「JERRY GOODE」という名前で活動している人物が、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出以降、SNS上で誤情報や根拠不明な情報を繰り返し発信していたことがハフポスト日本版の取材で分かった。
「JERRY GOODE」は、中国国営のニュースチャンネル「CGTN」や中国国営英字紙「チャイナ・デイリー」で、「南アフリカ出身のブロガー」「中国在住で南アフリカ出身のコンテンツクリエイター」として紹介されており、自身のYouTubeチャンネルにも中国での生活に関する動画を投稿している。
「fukushima」と記載した上、「頭が二つある突然変異のカメが福島原発の隣で生まれた」や「福島原発近くでウミガメが打ち上げられた。処理水による最初の犠牲」などと発信しており、福島県への差別や偏見につながった可能性がある。
何千匹もの魚が毒されている➡︎根拠なし
「JERRY GOODE」は、Xで3万人のフォロワーがいる。記者が4月28日、ユーザー名「@MrJerryGoode」と「fukushima」を合わせて検索すると、誤情報や根拠不明の情報が次々に表示された。
例えば、2023年12月10日、北海道・函館の海岸でイワシなどの魚が大量に打ち上げられているのが見つかった出来事を受け、次のように投稿している。
「Japan has officially destroyed our beautiful and much-needed ocean life with their discharge of Nuclear Contaminated Waste Water into the sea. Here we see thousands of fish poisoned by the Japanese government」
(意味:日本は核汚染水を海に放出し、私たちに欠かすことができない美しい海洋生物を破壊した。ここでは、日本政府によって何千匹もの魚が毒されている)
この出来事を巡っては、英大衆紙「デイリーメール」も処理水の海洋放出と魚の打ち上げを関連付けるように報道。ハフポストは12月11日、「根拠のない憶測」としてファクトチェックしている。
具体的には、北海道立総合研究機構の函館水産試験場に所属する藤岡崇専門研究員藤岡崇専門研究員と、海洋生物の行動に詳しい北海道大学大学院水産科学研究院の中屋光裕准教授に取材し、大量のイワシが打ち上がった理由は「クロマグロやイルカなどまとまった数の大型の捕食者に追われてパニックになった」ことなどが考えられるという見解を得た。
つまり、処理水の海洋放出によって何千匹もの魚が「毒された」という根拠はない。
ウミガメが最初の犠牲➡︎根拠不明
また、「JERRY GOODE」は23年8月29日、Xにこう投稿した。
「So it begins......The Fukushima “treated wastewater” released into the Pacific Ocean on the 24th of this month killed the first innocent victim. This beautiful Sea Turtle washed up on the beach yesterday near the Fukushima Powerplant」
(意味:今月24日に太平洋に放出された福島の「廃水処理水」によって、罪のない最初の犠牲が出た。この美しいウミガメは昨日、福島発電所近くの海岸に打ち上げられた)
この投稿には動画が添付されており、カメのような生物が浜辺でひっくり返っている様子が映っている。映像には「成都日報」や、中国語で「現地時間8月27日 日本千葉九十九里」「日本の浜辺にいた男性が海岸に打ち上げられたウミガメを目撃した」という文字も記載されていた。
この動画を画像検索にかけたところ、中国のSNSで一時期話題になっていたことがわかった。しかし、Google上で「8月27日 ウミガメ 九十九里」と検索しても、関連ニュースは表示されず、実際に日本で撮影されたものなのかどうかも確認できない。
そもそも処理水の海洋放出の安全性については、国際原子力機関(IAEA)が「人や環境に対する放射線影響は無視できるほどである」と評価している。処理水によってウミガメが死んだのであれば、そのほかの生物も打ち上がっているはずだが、周辺にそのような様子は見てとれない。
そして、千葉・九十九里浜は福島第一原発より200キロ以上南に位置しており、「Fukushima Powerplant」の近くではない。
「JERRY GOODE」は同日、「A mutated baby Turtle with two heads found next to the Fukushima Nuclear Power Plant. The “treated wastewater” is contaminated!」(意味:福島原発のそばで発見された、頭が2つある突然変異のカメの赤ちゃん。処理された廃水は汚染されている!)とも投稿しているが、これも中国国内のTikTokで配信された頭が2つあるカメの映像を添付しているだけで、日本で撮影されたものかどうか分からなかった。
「彼は行方不明だ!」➡︎誤り
さらに、「JERRY GOODE」は8月28日、次のように投稿していた。
「Japan MP Yasuhiro Sonoda’s hands shook as he downed a glass of Fukushima Nuclear Contaminated Water in front of reporters and cameras. NOW HE IS MISSING! What happened to him?」
(意味:記者やカメラの前で福島原発の汚染水を飲み干す園田康博議員の手が震えていた。今、彼は行方不明だ!何があったのか?)
「Japan MP Yasuhiro Sonoda」とは、内閣府政務官だった2011年10月に都内での記者会見でフリーライターの求めに応じ、福島第一原発にたまっていた低濃度汚染水を浄化した水を飲んだことで知られている元議員を指していると思われる。
それから約12年後。処理水の海洋放出を受け、中国のSNSでは園田氏が「がんで死亡した」という悪質なデマが広がった。「JERRY GOODE」も、これに便乗して園田氏が「行方不明になった」と発信したとみられる。
しかし、園田氏は23年9月2日、共同通信の電話取材に応じ、これらの情報はデマだと否定。当時の自身の行動がきっかけで偽情報が広がったことについて、「震災を経験された人や福島県の人にあらためておわびしたい」と語ったという。
つまり、園田氏は行方不明などではないため、「JERRY GOODE」の投稿は誤りだ。
誤った情報は差別や偏見の下地となる恐れ
処理水の海洋放出を巡っては、IAEAが23年7月、「国際安全基準に合致し、人や環境に対する放射線影響は無視できるほどである」と結論づけた包括報告書を発表。
海洋放出後の23年10月には、放出に反対する中国やロシア出身の独立専門家を含む調査団が現地で調査を行い、24年1月30日に「関連する国際安全基準の要求事項と合致しないいかなる点も確認されなかった」とする報告書を改めて発表した。
また、経済産業省によると、日頃から近海の魚を多く食べる場合を想定するなど、国際的な方法に基づいて海洋放出による人体への影響を評価したところ、日常で受けている放射線からの影響と比較し、約100万分の1から7万分の1と影響が極めて小さいことが分かっている。
近海で取れる魚に安全上の問題はなく、23年度は計3万1145トンの処理水が海洋放出されたが、海域モニタリング調査などで異常は出ていない。
詳しくは、ハフポストの記事『「処理水とは何?汚染水と言わない理由は?危険じゃないの?福島第一原発【3分でわかる】」』でも確認することができる。
三菱総合研究所も3月6日、福島の誤った情報がフェイクニュースとして世の中に流布された場合、「差別や偏見の下地となる恐れがある」と言及。
情報の発信元を調べたり、複数の情報を比較したりするなどの確認方法はフェイクニュース対応として有効だとしている。
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- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。