「(法律上の性が同じカップルの結婚を認めないのは)憲法24条1項及び2項、14条に違反する」
3月14日、札幌高裁。この日、30人以上の性的マイノリティの人々が「結婚の平等」を求め、国を訴えている裁判で初めてとなる高裁判断が示された。齋藤清文裁判長が判決を読み上げる中で、原告たちは肩を震わせ涙し、笑顔を見せた。
原告が訴えていた主要論点のほとんどで違憲判断が下されたこと、中でも一連の訴訟で初めて「憲法24条1項」に違反するとの判決が出たことは画期的だった。
憲法24条1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と定めている。
これまで「両性」という言葉が男女を指すかどうかが重要なポイントの一つとされてきたが、札幌高裁は「(文言上両性間の婚姻を定めているが)異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保証していると考えるのが相当である」と判断した。
判決後の囲み取材で、原告のたかしさんは「夢の中にいるような状況です。5年間やってきたんですが…」と話す中で涙があふれた。言葉に詰まりつつ、支援者や報道陣に「続けてきて本当によかったと思っています」と伝えた。
提訴から5年。これまでで最も踏み込んだ判決を、原告や弁護団はどう受け止めたのか。判決の現場を振り返る。
*後日、判決の解説を掲載する予定です。
札幌高裁判決は何が「画期的」なのか
札幌高裁判決で違反が認められたのは、以下の3点だ。
・「法の下の平等」を定めた憲法14条1項
・「婚姻の自由」を定めた憲法24条1項
・「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して婚姻や家族に関する法を制定すること」を求める憲法24条2項
これまでの一連の裁判では、 同性間の婚姻や家族関係が認められていないことが憲法14条や憲法24条2項に違反するという判断は下されてきた。
だが原告代理人の綱森史泰弁護士によると、今回の札幌高裁判決は「同性間の婚姻の自由は、異性間と同程度に保護しなければならないと明言した点が画期的」だという。
「札幌高裁は、同性カップルに結婚が認められていないことは、合理的な理由がない『差別』であると明言しました。憲法24条では、『両性』という言葉が使われていますが、言葉だけに囚われるのではなく、国会が議論する必要があると指摘しています」(綱森弁護士)
「思った以上の判決に、泣いてしまった」
この「画期的」だという判断を、原告はどう受け止めたのか。
判決後に法廷から出てきた原告の国見亮佑さんは、サングラス越しでも分かるほどの笑顔だった。旗出しで「高裁でも違憲」だと報告すると、支援者からたくさんの拍手が送られた。
この日は午前10時半に、東京2次訴訟で「婚姻や家族の法律は、個人の尊厳に立脚して制定すべき」と定めた憲法24条2項に違反する状態」という判決が出た。
国見さんはそれを見て、「はっきりと違憲と言ってほしかった。東京2次の原告の皆さんが悔しそうな顔をしているのを見て、4時間後の私も苦しい思いをするのかなとすごく不安になりました」と振り返る。
だからこそ、囲み取材では「思った以上の判決が出て、泣いてしまいました。司法が積極的に同性間の婚姻を進めようという意思を感じて」と喜びをあらわにした。
パートナーのたかしさんとは、20年以上の関係になる。原告になることを決めたのは「自分自身がパートナーと結婚したいという気持ちはもちろんありますが、それ以上に、全ての同性カップルが結婚できる制度を作りたいと思った」からだ。
「この判決を国会議員の皆さんに見てもらい、賢明な判断をしてもらいたいんです」
「社会は変わる」希望を証明する判決だった
「この判決を受けて思うのは、『やっぱり、かなり削られてたのかもしれない』ということです」
原告のたかしさんは記者会見で、こう切り出した。提訴したのは2019年。札幌地裁の判決から数えても、3年がたった。
「この間、政治家の差別発言も多く耳にしました。暴言になってしまうのですが、それを聞くたびに『この人たちに、人権問題に取り組むことはできるのだろうか』と、どうしても思ってしまったんです。常に追い詰められる気持ちがしていました」
だからこそ、今回の判決について「うまく言えないのですが、自分の土台を取り戻せたような思いがするんです」と、うつむきながらも口角を上げて話した。
「全国各地で多くの当事者が思いを伝えて、いろんな判決が続いて…。そんな積み重ねがあったからこその今日の高裁の判決だったと思うんです」
「裁判は長くて、結構つらくて絶望したような気持ちになっていたのですが、社会はたしかに変わっていく。今回の判決は、そういった希望を証明してくれたんじゃないかなと思ってます」
「両性」という言葉の判断に苦しんできた
「(これまでの訴訟で違法ではないとされてきた)憲法24条1項の違憲判決は、本当に待ち望んでいた、今振り返っても涙が出るぐらい喜ばしい判断でした」
原告の中谷衣里さんは満面の笑みで、こう切り出した。
「憲法24条1項の『両性』という言葉は、これまでの地裁判決で、男女間のことを表すと言われてきました。それを聞くたびに、 私の周りの同性カップルのみんなが、社会の中でいないようなものにされてきているなっていうことを毎回実感させられてきました」
だが札幌高裁は、憲法24条1項に反すると明確に示した。
「制度ができる空気を作るだけではなくて、同性カップルにも異性カップルと全く変わらない当然の権利が与えられて…」
中谷さんはこう言いながら、涙が溢れ、「この国で家族として、 『ふうふ』として生きていっていいんだっていうことを言ってくれる。本当に本当に前向きな、 励まされる判決でした」と声を絞り出し伝えた。
「今回の判決の中で裁判長は、きちんと国会でこの議論を進めなさい、そして法律を整えなさいと明言してくれました。これも間違いなく、立法府に大きなプレッシャーを与える内容だったなと思っています」
「まだこの訴訟は続くと思います。これからも気持ちを新たに、今日は大きな1歩を踏み出せたと思って、次に向かって頑張っていきたいと思います」
「明日にでも結婚できたら」
「裁判長は、私たちが言われたかった言葉を伝えてくれたなって思いました。叶うのであれば、もう1回、裁判長の口から聞きたいと思うほどです」
原告のCさんは、齋藤裁判長が判決を言い渡す中、徐々に表情が明るいものになっていった。
「自分が思っている以上にいい判決が出て、もうなんかいまだに信じられないです。自分たちに出してくれた判決とは思えないぐらい、すごいびっくりしてます」
この5年で、地裁は6件中5件の違憲・違憲状態判決を言い渡した。だが国は未だに、結婚の平等の法制化について議論すらしていない。
「あとは、国会が動いてくれるだけなので。私たちはもうずいぶんと前から、同性同士で結婚するという意思ができているんです。だから、明日にでも結婚できるようになってくれたらいいなと思っています」
〈取材・執筆=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版〉