日本ではまだなじみのないタイカレー「ゲーンパー」がヒットの予感だ。
三重県が本拠の醤油メーカー「ヤマモリ」が、本格タイカレーを手がけてから25年目となる節目に、3年の開発期間を費やした新感覚カレーを売り出した。
2000年に発売したグリーンカレー、レッドカレー、イエローカレーに始まり、ヤマモリはこれまでにココナツミルクにピーナッツの香ばしい風味もあいまったパネーン、唐辛子と胡椒がたっぷり入ったプリックなど、日本ではあまり知られていないタイのカレーを商品化してきた。
ゲーンパーが新たに加わり、タイカレーシリーズは全9種類になった。
ゲーンパーは山の素材をいかすことから「森のカレー」とも呼ばれる。ココナツミルクを使わず、すっきりとした辛さとたっぷり使われるハーブの旨みと香りが特徴だ。
同社によると、ゲーンパーはタイ中部地方が起源という。 日本ではなじみが薄いが、タイの人たちには人気で、グリーンカレーと同じぐらいの認知度があるという。中部や東北部には専門店もあるそうだ。
できたてのゲーンパーを食べてみた
4月9日、ヤマモリが都内でタイカレーシリーズの試食会を開いた。
タイ料理研究家の長澤恵さんを招き、ゲーンパーの調理デモンストレーションも行われた。
調理台に並んだのは、レモングラスやガパオ、こぶみかんの皮や葉、にんにく、ガランガル、スズメナス、ガチャイ、唐辛子など様々な食材。ちなみに、ガパオと聞くと、多くの人がひき肉やパプリカをバジルと一緒に炒めた料理を思い浮かべるかもしれない。しかし、それはまちがいだという。ガパオは料理名ではなく、英語圏では「Holy Basil(ホーリーバジル)」と呼ばれているハーブのタイ語名だ。
長澤さんはまず、クロックという石でできたすり鉢のようなものでハーブをペースト状にするところから始めた。ハーブをクロックに入れると、叩くようにすり潰していく。ゲーンパーはふんだんに使うハーブのフレッシュさを楽しむ一品でもあるので、他のカレーを作る時よりもペーストは粗めでいいという。
出来上がったペーストを少量の油を引いた鍋で炒め始めると、ハーブの香りとスパイシーさが部屋中に一気に広がった。
長澤さんは「タイカレーはハーブの調合です。個々のハーブに香りがあり、フレッシュな香りが魅力。それらが合わさって層になって、さらに香りが立つ」と説明した。
使う肉は鶏や豚が一般的といい、この日は鶏肉が使われた。
鍋に鶏ガラスープを入れ、こぶみかんの葉やスズメナスなど2種類のタイナス、ナンプラーなども加えた。「強火でグラグラ煮るのがおいしさの秘密です」と長澤さんは調理のコツを打ち明け、ゲーンパーが完成した。
試食用に配られたゲーンパーはさらさらしていて、一見するとトムヤムクンのようなスープのようにも見えた。ガパオはさっと火が通る程度に煮てあったため、フレッシュさが残ったままだった。
ナンプラーの旨みがあり、レモングラスの爽やかな風味もしっかり感じられ、さっぱりしている。スズメナスは煮込まれすぎておらず、口に入れると小さな種のつぶつぶ食感が楽しい。いい感じで喉を刺激してくる辛味も心地いい。試食した人の中には、数口食べただけで汗が吹き出した人もいた。
高温多湿にやられて食欲が落ちる日本の夏にも食べたくなるカレーだ。
同社はゲーンパーを「究極のハーカレー」と位置付け、今年2月に発売した。今までにないカレーというのがウケて、目標を上回る勢いで売れているという。
ヤマモリのタイ料理へのこだわり
ヤマモリのタイカレーシリーズは「本場」にこだわっている。同社は「タイハーブはタイ料理の命」と言い切る。爽やかな香りや辛味をいかすには新鮮な状態のハーブを使うのがポイントなのだという。
タイ北部にある広さ6ヘクタールほどの指定農場でガパオやパクチー、タイナスなどの商品に使う農作物を育てている。収穫物は現地に構える製造工場で調理し、個包装まで行う。完成品を日本に輸送し、販売するスタイルだ。
ゲーンパーは商品化するまでに3年かかった。現地ではスープのようにさらさらしていることから、とろみをつけないように工夫を繰り返した。カレーに透き通った感じを出すのにも苦労したという。
同社で商品企画を担う錦見亮太さんは「日本の人にも『ハーブ感』を知ってもらいたい」と話している。