再び暖かい日が多くなり、桜の季節が近づいてきていることを実感します。
桜といえばソメイヨシノをイメージする人が多いでしょうが、ソメイヨシノが全国に普及したのは明治時代以降で、それ以前はヤマザクラが桜の主役でした。
ヤマザクラとはどんな桜なのでしょうか。
奈良の吉野山(よしのやま)にも咲き誇るヤマザクラ
桜の名所として、奈良県吉野町(よしのちょう)の吉野山を思い浮かべる人も多いでしょう。
晩春に吉野山を覆い尽くすように咲き誇る桜の数は、なんと3万本にのぼるといわれます。
吉野山には多くの種(しゅ)の桜が咲き乱れますが、そのほとんどはヤマザクラで、元は人の手によって植えられたものです。
植栽されたのは花見をするためかというと、そうではありません。
1300年も前の奈良時代から、吉野山は神々が宿る山と信じられていました。その吉野山に神木(しんぼく)としてヤマザクラなどの桜の苗木が植えられていったといいます。
吉野山を含む「紀伊山地の霊場と参詣道(さんけいみち」は世界遺産(文化遺産)にも登録されています。それは主に「日本の宗教文化の歴史を伝える文化的景観」が評価されたことによります。
「絶勝(ぜっしょう)」と呼ぶにふさわしい吉野山の桜。その背景などを知ると、ありがたみと美しさも、いっそう高まりそうです。
「ヤマザクラは白い花と赤い若葉」
ヤマザクラは白い花と赤みを帯びた若葉が同時に開くことが大きな特徴の一つです。「ヤマザクラは白い花と赤い若葉」と覚えるとわかりやすいかもしれません。
一方、ソメイヨシノの花は淡いピンク色。ソメイヨシノは秋に紅葉しますが、開花時に若葉は伸びません。
ヤマザクラの開花はソメイヨシノのあとなので、ソメイヨシノのお花見を逃した場合でも、お花見のチャンスはまだ残っていますね。
「オオヤマザクラ」はヤマザクラの大型版?
ヤマザクラに似た桜に「オオヤマザクラ(大山桜)」があります。
ヤマザクラより葉が大きいため「オオヤマザクラ」と命名され、北海道に多く見られるため「エゾザクラ」の異名もあります。
花と赤みを帯びた若葉が同時に開く点はヤマザクラと共通していますが、花はヤマザクラより赤みを帯びています。そのため「ベニヤマザクラ」ともいわれます。
一方、吉野山などのヤマザクラは白い花を咲かせるので「シロヤマザクラ」ということもあります。
温暖な気候を好むヤマザクラ(シロヤマザクラ)と、寒冷地でも鮮やかな花を咲かせるオオヤマザクラ。同じ「ヤマザクラ」の名がつく桜でも、違いが幾つかあるのですね。
斬新な俳句も詠みたくなる?
「山桜」を季語にした俳句はたくさんあります。二句、紹介しましょう。
〜石の声水の声して山ざくら〜
これは、企業勤務のかたわら俳人としても活躍した、久保田月鈴子(くぼたげつれいし/1916~1992)氏の作です。静謐(せいひつ)で清らかな一句ですね。
〜山又山山桜又山桜〜
これは、高浜虚子に師事した俳人、阿波野青畝(あわのせいほ/1899~1992)氏の作です。
さて、何と読むでしょうか?
これは素直に「やままたやまやまざくらまたやまざくら」と読みます。
俳句は「五七五」が基本ですが、この句は「六七五」になっています。
漢字だけで詠まれた一句。斬新な俳句ですね。山と山桜が眼前に迫ってくるようです。
ヤマザクラの花言葉は「あなたに微笑む」などです。
ヤマザクラは山地だけでなく、公園などでも見ることができます。
山や公園でヤマザクラの花々を眺め、楽しみ、家族や友人、道行く人たちと微笑み合えたら素敵ですね。
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