が写った性的な写真と動画が投稿されているのを見つけた。写真や動画を第三者に送ったり、見せたりしたことはないので驚いた。投稿はすでにインプレッションが数百万に上っていた。
写真と動画はあっという間に広がった。アルバムコレクションや動画シェアのほか、「カプセルシェア」というアプリでも取引が見つかった。
「すぐになんとかしないと」
そう考えた男性は、自分の画像を投稿していた人物に削除を頼むことにした。
ところが男性がXのDMで複数人に連絡を取ると、削除の「交換条件」として金を要求するものが出てきた。
ある投稿者は男性の画像を、金を払って入手したと主張した。被害画像を「商品」のように扱い、「タダで削除するのは金をドブに捨てるのと同じ」、「5000円なら払えないのか」などと迫った。
投稿者は、匿名で相手に送ることができるAmazonのギフトカードや、PayPayでの送金を男性に求めた。Amazonギフトカードはコンビニなどで購入できる。カードに記載の番号を入力するとAmazon Storeなどでの買い物に使える。受け取ったカードを換金してしまえば足がつかない。
男性は投稿者たちの要求に応じた。誰にも相談できなかった。
だが要求はエスカレートする。金を払わなければ、男性の写真や動画を拡散すると脅迫するものさえいた。
「持っているだけの金を全部送れ」
「みんなで拡散しまくることにします」
男性は合計15万円以上を複数の相手に支払ってしまった。
性的な画像をもとに、金を要求したりさらに画像を送るよう脅したりする行為を、セクストーションという。性(Sex)と恐喝(Extortion)を組み合わせた言葉だ。
性的画像の拡散被害などの当事者を支援するNPO法人「ぱっぷす」では、セクストーションの被害相談が急増しているという。セクストーションに関する新規の相談人数は、2022年度に171人。2023年度には560人と3倍以上に増えた。警察の公式統計はない。
ぱっぷす理事長の金尻カズナさんは、すぐにできる対応として「一度でもお金を支払えば、要求は続いてしまう。1文字でも情報を送らず、すぐにブロックなどの対応をしてほしい」と話す。
だが被害者が警察に相談しても捜査は進まない。「加害者側の“逃げ得”状態」だという。
泣き声あげる子ども
性的画像で脅して金を巻き上げるのは、当然犯罪行為だ。本人に無断で性的画像を拡散したり、拡散する目的で提供したりすることもリベンジポルノ防止法に違反する。2023年の刑法改正で、盗撮を罰する撮影罪もできた。
ただ私が取材を進める中で、とりわけ耐え難かったことがある。
子どもが性の対象とされ、虐待されたり盗撮されたりしている映像までが売買されていたことだ。
アプリの動画シェアとアルバムコレクションでは、数日間調べただけで200本以上の子どもの被害映像が見つかった。被害者はもっとも小さくて3歳ほどの幼児から、小学生、中学生、高校生とほとんど全ての年代の未成年だ。
映像の中で子どもたちに対して行われていた性的虐待は、多岐にわたる。
多かったのは、裸の胸や局部を撮影されているもの、学校や施設と見られる場所での着替えやトイレの盗撮、大人との性交や性的行為を強制されている映像だ。
さらには、子ども自身が撮影したような「自撮り」の映像や、服を着た状態の映像までが性的商品となり、取引されていた。
子どもたちは、笑顔で応じている子もいれば、呆然としていたり、泣き声を上げて身をよじったりしている子もいた。
子どもの年齢を「付加価値」にする加害者
動画を撮影する加害者や、それを売り買いする者たちにとって、子どもたちの年齢は「付加価値」になる。未成年であることを強調するため、動画内に登場する子どもに年齢を言わせる場面も見つかった。
ある動画では、女の子と性行為をしている撮影者が、「何歳なの?」「どこ中なの?」と尋ねている様子が撮影されていた。女の子は問いかけに答え、年齢と通っている中学校名を口にした。フォルダ名と一緒に投稿された説明文には「14歳の障害者を屋外で」とあった。
別のフォルダには、22本の動画が入っていた。これらは全て公共施設などのトイレで盗撮されている。トイレの中に盗撮用のカメラが仕掛けられているのだ。映像には小学校低学年から中学生ほどの女の子が、顔出しで写っていた。
これだけの画像を取引しているのは、一体どんな人物たちなのだろうか。オンライン上のそうした人物は、必ず匿名だ。ばれることはないと、高を括っている。実際に今も平気で取引を続けている。
私は次に、性的画像の取引の仕組みと、加害者の姿に迫ることにした。
=つづく
【取材・執筆=辻麻梨子(@marikotsuji15)/ Tansa】
▽専門家や支援機関への相談先
自分の性的画像が無断で投稿されている、性的画像を元に脅迫や強要を受けているといった場合に無料で相談できる専門窓口があります。
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター:性犯罪・性暴力に関する相談窓口です。産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携しています。
NPO法人ぱっぷす:リベンジポルノ・性的な盗撮・グラビアやヌード撮影によるデジタル性暴力、アダルトビデオ業界や性産業にかかわって困っている方の相談窓口です。
よりそいホットライン:電話、チャット、SNSなどで性的被害について専門相談員に相談ができます。
インターネット・ホットラインセンター:児童ポルノなどを見つけた場合に通報することができます。通報をもとに、センターが警察に情報提供したり、サイト管理者等に送信防止措置を依頼します。
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