日本での就労を希望する留学生の就職活動をサポートしようと、就活情報を英語と日本語で発信したり、元留学生の社会人とつながれる場を提供したりするサービスが始まっている。
スタートアップ企業の「SPeak」(東京都)は、就活中の留学生向け情報サイト「JPort Journal」と、企業とのマッチングサイト「JPort Match」を運営している。後者は、海外展開を加速させたい準大手・中小企業、理系の採用を強化するメーカー、外資系企業など約40社が登録する。
留学生と企業側は今、それぞれ就職と採用面でどんな課題を抱えているのか。「留学生向けマッチングサイト」のメリットとは?サービスを利用した留学生や企業に聞いた。
同級生の内定に焦り...Senpaiが支えに
「JPort Journal」は、日本の就活のスケジュールをはじめ、エントリーシートの提出から採用までの流れ、自己分析の方法といった、就活に役立つポイントをまとめた動画や記事を英語と日本語で公開している。
このほか、日本の大学での留学を経て日本企業に就職した「Senpai(先輩)」たちが体験を語るインタビュー記事も掲載。就職支援のコンテンツとして、国内の複数の大学がJPort Journalの利用を留学生に推奨している。
留学生はサービスを無料で利用できる。登録すると、興味のある業界で働くSenpaiに相談や模擬面接を依頼したり、就活中の留学生同士が交流するイベントに参加したりすることができる。
ベトナム出身のグエン ハー リンさんも、サービスを利用した元留学生のひとりだ。
ベトナムの高校を卒業後、2018年に関西の大学に入学したリンさん。3年生になり、日本で働きたいと考えたものの、具体的に何から始めれば良いか分からず不安になったという。
「大学にも就職サポートセンターがありましたが、留学生支援に慣れていないようで、語学面など日本で就活する上での悩みをなかなか理解してもらえませんでした」
就活を始めた3年の秋ごろに、リンさんはJPort Journalを知り登録した。サイトで日本の就活に関する記事を読んで情報収集したほか、Senpaiにも相談できたことが精神的な支えになったという。
「周りの日本人の友達が次々に内定をもらっていて焦った時、Senpaiが『必ずしも3年生の時期に内定をもらわなくても大丈夫。インターン経由での採用や、募集開始が遅い企業もある』とアドバイスしてくれたので、気持ちが楽になりました」
就活で忙しい時期に睡眠や食事をどうコントロールしたら良いか、といった生活面での心配事を相談することもできたという。
書類審査で落とされたり、最終面接で不採用となったりしたときにも、JPort JornalのスタッフやSenpaiからフィードバックをもらった。自分の好きなことや強みを面接で伝えられるようになり、最終的に第一志望のメーカーに就職することができた。
リンさんは「就職活動の大変さを味わってきたので、自分と同じようにしんどい思いをする留学生たちの力になれるよう、これからはSenpaiとして経験や知識を伝えたい」と語る。
元留学生自ら、「留学生目線」のサポート
JPort Journalは4年前にスタートし、登録者数はSenpaiなど既卒者を含めて現在5500人超。留学生たちの出身国は世界146カ国に上る。記事や動画といったコンテンツを日本語と英語で提供している点も特徴の一つだ。
JPort Journalで学生支援とコミュニティマーケティングを担当するヴィズコンデ ニコールさんも元留学生で、日本での就活の壁を自ら経験している。
「特に留学生の少ない大学だと、留学生向けの就活支援も情報提供も不足しているので、就活の準備が間に合わず希望する企業に応募すらできないケースもあります。私自身、ESが通っても面接でうまく答えられずに辛い思いをしました」
そうした経験から、ヴィズコンデさんはSPeakに入社後、「留学生目線」のサポートを心がけるようになったという。
「日本が好きで日本で働きたいと思っても、就活でうまくいかずに諦めるべきかと悩んでいる学生がいます。そういう留学生たちに、日本で働くSenpaiとつながれるコミュニティを通じて、日本でもキャリアパスを描けると実感してもらいたいです」
企業からも学生にアプローチできる
JPort Journalが留学生向けのラーニングサイトであるのに対し、「JPort Match」は日本の企業と就活中の留学生のマッチングが目的のサービスだ。
登録した企業は、登録料をSPeakに支払うことでサイトに自社の採用情報を英語と日本語で掲載できるほか、JPort Journalを利用する留学生とも直接メッセージをやり取りすることができる。
プラント設備を製造・販売する「サンテック」(香川県)は2024年度、JPort Matchを通じて中国出身の新卒者を採用した。この新入社員は、米国の大学を卒業し、日本語・英語・中国語に長けたトリリンガルだ。さらにJPort Matchを通じて、日本の大学を卒業予定のタイ出身の学生が新たに入社することも決まっている。
同社社長の青木大海(ひろみ)さんは、JPort Matchのメリットとして、学生と直接連絡を取れる点を挙げる。
「海外の仕事をさらに受注していこうと戦略を練っている中で、多言語に精通した学生にどうアプローチするかは、私たちを含めて多くの日本企業にとって重大な課題です。JPort Matchは学生の使用言語や専門などの情報を見た上で本人とチャットができるので、『待ち』のリクルートではなく企業側からもアクションを起こせます」
サンテックの社員のうち外国籍者は25%ほどを占める。全社員の出身国の国旗を会社のエントランスに掲揚しているほか、避難経路の多言語表記、礼拝所の設置、日本語クラスの提供といった、多様なルーツの社員が働きやすい取り組みを実践している。将来的には、外国籍の社員を半数まで増やしたいという。
「新しい発想を求められる部署では、特に若い世代のバイリンガルを採用したいと考えています。留学生本人が実現したいことと会社のビジョンがうまく合うかを見極める上で、マッチングサイトのシステムは魅力的です」(青木社長)
採用をインクルーシブにすることの相乗効果
SPeak代表取締役CEOの唐橋宗三(ひろみ)さんは、留学生の就活支援は、学生本人だけではなく日本企業や社会にとっても相乗効果があると強調する。
「例えば、海外の特定地域のマーケットに関してその地域の出身者であればローカルの文化に精通しており、就職した企業の製品やサービスを学べば、入社後により活躍を期待できます。
採用をインクルーシブにすることで、学生はもちろん日本の企業にとっても社会にとっても良い効果が生まれています。日本に留学した学生が就職するためのビザ(在留資格)の変更は規制緩和によりハードルが低くなっていることも、追い風になっています」
JPort Matchに登録する約40社のうち、多くはすでに外国籍の社員を雇用する企業だ。海外展開に力を入れる準大手や中小企業のほか、バイリンガル人材を必要とする外資系企業、理系の専門職を募集する日系メーカーが中心という。
唐橋さんは「今後は『外国出身の社員が少ない、あるいは現状いないけれど採用したい』という会社にも広げていきたい」と話し、企業側への働きかけを強化していくという。
さらに、留学生など外国出身者が賃貸住宅の契約やクレジットカードの作成を断られるケースがあるとして、SPeakでは今後、留学生のキャリア支援に加えて住まいやファイナンスの面でのサポート事業も展開する予定だ。