肌の色や「外国人ふう」の見た目などを理由とした人種差別的な職務質問(いわゆるレイシャル・プロファイリング)を巡り、松村祥史・国家公安委員長は6月6日の参議院内閣委員会で、レイシャル・プロファイリング防止のガイドラインの策定は必要ないとする見解を示した。共産党の井上哲士議員の質問に対する答弁。
レイシャル・プロファイリングを巡っては、日本で暮らす外国出身の3人が、警察官から人種差別的な職務質問を繰り返し受けたとして1月、国、東京都、愛知県を相手取り損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した。
原告側はこの裁判で、外国人への職務質問を推奨する趣旨の警察の内部資料などを証拠として提出している。
訴状によると、愛知県警の地域総務課が作成した文書『執務資料 若手警察官のための現場対応必携』(2009年)には、「不良来日外国人の発見」という項目の中で次のような記載があったという。
「心構え ☆旅券を見せないだけで逮捕できる! ◎外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等 何でもあり!! ◎応援求め、追及、所持品検査を徹底しよう!!!」
「一見して外国人と判明し、日本語を話さない者は、旅券不携帯、不法在留・不法残留、薬物所持・使用、けん銃・刀剣・ナイフ携帯等 必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底的した追及、所持品検査を行う」(原文ママ)
この資料をハフポスト日本版が2024年1月31日付で愛知県警察に情報開示請求したところ、「廃棄済み」として開示されなかった。
井上議員は、愛知県警の執務資料がいつまで使用されていたかを質問した。警察庁の檜垣重臣・生活安全局長は、「ご指摘の資料について愛知県警察に確認したところ、法律の改正があった場合や社会情勢の変化等、見直しが必要な都度更新している資料であり、更新日は確認できないという報告を受けています」と説明した。
この内部文書を愛知県警が作成していたことを、事実上認めた形だ。
裁判では愛知県警の資料の他にも、「外国人は、護身用の刃物や違法薬物等の禁制品を所持していることが多いため、細部まで徹底した所持品検査等を実施する」と記載された警察官の昇任試験用のテキスト(2021年発行)なども証拠として提出されている。
こうした資料を踏まえ、井上議員は「入手可能な極めて限られたものでさえこうした記載があるわけで、外国人であることだけで職務質問するという運用が警察内部で教示・推奨されてきたんじゃないか。こういう資料について、過去のものも含めてお調べいただきたい」と求めた。
松村氏は、職務質問の法的根拠である「警察官職務執行法」第2条に基づき指導してきたなどとして、「都道府県警察の執務資料の一つひとつについて、確認する必要はないものと考えております」と発言。調査はしないとの姿勢を示した。
ハフポスト日本版が2023年、全国の47都道府県警察に調査した結果、警察官による人種差別を防止するためのガイドラインを作成している警察は「ゼロ」であることが判明した。さらに、警察庁による全国統一のガイドラインもないことが同庁への取材で明らかになっている。
井上議員は、「レイシャル・プロファイリングを根絶・予防するためには、どういう行為が人種差別に該当し、許されないのかということが警察の組織内で共通認識にならないといけない」「幹部も含めてガイドラインの策定や人権の教育・研修をきちっと行う必要があると思います」と指摘した。
松村氏は「警察官による職務質問は、警察官職務執行法第2条に規定されており、職務質問の要件はこれに尽きているものと承知いたしております」として、ガイドラインの策定もしないとの見解を示した。
わずか6件「まともな調査とは言えない」
人種差別的な職務質問の問題が明るみになる中、警察庁は2022年、「人種」や国籍などを理由とした職務質問に関する調査を実施。その結果、4都府県警の計6件で「不適切・不用意な言動があった」と認めた。
調査は、2021年に全国の都道府県公安委員会などに寄せられた職務質問に関する相談が対象。
このうち、人種や国籍、髪型などの容姿、服装といった特徴を理由とした職務質問の相談を都道府県警が抽出し、警察庁が各ケースを精査した。
都道府県警察が警察庁に報告した精査対象の件数を井上議員が尋ねたところ、同庁は40件だったと明かした。
井上議員は、東京弁護士会が同年に公表した調査結果(有効回答数2094人)と数字が乖離している点を問題視した。
その上で、「警察から差別的な職務質問を受けて不愉快な思いをした人が、公安委員会や警察に相談するのか?ましてや日本語以外の言語の方はより(苦情を申し出るのが)困難なんですよ。およそまともな調査と言えない。これで適切にやったとは到底言えません」と批判した。
同庁は、同様の全国調査はその後行っていないと説明した。
日本のレイシャル・プロファイリングを巡っては、外国公館からも注意喚起が出た。
在日アメリカ大使館は2021年12月、「レイシャル・プロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった」として、日本で暮らすアメリカ国民にSNS上で警告を出した。
国連の人種差別撤廃委員会の一般的勧告(2020年)は、「レイシャル・プロファイリングとの効果的な闘いには、人種差別を禁止する包括的立法が欠かせない」と指摘し、禁止法の策定や実施を各国に求めている。
【アンケート】
ハフポスト日本版では、人種差別的な職務質問(レイシャル・プロファイリング)に関して、警察官や元警察官を対象にアンケートを行っています。体験・ご意見をお寄せください。回答はこちらから。