NHK連続テレビ小説『虎に翼』にハマってしまった。毎日欠かさず朝ドラを見るのはいつぶりだろう。主人公・寅子(ともこ)の言動にはハッとさせられることが多い。なんというのか……フェアな人だ。そうあり続けるために努力して、媚びず、自分をごまかさない。法律や人権といったことをテーマにしつつ、制作側が「こんなこと扱ったら引かれるかな、難しくて見てもらえないのでは」なんて迷わず、見る側を信頼してくれる感じも快い。
朝ドラは魅力的なキャラクターをたくさん生み出してきたが、「この主人公は社会を良くするな、いい影響を与える存在になる」と感じたのは初めて。毎朝、爽快な新しさを感じている。
さて『虎に翼』では、定期的に甘味処(かんみどころ)が登場する。いわば当時のカフェであり、寅子が同級生とおしゃべりや相談をする場として活用されていた。神田須田町にある昭和5年(1930年)創業の「竹むら」がモデルとなったよう。ドラマの法律考証を担当されている明治大学の村上一博教授が、制作スタッフに店を紹介したと大学のサイトに記されている。
豆の香りがよい、ほくっとしたあんこ
実際、店内の感じなどがよく似ていて、久々に訪ねたくなった。もともと人気の店だが、平日の13時過ぎに行ってみると8人ほどの行列が。並んで20分ほどで入れたので、あんみつを注文。『虎に翼』を見ていてあんみつを食べたくなった人、かなり多いんじゃないだろうか。
「竹むら」のあんみつ、私はなんといってもあんこのおいしさに惹かれる。豆の香りがよくて、しっとりかつ、ほくっとしたあんこの具合。素朴過ぎず上品過ぎない、なんとも深い甘さ。まずその口どけをスプーン一杯分ゆっくりと味わう。その後に黒蜜をかけて、寒天やフルーツと一緒に楽しみながら、赤えんどう豆の塩気で口直し。あんみつの醍醐味はいろんな味の掛け合わせの妙だ。
店舗は奇跡的に太平洋戦争の空襲と類焼を免れ、戦前からの姿と雰囲気を残している。寅子たちの歓談も、戦中の人々の阿鼻叫喚も、この柱や天井や屋根は聞いてきたのだ。岸朝子さん監修の『東京 五つ星の甘味処』(東京書籍)によれば「饅頭作るより建物の維持のほうが大変」と2代目ご主人が話されていた。往年の東京の姿を偲びうる貴重な1軒でもある。
さて、あんみつのおかわり。次は湯島に移動しよう。
「つる瀬本店 喫茶室」の小倉あんみつが好きなんだ。こちらの小倉アイス、甘さはしっかりありつつさっぱりとして後口がよく、あんこや黒蜜をからめても重たくならない。赤えんどう豆のほっくりした炊き具合もよくて、ほどよく柔らかくなった小倉アイスに2~3粒からめて口に運ぶと、もうおいしくて、うれしくて。小粒に切られた寒天、しなやかさを極めた求肥(ぎゅうひ)も実にいい。
求肥といえば、たまに「別に入ってなくても……」なんて声も聞くのだけれど、私は絶対に入っていてほしい。あの懐かしい薄甘さと存在感が妙に好きなのだ。
あんみつのメンバーにはそれぞれ役割がある。主役にして甘い満足感の根源となるあんこや蜜、見た目の涼やかさとさっぱり感を担う寒天、塩気で箸休め的な役目も果たす赤えんどう豆、甘い中に酸味を感じさせ舌に元気をくれるフルーツ連、そしてもっちりした食感でアクセントとなる求肥。いろんな風味食感の集合体があんみつだ。お店ごとの“編成”の違いを楽しむのがまた一興だと思う。
あ、いかんいかん。
杏(あんず)についても書いておきたい。あんみつに添えられているとうれしいのが干し杏ですね。「つる瀬本店 喫茶室」のは肉厚で酸味もしっかりと感じられ、蜜やあんこに負けない甘酸っぱい存在感がとりわけ光る。他のフルーツにはない清涼感をもたらしてくれるんだなあ。
西の方では、あんみつに杏はあまり添えられないと聞く。不勉強ながら私は関西であんみつを食べたことがない。次に旅をしたら課題としたい。
ちなみに、あんみつは夏の季語。国弘賢治氏の俳句に「みつ豆はジャズのごとくに美しき」というのがある。ジャズのセッションが生み出す自由で即興的な響きやメロディは、あんみつのメンバーが口の中で重なりあって生み出すおいしさと確かに似通うような。
一方、あんみつの名店「みはし」は同店のウェブサイトで「あんみつは味のシンフォニー」と言い切る。寒天や赤えんどう豆が交響楽団のメンバーみたいにホールで並んでいる姿を想像してしまった。指揮者はお店のご主人たちと考えると、納得。ちなみに「みはし」のホームページには、あんみつにおける「みかんの酸味」は「シンフォニーで言えば、シンバルの一発」なんて印象的な言葉も。洒落た表現に唸った。