健康効果も安全性も作り方も「事業者任せ」 機能性表示食品は何が問題なのか。紅麹サプリの問題で専門家に聞いた

小林製薬の紅麹(べにこうじ)サプリによる健康被害問題を受けて、「機能性表示食品」制度の見直し論議が始まります。どんな制度で、どこに問題があるのかを、専門家にたずねました。
近年、サプリメントは「食品」として流通するようになった
近年、サプリメントは「食品」として流通するようになった
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小林製薬の紅麹(べにこうじ)を原料とするサプリメントの健康被害問題を受けて、このサプリの届け出を受け付けていた「機能性表示食品」の問題点が議論されている。「機能性表示食品」とはどんな制度で、どこに問題があるのか。

インタビューを受けてくれたのは、奈良県立医科大教授の今村知明さん。かつて厚生労働省の職員として特定保健用食品(トクホ)の審査を担当し、現在は内閣府消費者委員会の委員を務めている。食品保健行政を、政府の内と外から見つめてきた経歴の持ち主だ。記者の取材に語った内容をさっそく紹介しよう。


ーー今村さんは以前から、機能性表示食品制度を疑問視していたそうですね。どのような点に問題を感じていたのでしょうか。

食品を製造販売する事業者が自分の判断で、健康上の効果をうたい、販売することができる点です。第三者の事前チェックが入らない届け出制で、事業者が自分で効果があると思えばそのように表示できる。そこに大きなリスクがあると思っています。

ーーどのようなリスクでしょうか。

機能性表示食品として届け出る際に、一定の基準があるわけではない。効果があると思えばそのように書けるし、副作用も、ないと思えばそのように届け出ることができる。ですが実際には、効果があるものには必ず副作用があります。

今回の小林製薬の紅麹サプリの問題は、製造過程で有害な成分が紛れ込んだ可能性が指摘されていますね。これについても、特定の成分を精製、濃縮していく過程で、ちゃんとそれだけを抽出していますかというチェックが、事業者自身にゆだねられています。効果も、副作用も、作り方も、すべて任せますという制度になっているのです。

「効果も副作用も作り方も事前チェックなし」

ーーチェックは事業者以外がするべきだということですね。

そうです。私は特定保健用食品(トクホ)の制度が法制化された時に、厚生労働省の職員として、審査などを担当していました。ですから、事業者が審査の最初の段階で、どのような書類を持ってくるかを体験的に知っています。「これで効果があると言えるんですか」「安全が確保できるんですか」ということを常々チェックしていました。

ーー届け出の際には効果や安全性の根拠となる資料を添付し、インターネットで公開される決まりになっています。それでも不十分ですか。

そうした資料、エビデンスを集めて検討する力が、事業者に備わっているとは限らない、なかなか備わらないというのが根本的な問題なのです。機能性表示食品は、厳しい審査をしているトクホとほぼ同じレベルの表示ができる制度です。自主基準でやるのはリスクが高いと思っていました。

ーー今回の小林製薬のサプリの問題は、機能性成分の紅麹ではなく、製造過程で紛れ込んだ有害物質が原因だと言われています。異物混入による食品公害は、過去にも大規模なものがありました。機能性表示食品に限ったことではないのでは?

今回は過去のケースともちょっと違う。機能性表示食品以前に、サプリメントの問題があります。サプリメントというのは、ある成分を濃縮して毎日飲み続けるという特殊な食べ物なんですよ。紅麹は一種のカビです。これを毎日食べるということは普通はしない。麹を使って作られるみそやしょうゆを、毎日大量に食べないのと同じです。

カビが生えるところには、別のカビも生えやすい。麹を使って日本酒を作る時によく失敗するのは別のカビが生えるからです。それで変な味になったらすぐに分かりますが、濃縮してしまうと、分からなくなる可能性がある。

ーーサプリがこれほど普及したのは、そんなに昔のことではないですね。

もともと、食品としては敬遠される面がありましたが、効果を表示したら、多くの人が大量に買ってくれる。それで事業者はサプリに走ったのだと思います。

同じ食品を毎日大量に摂取し続けるようなことは、薬を除けばないですよ。どんなにギョーザが好きでも、毎日40個食べ続けるという人はいないと思います。ところが、サプリならばそれができてしまう。食べ続けるのは効果が書かれているからです。ここまで考えると、今回の問題は機能性表示食品の問題だということがわかってくると思います。

「まずは健康被害報告の義務化を」

ーー機能性表示食品制度の改革論議が始まります。どうすればいいと考えますか。

まずは健康被害の報告をちゃんとすべきだと思いますね。企業にはけっこうな数の健康被害の連絡は来ると思う。本当かどうかはすぐには分からないから、公表しないことが多いですが、今回のように2例目、3例目が出てきた時には、すでに大問題になってしまっている可能性があります。

ですから、健康被害が出た時にはちゃんと報告するというルールを作り、報告しなかった時にはそれなりのペナルティーを受ける制度が必要だと思います。

ーー届け出制の問題などの抜本改革も必要では。

本来であれば、事前に審査を通すべきものだと思います。これだけ数が増えると、国の機関がすべて審査するのは無理だと思うので、現実的には第三者認証を導入するとかということでしょうね。

消費者庁も事後審査をやっていますが、書類は整っているかといった形式的なチェックにとどまってしまう。事後審査では、よほど問題があるとか、明らかに間違っているという時以外は指摘できません。

ーー消費者が機能性表示食品を利用する時は、何に注意すればいいですか。

利用したいという時は、最低限、用量は守った方がいい。それと、過去に多くの人が食べている、実績のある食品かどうかも重要だと思います。新しい成分、聞き慣れない成分は特に要注意ではないでしょうか。

ーーご自身は健康食品などを利用していますか。

サプリは利用していないです。ただ、私もコレステロールの値や血圧が高いので、血圧を改善するというトクホのお茶があったら、そちらを飲むようにしています。値段は多少高いけれども、自分で安全性を確認していますからね。

ーー私(記者)は少しでも安い方を選んでしまいますが。

それでもいっこうに構いません。普通のお茶にも体によい成分は含まれています。大切なのは、いろんなものをちょっとずつ食べることです

今村知明(いまむら ともあき) 奈良県立医科大教授。専門領域は公衆衛生、健康政策、 医療政策、食品保健など。1993年、厚生省入省。厚労省や文部省で食品保健行政などを担当。2007年から現職。2023年9月から内閣府消費者委員会で正委員を務めている。

奈良県立医科大教授の今村知明さん
奈良県立医科大教授の今村知明さん
奈良県立医科大学

「機能性表示食品」とは

健康被害が相次いで報告された小林製薬の「コレステヘルプ」などのサプリメントは、「機能性表示食品」として消費者庁に届け出られていた(3月26日に撤回)。この「機能性表示食品」とは、どのようなジャンルなのか。


「おなかの調子を整える」「血圧が気になる人に」など、健康や体調によい効果があると宣伝する食品は、世の中にあふれている。そうした特定の保健機能をパッケージなどに表示することが公的に認められている食品は、医薬品を除けば3種類ある。①「トクホ」の略称で知られる特定保健用食品 ②ビタミン剤などの「栄養機能食品」 ③今回クローズアップされている「機能性表示食品」だ。

まずはこれらを一つずつ説明しよう。

保健機能表示の「第3の制度」

① トクホは今から約30年前、1991(平成3)年に創設された。体に影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その効果を表示できる。食品ごとに有効性や安全性に関する国の審査を受け、許可を得なければならない。93年に最初の許可が出され、2023年時点の許可件数は1000件を超える。

② 栄養機能食品は、トクホの10年後、2001(平成13)年に制度化された。アメリカからの市場開放の要求を受けて、食品の形状規制を緩和。それまでは医薬品と位置付けられていたビタミンやミネラルの錠剤、カプセルを、食品として販売できるようにしたものだ。その代わり、栄養機能食品として販売できる成分を限定。保健機能の表示内容も成分ごとに定型文を定めた。

③ 機能性表示食品は、安倍政権の「規制改革」の一環として2015(平成18)年にスタートした。トクホ、栄養機能食品に続く「第3の制度」と呼ばれる。食品ごとの個別許可型であるトクホ、成分を限定する栄養機能食品とは異なり、「食品関連事業者の責任において」健康や体調への効果を表示することができる。食品事業者は届け出の60日後には販売を開始できる。

「保健機能食品」には三つの種類がある
「保健機能食品」には三つの種類がある
消費者庁のウェブサイトから

機能性表示食品の届け出は消費者庁に行う。その際に、健康や体調に影響する機能性関与成分は何か、どのように作用するのか、安全性はどのように確保しているかといった点について、根拠となる資料を添えて説明する必要がある。この届け出内容はデータベース化され、ウェブサイトで公開されている。

データベースによると、届け出の総数は4月16日の時点で8200件を超える。販売中のものは約3200件あり、その半数超の約1800件はサプリメント形状のものだ。

関与成分がどのように作用するかの評価方法は、3種類に分けられる。「最終製品を用いたヒト試験」と「最終製品に関する研究レビュー(一定のルールに基づいた文献調査)」のほか、「最終製品ではなく、機能性関与成分に関する研究レビュー」で評価することも可能だ。

販売中の製品の95%以上は、最終製品を用いない方法で評価されている。その場合、「本品には⚪︎⚪︎の機能があります」といった表現ではなく、「本品には△△(機能性成分)が含まれます。△△には⚪︎⚪︎の機能があることが報告されています」と表現することが、届け出に関するガイドラインで定められている。機能の説明が、このように多少まわりくどくなっている時は、最終製品の試験はしていないことを意味する。

事業者は、食品についての健康被害情報が報告された際には、その内容を届け出る。これもガイドラインに定められているが、義務ではない。

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