日本銀行が異次元の金融緩和からの大転換を決めました。3月19日に開いた金融政策決定会合で、マイナス金利政策を解除することを決めました。
マイナス0.1%だった短期の政策金利は、「無担保コール翌日物」を対象に0〜0.1%程度で推移させことになります。そのために、銀行など民間の金融機関が日銀に預けている残高の一部につく金利については、マイナス0.1%からプラス0.1%に引き上げます。
日銀の植田和男総裁は19日の記者会見で「賃金と物価の好循環が回り始めて、2%の物価上昇目標が持続的、安定的に見通せる状況にある」とし、現時点での春闘での賃金の妥結状況も踏まえて、大きな政策変更に踏み切ったと説明しました。
金利が上昇するというニュースが流れると、家計に与える影響が気になります。
金利が上がると、お金を預けている銀行などからもらえる利息が増えるメリットがある一方、住宅ローンなどのように借りているお金にかかる利子が膨らむデメリットもあります。
植田総裁は会見で「今回の措置を受けて、預金金利や貸出金利が大幅に上昇するとはみていない。短期金利が上がるとして、その場合のペースは経済・物価見通し次第である。ただし、現在手元にある見通しを前提にすると、急激な上昇というような経路は避けられるとみている」と述べました。
一生に一度ともいえる大きな買い物でもある住宅購入。何千万円というローンを組んで、何十年にわたって返済していかねばならない人にとっては、支払いが膨らむことによる負担増がより強く感じられるはずです。
ファイナンシャルプランナー(FP)の高山一恵さんに、金利上昇の局面で私たちは何ができるのか話を聞きました。
◾️金利が上がるってどういうこと?
長いこと日本では低金利が続いてきましたが、金利が上昇し始めています。例えば、三菱UFJ銀行では10年物の定期預金の金利をこれまでの100倍にあたる0.2%に引き上げています。ほかのメガバンクも同様の動きです。定期預金の金利が上がったとは言っても、足元の金利水準は昔のように1%や3%の世界にはなっていません。個人向け国債も、10年満期の変動金利型の初回適用金利が0.7%まで上がっています。
日銀の発表を受け、三菱UFJ銀行は3月19日夕、普通預金の金利についても0.001%から0.02%に引き上げると発表しました。
◾️住宅ローン金利に変化
長く低金利の環境が続いてきたことから、変動型の住宅ローン金利を選んでいる人が多い。金利が上がらなければ、固定型でローンを組むよりも総返済額は少なくてすむからです。
金利が上昇するとなると、変動型で借りている人たちにとっては返済額がどのくらい膨らんでしまうのかが気になるところです。
長期固定金利の住宅ローン「フラット35」をみると、返済期間が21〜35年の商品では1.3%ほどだった金利が1.84%まで上がっています。
多くの人に影響がある変動金利は、日本銀行の政策金利(短期金利)に連動します。長いことマイナス金利が維持されてきた政策金利が解除されました。短期金利に連動する変動型の住宅ローンを組んでいる人にも影響が出てくることになります。とはいえ、急激に金利が上がるというよりは、緩やかに上がると予想されます。
◾️変動金利が2%になると、どれほどの負担増になる?
このまま短期金利がそれほど上昇しないことを祈って変動型の住宅ローン金利を選び続けるべきか。それとも、不安から解放されるために固定型に借り換えして総返済額を決定させてしまうべきか。
変動型の住宅ローン金利が上がると、負担はどれぐらい増えるのか。シミュレーションしてみましょう。
変動金利は金融機関によって幅がありますが、0.5%ほどです。8%なんていう時代もかつてはありましたが、現在の日本の経済状況からすると、そこまで上がるのは考えづらい。現実的と考えられているのは、2〜3%です。
0.5%が2%に上昇したとすると、5000万円の借り入れがある人で毎月の返済額が4万円ほど増える計算になります(※)。
月々4万円の負担が生じるかもしれないという「変動リスク」を背負えるかどうかが、変動型のままでいくかの一つの判断基準になります。
収入が十分にあり、資産にも余裕があり、金利の上昇局面で繰り上げ返済できそうでしょうか。現在の収入をこの先も維持できる保証はないため、貯蓄を考慮に入れておく必要があります。
変動型の金利が上昇を始めて、慌てて固定型に借り換えしようとしても、金利は固定から上がり始めるため、変動が上がり始めた時にはすでに固定は上がってしまっています。
固定型の金利が3%などと高かったバブル期からすると、現在上がったといっても1.9%ほど。低いといえば低いと考え、今のうちに固定型に借り換える選択もあります。変動型は半年ごとに金利の見直しが行われます。金利の先行きを見通すことは難しく、結果として金利が上がらなければ、変動型のままにしておけばよかったと悔やむことになる可能性もあります。
教育費などがかかる人で、毎月の支出が見通せた方がいいという人もいると思います。その場合は、固定型に借り換えるのも1つの作戦だと思います。
(※)実際には、ローン返済においは月々の返済額が前回の返済額の1.25倍までしか増えない125%ルールや、月々の返済額が見直されるタイミングが5年に1度やって来る5年ルールがある。
◾️自分の家計状況をしっかり把握する
変動リスクを背負えるかを判断するためにも、まずは家計の状況をしっかり把握しておくことが欠かせません。
家族構成や収入、人生の計画などを落とし込んだライフプランをつくってみましょう。家庭の資産の状況をフロー(毎月の収支)とストック(資産)の両方を見て、住宅ローンの金利をどうするかなどお金の使い方について戦略を立てる。
住宅ローンのように大きくなくても、自動車ローンやクレジットカードでの買い物などどうなっているかを把握する。企業が財務状況を精査するのと同じように、家計の財務状況を一度洗い出してみましょう。
【2023年12月13日に配信した記事に加筆し、アップデートしました】
高山一恵さんプロフィール
Money&You取締役、ファイナンシャルプランナー。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めた後、現職へ。女性向けWebメディア「FP Cafe」や「Mocha(モカ)」を運営。全国での講演活動、執筆・相談業務も行う。著書は『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『はじめての新NISA &iDeCo』(成美堂出版)など。