パレスチナの少女や女性に対して処刑やレイプなど深刻な人権侵害が報告されているとして、国連の専門家が警鐘を鳴らしている。
パレスチナ・ガザ地区では、必要不可欠な医療が受けられず、妊婦は麻酔なしで帝王切開しなければならない状況で、流産は300%増加したと報告されている。
「フェミニストとして、この状況に対して何も言わないとかありえない、という思いが根幹にあります」
そう話すのは、皆本夏樹さん。現在、「<パレスチナ>を生きる人々を想う学生若者有志の会」の一員として、イスラエルに停戦を求めるための活動を行っている。
「停戦だけでなく、パレスチナが解放されるまで行動し続ける」と話す皆本さんだが、攻撃が始まった2023年10月7日以前は、パレスチナのために何か活動したことはなかったという。
なぜ皆本さんは立ち上がり、市民の力を信じて行動し続けられるのか。
「知らせなきゃ」一人で始めた翻訳動画
皆本さんは大学でアラビア語を学んでいたこともあり、パレスチナのことはある程度知っていたが、具体的に自分で何か行動したことはなかったそうだ。
しかし2023年10月以降、イスラエルのパレスチナ・ガザ地区の侵攻が一気に加速していく光景を画面を通して目の当たりにし、このままではダメだと思ったという。
当初は「ハマスが先に攻撃した」というナラティブが主流だった中、皆本さんは「違うでしょ。75年間、パレスチナはイスラエルによって占領されて、ずっと同じようなことが繰り返されてきたじゃん」と憤った。
「実際にパレスチナで何が起きているのかを、とにかく知らせなきゃと思って。毎日のようにインスタグラムで、パレスチナ人が英語で現状を話す動画に日本語字幕をつけて発信をしていました」
すると、周りでも翻訳動画を上げる人がだんだんと増えていき、パレスチナの人たちがこれまでに受け続けてきた抑圧について理解する人が増えていったという。
「私はフェミニストでクィアです。フェミニストでクィアであるということは、あらゆる女性、あらゆるクィアの人の解放を求めるということなんです」
イスラエルは「LGBTQフレンドリー」を謳っている。11月には「ガザに掲げられた最初のレインボーフラッグ」というコメントとともに、戦車の前でレインボーフラッグを掲げるイスラエル兵士の写真がX上に投稿された。日本のLGBTQ関連のイベントでも、イスラエル大使館は過去に後援やブース出展をしている。
「戦場に堂々と掲げられるレインボーフラッグなんて、ピンクウォッシュ以外の何物でもありません。このグロテスクさに対して、日本のクィアも声を上げる必然性はあると思っています」
皆本さんはパレスチナについて学ぶ講習会などを通して「<パレスチナ>を生きる人々を想う学生若者有志の会」と出会い、主体的にデモや抗議活動をするようになっていった。
市民の力を感じた瞬間
日本からパレスチナに連帯するために、何ができるだろう。皆本さんは、「プラスで何か手助けする前に、まず戦争に加担すること自体を止めないといけない」と考えた。
「日本にいるパレスチナ人の人たちにやらせるんじゃなくて、日本の市民として止める責任があると思ったんです」
そこで12月21日から、伊藤忠商事の子会社の伊藤忠アビエーションと日本エヤークラフトサプライがイスラエル軍事大手「エルビット・システムズ」と結んでいる協力覚書を破棄するよう、署名活動を始めた。
署名は1カ月も経たないうちに2万筆以上集まった。署名を両社に届けるとともに、2024年1月からは就活生に人気の高い伊藤忠商事に向けて就活イベントで抗議活動を行ったり、日本エヤークラフトサプライ社の前で協力覚書の破棄を訴えたりするなど、できる限りの抗議活動を行った。
その後、伊藤忠は2月5日、日本エヤークラフトサプライは2月9日に、エルビット・システムズとの協力覚書を2月中に終了すると発表した。
「とても大きい市民の勝利で、私たち市民にはちゃんと力があると思えました」
伊藤忠商事はハフポスト日本版の取材に、協力覚書を終了する理由として「国際司法裁判所(ICJ)による1月26日の暫定措置命令によるもの」と回答。皆本さんは、「それもまた、非常に意味があることだと思っています。ICJの判断を理由に企業が加担を止める前例を作ったことになりますから」と指摘した。
一方、「日本企業を日本の市民が止めるのは当たり前で、マイナス状態を少し0に近づけただけ」だと皆本さん。
「イスラエルによる虐殺はまだ全然止まっていません。イスラエルのネタニヤフ首相は、パレスチナ人約150万人が密集するラファへの地上侵攻を宣言しています。本当に、全力で止めないといけません」
ビジネスと人権の専門家の髙橋宗瑠大阪女学院大大学院教授は、「日本企業と提携しうるような大きなイスラエル企業との取引は、イスラエルのジェノサイドや植民地化に加担してしまう可能性が高い」と警鐘を鳴らしている。
「日本政府は戦争犯罪をしている」
イスラエルによるパレスチナの占領や侵攻を止めるために、「BDS(ボイコット・ダイベストメント/投資引き上げ・サンクション/制裁)」運動が世界的に行われてきた。伊藤忠と日本エヤークラフトサプライのMOU破棄は市民と企業の動きであるボイコットと投資引き上げに当たるが、今後は日本政府に「制裁」を行うよう強く求めると皆本さん。
「日本政府はUNRWA(ウンルワ)への資金拠出を停止しましたが、それが一体どういうことなのかわかっているのでしょうか。ガザ地区のパレスチナ人200万人の生活を支えている組織への資金提供を止めることは、戦争犯罪にあたり『集団的懲罰』だと批判されています」
10月7日以降にネタニヤフ首相がガザの電気、水、食料、衣料品を止めたこともまた、戦争犯罪の「集団的懲罰」にあたると人権団体や国連などが批判した。皆本さんは、「日本政府がやっていることは、イスラエル政府がしていることと同じだ」と指摘した。
「国際法を無視しても誰も処罰されないイスラエルと処罰しない国際社会は本当におかしいと思います。市民でなんとかするしかないんだったら、やるしかない。停戦だけでなく、パレスチナが解放されるまでBDSを続けます」
髙橋教授もまた、「イスラエル企業と取引をすれば儲かるという、そのシステムを変えなければいけません」と指摘した上で、「システムを変えるのは政府です。政府が政府間ボイコットや経済制裁に向けて動くべきです」と政府に行動を求めた。
「あなたの声には力がある」
最後に「みなさん、とにかく行動してください」と訴えた皆本さん。イスラエル産の農産物や、イスラエル企業や虐殺に加担している企業が作っている製品を買わないことや、デモや署名への参加を呼びかけた。
「そうした小さな一つひとつの行動やあなたの声には力があります」
2月26日午後2時からは、衆議院第二議員会館で国会議員にアクションを求める場が設けられるという。詳細はこちら。