日本を代表する演劇やミュージカルの聖地である帝国劇場(東京・丸の内)が、老朽化による建て替えのため、2025年2月に休館する。
この建て替え計画をめぐり、障害のある舞台ファンや関係者、支援者らは運営会社の東宝に対し、障害のある当事者の意見を聞いた上で、建物のバリアフリーや、字幕や音声ガイドなどの情報保障が充実した劇場として生まれ変わるよう求め、署名活動を開始。5月10日、東宝に対し2万1000筆超の署名を提出し、担当者と面会を行なった。
当事者らの要望を東宝はどう受け止めたのか、取材した。
台本データの閲覧だけでは不十分
障害のある舞台ファンや手話通訳、舞台関係者らが集まった市民団体「We Need Accessible Theatre!(ウィー・ニード・アクセシブル・シアター)」は東宝に対し、帝国劇場の建て替えについて、「観劇経験のある障害当事者の声を聞き、みんなで楽しめる劇場を作る」よう要望している。
同団体への賛同者で、障害のある当事者からは、帝国劇場で十分な観劇サポートを受けられなかった体験も複数寄せられたという。
▽具体例
車椅子ユーザー:「車椅子席は最後列の端や扉の真横にしかなく、最後列では前列の人の頭で舞台が見えず、扉の真横の席では、本来の客席からは見えないはずのキャストの動きが見えてしまった」
聴覚障害者:「リアルタイム字幕や舞台手話通訳、ヒアリングループ等の観劇サポートを事前に相談したが断られた。台本データを閲覧する端末を借りることができたが、役者がどの台詞を話しているのか分かりにくかった」
視覚障害者:「一人で楽しみたいと思っても介助者が必要で、そのチケット代も高いハードルだった。作品を楽しむための音声ガイドもなかった」
同団体は10日の記者会見で、障害のあり方や、それに伴う観劇のサポートの方法は多様であると言及。段差を解消するなどの建物構造のバリアフリー化や、字幕や手話・文字通訳、音声ガイドなどの情報保障の充実といったアクセシビリティの向上には、「当事者とともに伴走する、作り上げていく姿勢」が大事だと指摘した。
実際に障害のある当事者にヒアリングしたり直接関わったりして制作され、アクセシビリティが評価されている劇場もあるといい、署名活動とともに行ったアンケートでは「東京芸術劇場」や「新国立劇場」などが挙がった。
東宝との面会では、こうした障害のある観劇ファンの体験や、他の劇場での観劇サポートの取り組みを伝え、当事者にヒアリングをした上で建て替え計画を進めるよう要望したという。
東宝の受け止めは?
記者会見後、ハフポストは東宝に対し、この要望の受け止めや今後の対応方針などについて、文書で尋ねた。
帝国劇場の建て替えに伴うバリアフリーなどの設備の検討については、「社外の専門家・コンサルタントの助言を得ながら進めております」と回答があった。「We Need Accessible Theatre!」が要望する、障害のある当事者へのヒアリングに関しては、現段階では予定していないといい、「当社としては、『全てのお客様に演劇を楽しんでいただける劇場を作る』という考えのもと、今後も幅広い方々のご意見を参考にしながら検討を進めてまいります」と答えるにとどめた。
なお、帝国劇場などが入る「帝劇ビル」と、隣接する複合ビル「国際ビル」の建て替えは、東宝と三菱地所と出光美術館が3社共同で進めているが、帝国劇場の設備などについては、東宝が検討しているという。
障害を理由にした差別を禁じ、障害のある人への合理的配慮の提供を行政や企業に求める障害者差別解消法は、4月に改正され、合理的配慮の提供は民間事業者の法的義務となった。
この法改正を受けて、劇場のアクセシビリティの向上を目指した取り組みについても東宝に尋ねたが、回答はなかった。帝国劇場の建て替えの設備などに関する計画の公表時期については「未定」とした。