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映画のタイトルは「マリウポリの20日間」。現地で取材したAP通信のウクライナ人記者ミスティスラフ・チェルノフ氏が監督として制作にあたった。
マリウポリは、ウクライナ東部に位置する工業都市。2022年2月、ロシア軍が侵攻を開始すると市内は瞬く間に孤立。市街地も砲撃され、市民は逃げ惑うしかなかった。
海外メディアが次々と脱出する中、チェルノフ氏らの取材班は唯一、市内にとどまって取材を続けた。映画に収められた現地の映像は、ロシアの攻撃が始まった2月24日から、市内が壊滅状態に陥り、チェルノフ氏自身も脱出するまでの20日間に撮影されたものだ。

YouTubeで公開された日本版の予告映像では、「これを見るには覚悟がいる。それでも見なければならない」というナレーションが入る。チェルノフ氏が映像の一部を市外に送った際に、添え書きのメモに記された言葉だ。
砲撃で傷ついた子どもを救おうと心臓マッサージなどを続ける医師は、「この惨劇を世界に伝えてくれ」とカメラに向かって叫ぶ。
その言葉通り、カメラは無防備な市民が逃げ惑い、傷つく姿を生々しくとらえている。住宅街に砲弾が落ち、両脚を吹き飛ばされた少年がいる。産婦人科病院が砲撃されて傷ついた妊婦は、避難先で死亡。赤ちゃんも助からなかった。
マリウポリは5月に陥落し、ロシアの支配下にある。それでもこの20日間の映像が、まとまった形で残ったのは、チェルノフ氏が決死の脱出を遂げたからだった。
取材拠点としていた病院が包囲され、自身も危険な状況に陥った。だが、戦争を止めるために惨状を世界に発信してほしいと願う人たちが援護し、映像記録とともに市外に送り出したのだ。
第96回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した際に、チェルノフ氏は壇上で次のようにコメントした。
「この作品はウクライナ映画史上初めてアカデミー賞を受賞した。しかし、おそらく私はこの壇上で、この映画が作られなければ良かったなどと言う最初の監督になるだろう。このオスカー像を、ロシアがウクライナを攻撃しない、私たちの街を占領しない姿と交換できればと願っている」
原題は「20 Days in Mariupol」。97分、字幕付き。4月26日からTOHOシネマズ日比谷などで上映される。公式サイトも開設された。

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