外国にルーツがある人に対する人種差別的な職務質問の問題を巡り、東京弁護士会は3月27日、差別防止を目的としたガイドラインの策定や警察官への研修実施などを求める意見書を国に提出したと発表した。
警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすることは「レイシャル・プロファイリング」と呼ばれる。
1月には、外国出身の3人が人種差別的な職務質問を受けたとして、損害賠償などを求めて国、東京都、愛知県を相手取り東京地裁に提訴するなど、日本でも関心が高まっている。
意見書では、公権力による人種差別であるレイシャル・プロファイリングは「人間の尊厳にかかわる重大な人権侵害」だと指摘。「社会における外国にルーツを持つ人々に対する差別を助長するもの」として、対策を要望した。
「犯罪予防にとってむしろ有害」
職務質問の法的根拠となる「警察官職務執行法」第2条1項は、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断」し、犯罪を犯しているまたは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由がある場合に、相手を停止させて質問することができると定めている。
外国ルーツの人を対象にした東京弁護士会の2022年の調査(有効回答数2094人)では、こうした「不審事由」がなく、外国にルーツを持つこと以外に警察官から声をかけられる理由はなかったと認識している、と答えた人は76.9%に上った。
また、調査では民族的ルーツと職務質問の回数に関連性があることも明らかになった。
過去5年間に職務質問を受けた人のうち、回数が「10回以上」または「6〜9回」だった人の割合を民族的ルーツ別に比較したところ、アフリカ(37.1%)、南アジア(34.5%)、中東(33.3%)の順で割合が高かった。一方、中国や韓国を含む北東アジアは10.6%となり、割合が低い結果となった。
同会は、「公権力を行使する警察官が職務執行において、外国人であることや外国にルーツを持つことを犯罪と結びつけて扱うことは、一般市民に対して、外国人や外国にルーツを持つ人々にはそのように扱われる理由があるのだと思わせる効果がある」と指摘。
さらに、レイシャル・プロファイリングによって市民の警察に対する恐怖心や不信感が強まり、犯罪捜査への協力も得られにくくなる恐れがあるとして、「犯罪予防及び捜査という職務質問の本来の目的からしても、むしろ有害であることが明らか」だとしている。
その上で、意見書では主に次のような対策を求めている。
・人種差別的な職務質問を防止するためのガイドラインの策定と公表
・警察職員への必修の研修プログラムの実施
・人種差別的な職務質問の実態を検証するための記録と開示
・政府から独立した国内人権機関の設置
警察庁は2024年度から、警察官のウェアラブルカメラ(ボディカメラ)装着のモデル事業を開始する方針。
意見書ではボディカメラについて、法規制がないまま導入された場合、職務質問の対象者の精神的苦痛や肖像権・プライバシー権の侵害に加え、個人情報の大量の蓄積や流用といった「重大かつ広範な人権侵害に直面することになる」として、「極めて慎重な検討が必要」だと指摘している。
レイシャル・プロファイリングは国内外で問題となっている。2021年12月には、在日アメリカ大使館が公式Twitter(現在のX)で「レイシャル・プロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった」として、異例の警告を出した。
国連の人種差別撤廃委員会は2020年の一般的勧告で、「レイシャル・プロファイリングとの効果的な闘いには、人種差別を禁止する包括的立法が欠かせない」と指摘。禁止法の策定や実施を各国に求めている。
【アンケート】
ハフポスト日本版では、人種差別的な職務質問(レイシャル・プロファイリング)に関して、警察官や元警察官を対象にアンケートを行っています。体験・ご意見をお寄せください。回答はこちらから。