「髪型自由ならもっと部活も楽しめるのに…」「なんで全員ボウズ?」 。
部活に存在する“暗黙の髪型ルール”について、中高生の頃、ふと疑問に感じたことがある人も多いのではないだろうか。
「部活も好きな髪型も思い切り楽しんでほしい」という思いで、マンダムが、 “部活ヘア”について「どう思う?」と問いかける取り組みをおこなっている。

「どう思う?部活ヘア」いま、社会に問いかける理由
ヘアスタイリング剤などを展開する化粧品メーカーのマンダムが着目したのは、部活での髪型ルール。
部活での髪型ルールは明文化されていないことが多いにも関わらず、古い慣習がそのまま受け継がれて“暗黙のルール”となっていることも多く、部活を心から楽しめなかったり、入部を諦めたりする生徒も少なくない。
マンダムは、部活での髪型ルールについて部活生や教員、学校や社会と一緒に考える取り組み「どう思う?部活ヘア」を2023年5月にスタート。学校で実際に部活生とヘアスタイリングをやってみる「部活ヘアサロン」を実施している。

現場の声を知るために、マンダムは各地の高校にもヒアリングに行き、部活生や顧問の教員に聞き取りをしてきた。
マンダム広報部の萩原奈津子さんは、こう話す。
「部活生も、先生や指導員も、部活での髪型指定などは『時代に合っていない気はするけども、なかなか変えにくい』と話していました。もっとオープンに話せる空気をつくって、会話のハードルを下げていくことができないかなと思ったのが、取り組みのきっかけです」

10人に1人が「髪型を理由に入部を諦めたり退部したり」という経験
学校でのヒアリングに加え、マンダムは2023年3〜4月、高校に通う部活生1000人と、部活動顧問を担当する高校教員200人への実態調査を実施。
多くの部活生が部活ヘアについて悩みを抱え、教員も違和感を持っていることがわかった。
回答した部活生の約10人に1人は、髪型などの「おしゃれや自己表現の制限」が理由で、入部を諦めたり、退部したりという経験を自身がした、または友人から聞いたと答えた。

萩原さんはこの結果に対し、「学校では多様性について習い、昔に比べたら選択肢が多い時代。それでもまだ、部活ではこのような現状だというのは、すごくもったいないし残念」とし、こう続けた。
「ヒアリングの中で、バレー部に所属していた男子生徒が、坊主が嫌だと顧問に伝えるのに2年間かかったという声も聞きました。やはり生徒側から声を上げるのは難しい側面もあるので、大人の側から変わっていけたらと思います。
部活でのヘアスタイルをめぐる『トレードオフ』がなくなり、自己表現をしつつ、何かを諦めることなく青春を謳歌してほしいですね。部活生の意見を柔軟に聞き入れて一緒に考える姿勢や、自由に意見を交わすことができる雰囲気が大切だと感じました」
調査では、部活の髪型ルールでの悩みについて、詳細を聞いている。
自分もしくは周囲の人が「髪」に関する部活動のルールや文化で理不尽に感じたり、実際におしゃれができなかったりしたエピソードとしては、運動部・文化部共に「ヘアスタイル」が最も多いという結果に。
2番目に多かったのは運動部・文化部共に「髪の長さ」で、運動部では25人から「坊主にしなければならない」との声が寄せられた。

部活生の約40%、教員の約50%が、学校の「おしゃれや自己表現の自由度」と、今の社会の流れには「ギャップがある」と答えていた。
また、部活生の約70%が、部活をする中で「髪の長さや髪型で自己表現をできることが部活参加意欲アップやパフォーマンスアップに繋がると思う」と回答。
実態調査の自由解答欄や、2022年9月〜23年3月に行った全国の部活生114人、高校教員18人へのヒアリング調査では、リアルな声が寄せられた。
《坊主を理由にその部活に入らない人が増えるとしたらもったいないと思う(運動部・男子)》
《ショートを強制されたら辞めることも考える(運動部・女子)》
《髪型ルールを自由にしたら生徒の気持ちや個性が見えてきた(運動部・教員)》

マンダムの社員たちも、学生時代に部活で髪型を指定され、嫌な思いをしたという経験をしていた。
野球部だった男性社員は坊主を指定され、強豪校のテニス部に入っていた女性社員はショートカット指定で、日焼け止めを塗ることも禁止されていた。
社員らの経験は十数年以上前だが、調査やヒアリングでは、現在もあまり状況が変わっていないことが分かった。
同じ目線で一緒に考える場、「部活ヘアサロン」
ヒアリングや調査の結果を受けて、実践の場で課題解決に向けて一歩を踏み出したのが「部活ヘアサロン」。
部活生と顧問の皆が髪型ルールについて一緒に考え、試合や大会前に自分らしさを大事にしながら、パフォーマンスアップに繋がる「勝負ヘア」を提案し、実践する。
メリケンバーバーショップのクリエイティブディレクター・ヌマタユウトさんと、アスリートビューティーアドバイザー・花田真寿美さんが「スペシャルサポーター」として協働し、ヘアカットをしたり、ヘアメイクの相談にのったりと部活ヘアサロンをサポートしている。
これまでに、男子サッカー、男子バレー、女子バスケ、チアリーディング、マーチングバンドなど、様々な部活で約10回実施。
それぞれのスポーツの大会のルールなどの一定の制約の中で、生徒の希望を最大限にどう表現できるか話し合い、実践してきた。

男子バレーボールの強豪、駿台学園高校でも、2024年1月に部活サロンを実施。男子バレー部のメンバーが一緒にヘアカットやスタイリングを経験した。
高校バレー部の春の大会「春高」でも活躍した、秋本悠月さん(当時3年生)は、部活ヘアサロンを経験してこう感想を述べる。
「学校で髪を切るのは新鮮だしモチベーションが上がる。自分は高身長と髪で覚えてもらっている。特に春高で注目してもらい意識が変わった」

同校の梅川大介監督は「駿台学園男子バレー部は自由に自立してプレーするスタイル」とし、こう話す。
「髪型も含めて、そうした自由な雰囲気を伝えていくことで駿台らしさが磨かれていくと思う。それを見て駿台でプレーしたいという生徒が増えてほしい」
スペシャルサポーターのヌマタさんは、「自分がカッコいいと思えると、それが自信に繋がって、その人の行動や周囲への関わり方まで変わっていく」と語った。

マーチングバンドやチアリーディングなど、パフォーマンスをする団体競技の場合は、チームの演目や表現したいイメージに合わせて髪型やメイクについて話し合う。
大会で前髪を上げるというルールがあった際には、おでこの形にコンプレックスを持つという生徒に、分け目の位置を変えたり、編み込みをしたりしてコンプレックスを解消しながら綺麗にまとめる方法を提案した。
「同じ目線で一緒に考えながら、自己実現のサポートをすること」を目指す部活ヘアサロンには、賛同の輪が広がる。
ある監督は、学生の頃に部活の髪型ルールが嫌だったという経験があり、「この多様性の時代に、このままでいいんだろうか?生徒にとっても競技全体にとってもプラスになることがあれば取り組みたい」と、部活ヘアの活動に賛同した。
マンダムがこれまで変えてきた「空気」。「大人として、企業としてできることを」

マンダムが部活ヘアについて取り組む思いの背景には、 2021年に制定したコーポレートスローガン「BE ANYTHING, BE EVERYTHING.」(意味:なりたい自分に、全部なろう。)がある。
広報部の萩原さんは、「なりたい自分になろうと言っても、ルールや立場などを理由に、なかなかなれない現状がある」とし、だからこそ部活ヘアに取り組んでいると話す。
また、これまでにマンダムは男性の美容をめぐって時代の空気や考え方を変えてきたということを踏まえて、今度は部活の髪型ルールについて「空気を変えていきたい」と語る。
「『男性が化粧や美容なんて』と言われていた頃から、マンダムは社会の空気を変えてきました。タブーと言われているものへのハードルを下げ、おしゃれをして自己表現するっていいよね、という空気を作ってきました。
部活ヘアに関しては、まだ部活生からは言い出しにくい雰囲気もあるかもしません。だからこそ、大人として、企業として、できることをやっていきたいと思っています」
「どう思う?部活ヘア」についての詳細は、特設サイトから。
(撮影:川しまゆうこ)