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ゲイとして、イギリスで結婚した同性パートナーとの生活を発信するKanさん。近年は、自分らしいファッションで撮った写真に、共感する声も広がっています。
今はビビッドな青や赤の柄シャツ、オレンジブラウンのコートなど、目を引く服が多いKanさんも、5年前に『クィア・アイ in Japan!』(Netflix)に出演した時は、「無難」な服を選んでいました。
その背景には、日本では「周囲の目」に合わせることが良いと感じていたことがあったといいます。
日常のあらゆる場面に溢れている「男らしさ」「女らしさ」。それらとは違っていたとしても「自分らしさ」を大切にする──。Kanさんがそう思えるようになるまで、どんな葛藤があったのか。服装やらしさに対する思いの変遷を聞きました。
Kanさんに、海外移住で感じた日本とイギリスの違いを聞いた前編はこちら。
◆迷いなく「メンズコーナー」に行っていた
『クィア・アイ in Japan!』は「ファブ5(fabulous5)」と呼ばれる性的マイノリティの5人組が、ファッションやインテリアといった得意分野を生かし、出演者の人生や価値観に影響を与えていく姿が描かれます。
ファブ5にKanさんの親友であるミキさんが依頼したのは、「日本でも僕は僕のままで生きて良いんだ、というKanさんの気持ちを引き出す」こと。海外留学では本来の自分らしさを手に入れたように見えたものの、日本に戻ってからは息苦しそうな様子を感じていたといいます。
Kanさんが当時住んでいた家を訪れたファブ5がまず見たのはクローゼット。中には、グレーのシャツなど、オーソドックスな色や形の服や靴が並びます。
「自分に自信がないから、ついシンプルな服を選んでしまう」と打ち明けるKanさん。日本では社会的にそう求められるから「周りと同じでいようとしていた」とも。
当時について、「ジェンダー規範を内在化していた」といい、洋服屋では、何の迷いもなくメンズコーナーに行っていたと振り返ります。
ファブ5と一緒に自分らしさや日本について考えるため、いろんな人や店との出合いを重ねます。最終的にそれまで触れてこなかった、オレンジの帽子や柄物の白いジャケットを着こなし、笑顔を見せます。
「クィア・アイに出て、周りではなく自分がときめくものを身につけていいんだなって分かったんです」
◆「ゲイらしく」なくて良い。尊重したいのは自分らしさ
社会に定義される「男らしさ」や「女らしさ」に対し、押し付けられる感覚や同調圧力を抱き、生きづらさを感じる人は少なくありません。
似たような構造はLGBTQコミュニティの中にもあります。例えばゲイのコミュニティでは、短髪やヒゲ、筋肉といった「ゲイらしさ」を求められる場面も。ジェンダーやセクシュアリティによらず、周囲が求める「らしさ」に自分を寄せることに、疲弊する人もいます。
Kanさんは「例えば『男らしさ』って、本来備わっているというよりは、社会的に作られたものだと思うんです。僕自身もLGBTQやジェンダー等に関する社会的なことを学んで、男性らしさや女性らしさみたいなものから解放される兆しが見えたんですよね」と回顧した上で、こう語ります。
「自分がそこに当てはまらなくてもいいんだなって。だから今は自分自身にも、自分らしさを尊重してあげたいんです」
Kanさんは『クィア・アイ in Japan!』の撮影後、プライベートでは古着屋に行くことが増えたといいます。それは、ジェンダーのカテゴリーがない店が多いから。それに、これまで意識が向いていなかったピアスもつけるようになりました。
この日の取材に着てきたのは、Kanさんが自分で作った「オリジナルTシャツ」。今回の帰国で買った青いシャツに、アップリケをアイロンでつけたものです。
「今回帰ってきた思い出になるし、自分が信じていることが並んだ『LOVE PEACE ACTIVISM』というワードも良いなって。色味も可愛くて気に入っているんですよ」
ファッションに関する発信をする一方で、「常に新しいものを買い、消費していく空気」があると感じているとKanさんは話します。
「僕もやってしまっている側面があるのですが、過度な消費を促すトレンドからは身を引きたいなって。毎回同じ服を着てInstagramに投稿してもいいじゃん?って思うんです。服や靴が多少ほつれても、新しく買うんじゃなくて、(リメイクなど手を加えて)長く使うことも素敵ですよね」
◆どんな自分でもいい!自分の好きを信じて
Kanさんは、化粧品関連の仕事をしています。きっかけの1つが、中学生でニキビができた時に、親の洗顔フォームを使ったこと。商品の香りやキラキラした雰囲気にも惹かれたことだといいます。
ひとえに「化粧品」といっても、スキンケアやメイクなど、多岐に渡ります。そのなかで男性用のアイテムの開発が増えるなど、社会的認識は少しずつ変わってきています。一方でまだまだ、「女性はメイクをしなければいけない」「男性が化粧をするのは変」といった空気も。
Kanさんは「本来は、ジェンダーによって強要されるものじゃないと思うんですよね。僕はまずは自分のため、楽しいからメイクをしています。 自己表現の一つになっているというか」とした上でこう語ります。
「微力かもしれないけれど、『ジェンダーのこうあるべき』を崩していく側でありたい。女性であるということで社会から化粧を強要されることに、とても苦しい思いをしている人たちがいると思います。化粧する・しないを自由に選べる、化粧が自己表現のツールとなるよう、メイクにまつわるジェンダー像を崩す側でいたいと思っています」
メイクやスキンケアは、Kanさんにとってどんな魅力があるのでしょうか。
「例えば化粧ではないですが、ビューラーでまつ毛をちょっと上に向けてみるだけで、目に光が入ってきらきらと輝くんですよ。それだけで印象がだいぶ変わります」
やり方が分からなかったり、買いに行くのに勇気がいったりするという声もあり、Kanさんは「調べながら、自分がときめくものを探してほしい」と話します。
「僕はスキンケア、特に保湿をしている時間がとても好きで。良い匂いだし、自分に良いことをしている気持ちになるので、今日も一日頑張った!みたいな感覚になれるんですよね」
自分の好きを大切にしてほしいと強く思っているKanさんは、電車の中吊りを始めとする広告について、日本と移住したイギリスとの違いを強く感じているといいます。
「昔より少なくなったとはいえ、日本だとまだまだ、コンプレックスを煽る広告が少なくないように思います。例えば今これが流行していて、サービスや商品を購入したら周りから評価されるよ、みたいな。命令されているような気持ちにもなるというか」
ですがイギリスでは、「自分が好きなようにしていい」といったメッセージのものが多いと感じたといいます。
「たとえば自分の毛だから、自分で生やしたければ生やせばいいし、でもそれが嫌だったらこの髪剃りを…みたいな広告を見た時に、すごく勇気づけられたんですよね。見た人に価値観を押し付けず、その人の選択を尊重するような広告に触れる機会がイギリスでは多くて。日本でもそうなってほしい」
「時に周りの目が気になってしまう時もあるけれど、どんな自分でもいいんだよ、自分の好きを信じていこう!って、強く思っています」
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>