政府は3月15日、外国人技能実習制度に代わる新たな「育成就労制度」を創設する入管難民法の改正案を閣議決定した。
法案には、永住許可を得ている外国人が故意に税を納付しないなどの場合に資格を取り消すとの内容も盛り込まれ、外国人支援に取り組む団体は「外国籍住民に対する差別や偏見を助長する」などとして反対の声明を発表した。
育成就労制度の導入により、永住許可を得る外国人の増加が見込まれるとして、政府は故意に納税しなかったり、一定の刑罰法令に違反し拘禁刑となったりした場合などに、永住許可を取り消すとしている。
日本で暮らす外国人の支援に取り組むNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)は、閣議決定を受けて声明を発表。育成就労制度自体の問題点を挙げたほか、永住許可の取り消しに関して「共生社会の実現に逆行する差別的な制度だ」と指摘した。
永住者の資格は、法相が永住を認めた場合に取得でき、在留期間は無期限。入管庁の統計によると、2023年6月末時点の永住者は約88万人で、在留資格別では最も多い。
永住許可を受ける法律上の要件として、
・素行が善良である
・原則として日本に10年以上在留、うち5年以上就労か居住資格がある
・罰金刑や懲役刑などを受けていない。納税などの公的義務を適正に履行している
━などがある。
現在の制度でも、「永住者」の在留資格を一度得たからといって、永住許可を受け続けることができるとは限らない。虚偽の申請をしたり、1年を超える懲役や禁錮刑に処せられ強制退去となったりした場合などは、永住権を失う。
移住連は声明で、「税金や社会保険料の滞納や、退去強制事由に該当しない軽微な法令違反に対しては、日本国籍者に対するのと同様に、法律に従って督促、差押、行政罰や刑事罰といったペナルティを科せば足りる」と主張。日本に生活基盤を築いた永住者に対し、永住許可取り消しという重大な不利益を課すことは「外国籍住民に対する差別にほかならない」と述べ、政府方針に反対する姿勢を示した。
さらに、「有識者会議で議論されていないにもかかわらず、育成就労制度の導入とセットとして、いわばどさくさ紛れに成立させようとしている」とも声明で批判している。
永住許可の取り消しを巡っては、閣議決定に先立ち、日本弁護士連合会や東京弁護士会も反対する会長声明を出していた。
日本で生まれ育った永住者からも、「取り消し制度をきっかけに家族が離散することになったらと不安」との声が上がっている。
3月15日の参院予算委員会で、立憲民主の石川大我議員は永住許可の取り消しに触れ、「(新たな制度は、)病気などさまざまな理由で住民税などが払えなくなった永住権を持つ外国人にのみ、永住権剥奪という非常に厳しいペナルティを課すもの。これは外国人に対する差別に他ならない」と批判。その上で、岸田文雄首相に「立法事実を説明してください」と要求した。
岸田首相は「わが国が魅力ある働き先として選ばれ、外国人と日本人が安心して生活できる共生社会を実現するための制度。不当な差別という内容のものではないと認識している」との見解を示した。立法事実については「法案の審議を通じて説明していくことになる」と答弁した。