海水からトリチウム検出…共同通信の記事に「ミスリード」の声。取材に「その都度判断」

共同通信が配信した福島第一原発の処理水に関する記事の見出しが、ミスリードにつながるといった声が上がっています。同様のケースは過去にもありました。【ファクトチェック】【メディアと差別】

東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を巡り、共同通信が5月7日、「海水からトリチウム検出 原発処理水放出口付近」という見出しで報じたことについて、ミスリードにつながるといった声が上がっている。

東京電力は同日、5回目の海洋放出を完了。6日に福島第一原発の処理水放出口付近の海水から1リットルあたり13ベクレルのトリチウムが検出されたと発表した。

この「13ベクレル」は、世界保健機関(WHO)の飲料水基準である1万ベクレルを大きく下回る数字だが、共同通信は見出しに「トリチウム検出」とのみ記述し、基準値を下回っているという情報を入れなかった。

福島の安全に関する情報は丁寧に扱う必要があるが、なぜ共同通信はこのような見出しにしたのか。ハフポスト日本版は見解を聞いた。

トリチウムは海水にも存在

東京電力によると、5回目の放出は4月19日から行われ、約7800トン分の処理水が海洋に放出された。

福島第一原発から3キロ以内のトリチウム濃度は1リットルあたり最大29ベクレルで、放出停止判断レベル(1リットルあたり700ベクレル)を大きく下回った

そもそもトリチウムは大気中の水蒸気や雨水、水道水、海水にも含まれており、人間の体内にも存在する。つまり、海水からトリチウムが検出されることは不思議なことではない。

トリチウムが出す放射線のエネルギーは非常に小さく、紙1枚でさえぎることができ、フランスや中国、韓国など世界中の原子力施設から海に放出されている。これまで、周辺からトリチウムが原因とされる影響は見つかっていない。

福島第一原発の処理水も、トリチウムが国の安全基準の40分の1、世界保健機関(WHO)飲料水基準の約7分の1(同1500ベクレル)未満まで薄められ、海洋に放出されている。

安全基準を満たした上、放出する総量も管理して処分されているため、などは環境や人体への影響はないとしている。

「海水からトリチウム検出」と書かれた共同通信の見出し
「海水からトリチウム検出」と書かれた共同通信の見出し
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共同通信の見解は

5回目の放出が完了した5月7日に、共同通信が公開した記事の見出しは「海水からトリチウム検出 原発処理水放出口付近」となっていた。

記事中に「福島第1原発周辺で6日に採取した海水から、1リットル当たり13ベクレルの放射性物質トリチウムを検出した」や「世界保健機関(WHO)の飲料水基準(1万ベクレル)は大きく下回っている」などと記載したが、その情報を見出しに反映しなかった。

ほかの主要メディアも同日、5回目の放出が完了したことを伝えたが、見出しは「福島第一原発の処理水 5回目の放出完了 東京電力」(NHK)や「福島第一原発の処理水の海洋放出、5回目完了 約7800トン分」(朝日新聞)などとしていた。

ハフポストがネット上を調べた限り、見出しに「トリチウム検出」とだけ書いた主要メディアは共同通信のみで、東京新聞は「原発処理水の海洋放出、5回目を完了 海水から29ベクレル検出に東京電力『放出水が少し高めの数値だった』」と記載していた。

もし、事情がわからない人が共同通信の見出しだけを見た場合、処理水の海洋放出が危険なものだと誤解してしまう恐れがある。

ハフポスト日本版は5月9日、共同通信にメールで質問状を送付。見出しをつけた部署、「基準値を下回った」などの記述を見出しに入れなかった理由、ミスリードを誘う可能性に対する認識など、5つの質問を記載した。

共同通信からは5月17日に回答があったが、5つの質問に答えず、次のようにまとめて記載した。

「共同通信は、東京電力福島第1原発の処理水放出期間中、周辺海域のトリチウム濃度分析結果を、検出できる下限値未満だった日を含めて毎日、短い記事にして配信しています。見出しの取り方についてはその都度判断しています」

同様のケースは過去にも

福島第一原発の安全に関する情報にもかかわらず、ミスリードにつながる恐れがある見出しの記事が配信されたケースは過去にもある。

NHK福島放送局は2023年2月7日、「水揚げされたスズキから基準を超える放射性物質検出 出荷停止に」と書いた記事をTwitter(当時)に投稿した。

同日に福島県いわき市沖で水揚げされたスズキから、1キロあたり85.5ベクレルの放射性セシウムが検出されたことを伝えたが、超えた「基準」はあくまで県漁連の「自主基準」(1キロあたり50ベクレル)で、国の一般食品の基準(同100ベクレル)は下回っていた

つまり、スズキから検出された放射性セシウムは、そもそも日本の一般食品の基準値を15ベクレルほど下回っていたが、NHK福島放送局はこの情報を見出しに反映しなかった。

厚生労働省は、この1キロ当たり100ベクレルという基準値を「だれが食べても安全」と説明している。県漁連の自主基準も、「万が一にも国の基準値である100ベクレルを超えるものを出荷しないようにするため」で、危険性を示す明確な根拠があるわけではない

NHK福島放送局はそれから2日後の9日、「『スズキから基準超える放射性物質検出』という見出しをつけていましたが、正確には『自主基準』でした」と再投稿した。

「スズキから基準超える放射性物質検出」と書かれたNHK福島放送局の投稿(2023年)
「スズキから基準超える放射性物質検出」と書かれたNHK福島放送局の投稿(2023年)
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