政治のジェンダーギャップ解消を目指し、20・30代で女性・Xジェンダー・ノンバイナリーの選挙立候補を支援する「FIFTYS PROJECT」は4月5日、支援した議員らによる議会報告会を行った。
登壇したのは、2023年4月の統一地方選でFIFTYS PROJECTが支援し、東京都内の自治体で議員となった8人。
当選から約1年が経ったが、議員としてどのような仕事をしてきたのか。実際に議員になってみて感じたリアルな地方議会の現場を語った。
地方議員の仕事って何をしているの?
世田谷区議会議員のおのみずきさんは、地方議員の仕事について説明した。
まずは「質問・質疑」。本会議では会派の代表による「代表質問」や議員個人による「一般質問」という形で質問をし、区長や市長など執行機関が答える形で議論が進んでいく。本会議とは別に委員会では特定のトピックについて話し合う。
また、これからやっていく政策の事前評価をする「予算審議」、やってみてどうだったかを評価する「決算審査」や議案の提出・審議、陳情・請願の審査、区政相談対応などを行っていると説明した。
おのさんの場合、1年間で本会議での一般質問、予算・決算特別委員会で行った質疑の数は88、選挙公約に掲げた22の政策のうち取り組むことができた割合は45%、自分で作成、提案した意見書の数は1つだったという。
「私が公約に掲げたテーマのうち、来年度予算で新規事業として予算化されたものが3つあります。1つ目が世田谷版市民気候会議を実施すること、2つ目が給付型奨学金の拡大で、生活保護世帯出身の若者向けに給付型奨学金を実施することが決まりました。そして3つ目が4月から施行された女性支援新法の支援体制を検討することです」(おのさん)
保守的な議会で、議員でいる意味を感じた
練馬区議会議員の石森愛さんは、「練馬は保守的な傾向が強い区です。パートナーシップ制度もないですし、議会にタブレットも持ち込めないません。前例がないことをやろうとすると、チクチクと攻撃されたこともありました」と説明した。
「こうした議会の状況の中で私が議員でいる意味は、包括的性教育やパートナーシップのような、今まであまり出てこなかったような課題について質問ができることだと感じます。女性や少数派の考えがインプットされたらいいなという思いも込めて議会で質問しています」(石森さん)
今後については「議会では邪魔をしたり意地悪をしたりする人もいます。そんな状況だからこそ、私たちは連帯して、なんとか歯を食いしばりながら議会にとどまることが1つ大事なことだと思います」と語った。
会場からは「練馬のあたりの高校に通っていたことがあるので、練馬の保守的な雰囲気はよくわかります。実際に今までされてこなかったような質問をして議会の反応はどうですか?」と質問が出た。
石森さんは、「私もチャレンジングな質問をするときはドキドキしていますが、基本的に反応は『無』です。これまであまり議題に上がってこなかったテーマでかつセンシティブなことだからか、リアクションがないというのは興味深いと思っています」と答えた。
「なんでジェンダーのことをそこまで頑張るの?」
豊島区議会で唯一の20代議員となった西崎ふうかさんは、「今年の新年度予算の中で要望が反映されたものが主に3つあります」と説明した。
一つ目は性自認・性的指向に関する専門の相談窓口の設置。二つ目は不登校の生徒の家庭に先生の代わりに訪問して必要な行政サービスに繋げるソーシャルワーカーの増員。そして三つ目は「会計年度任用職員」と呼ばれる非正規の地方公務員の報酬をあげることだという。
「非正規の公務員の方たちは低い年収でものすごく重要な役割を担っています。この報酬を上げることはジェンダーギャップ解消の面でも重要ですので、一般質問で取り上げました。その結果、学童保育で働く非正規雇用の報酬単価が、時給ベースで250円以上アップすることになりました」(西崎さん)
会場からは、「議員さんは、ヘイトなどを受けて心がすり減ることが多いと思います。どのように乗り越えていますか?」と質問が出た。
西崎さんは「区民の方から『なぜそんなにジェンダーやセクシュアリティのことを頑張るの?』という意見が寄せられることもあります。ショックですが、今の日本の現状だと思って受け止めています」と答えた。
「それよりも難しいと思うのが、同じ議員の立場から、自分と真逆の意見を主張された時にどう対応し、着地点を見つけていくかです。こちらの声を止めてしまうと、相手の声しか通らなくなってしまうので、負けずに言い続けるしかない。辛くなったときは、FIFTYSの仲間の存在がすごく心強いです。他の場所でもジェンダーやセクシュアリティについて声をあげてくれる人がいると目にみえることで、自分もこれでいいんだと思えるんです」(西崎さん)
参加者からは「自分もできることをやりたい」という声も
他にも議員らは、まちづくりや再開発にジェンダーの視点を入れることや、新人議員へのハラスメント、日本語を母語にしない人に向けた災害対策など、それぞれが力を入れたことや議員になってみた率直な感想を語った。
また、一般質問ができる回数や組織風土の違いなど、自治体によって議会にも違いがあることも浮き彫りとなった。
様々な困難が語られることも多かったが、品川区議会議員のひがしゆきさんは「議員の仕事を実際にやってみた感想は、『大変だけど楽しい』です」と語った。
「正直休みは減りましたが、地域の方々の交流や、自分がやったことが政策として実現できると感じられるので、議員をしてすごく良かったなと思っています。今後はもっとワークライフバランスを考えた働き方もしていきたいと考えています」(ひがしさん)
議会報告会の参加者は議員一人一人に、感想などを書いた手紙を渡した。会場で議員たちの話を聞いていた1人は、「思っていたより議員の仕事が身近に感じられました」と話した。
「これからFIFTYSのオーガナイザー育成講座にも参加したいなと思っています。自分でも何か行動を起こしたいなと思って。そう思ったきっかけは、LGBTQに関連したネガティブな発言がニュースになっているのをみてショックを受けたことです。でも何もしなかったら何も変わらないだなと思って、少しずつ何かできないか探しています」