障害のある表現者たちを対象にした国際アートアワード「HERALBONY Art Prize」が創設された。国籍や居住地、年齢、プロ・アマを問わず、広く作品を募集している。
審査基準は「独自の視点を持ち、新たな芸術創造性があるか」「社会に新たな視点や変化を投げかけるような独創性があるか」「多様性を体現する、自由な発想があるか」。
賞を創設したのは、知的障害のある作家たちが描くアートデータのライセンスを管理し、商品・空間の企画プロデュースやライフスタイルブランド「HERALBONY」、岩手県盛岡市のアートギャラリー「HERALBONY GALLERY」の運営など、さまざまなビジネスを展開する「ヘラルボニー」。
審査員には、東京藝術大学学長の日比野克彦氏、金沢21世紀美術館チーフ・キュレーターの黒澤浩美氏、世界のアール・ブリュット(※)を牽引する「Galerie Christian Berst」のクリスチャン・バースト氏ら錚々たる顔ぶれが並ぶ。
ヘラルボニー共同代表の松田崇弥氏・文登氏と審査員の日比野克彦氏、黒澤浩美氏に話を聞いた。
※アール・ブリュット...芸術的な教養・訓練を受けていない人が、自身の内側から湧きあがる衝動により表現したアート作品
「普通じゃない」ことは可能性だ
【松田崇弥氏、松田文登氏】
社会が障害を「かわいそう」と見ることには、違和感があります。「普通じゃない」ということ、それは同時に、可能性でもあります。
ひとりひとりに存在する異なる彩りー「異彩」を社会に発露させていくことが、ヘラルボニーの目指すミッションです。
才能は、披露して初めて才能になる。「HERALBONY Art Prize」を通して、これまで「賞に参加する」という価値観を持ったことがない人たちが参加するきっかけと、彼らの異彩、存在そのものが本当の意味で賞賛される舞台をつくっていきたい。
賞を授けて終わり、ではありません。受賞作品は、協賛企業のサービス・プロダクト・事業のいずれかに採用される可能性があり、作家たちのキャリアをバックアップしていきます。
世界では、アール・ブリュットのさまざまな創作が行われています。ニューヨークなどでは、世界中のギャラリーが集う「アウトサイダー・アートフェア」が行われていて、コレクターも相当いる。海外の企業や福祉施設などとも連携を深め、多くの作家が目標にするような国際アートアワードに育てていこう、と考えています。
「気づき」をうむコンペティション
【日比野克彦氏】
アール・ブリュットの魅力のひとつは、障害のあるなしに関わらず、80億人(地球の人口)の文化がある、と気づかされることです。
アジアやヨーロッパといった地域性、コミュニケーションから生まれる文化ではなく、もっと純粋な「生の人間」、個人が表出される。
歴史的に見ると、西洋・欧米を中心とした美術史やアートマーケットには、浮世絵しかりアフリカンアートしかり、プリミティブなものが認識されていない時代がありました。万国博覧会などで接することによって、その地域の価値観というものが、しっかりとアートのヒストリーの中に組み込まれていった。
国際コンペ「HERALBONY Art Prize」は、そうした「気づき」になる。それは、社会を変えることにつながっていきます。
見過ごされている人を見つけたい
【黒澤浩美さん】
現代美術のキュレーターをしていると、皆が見ているものが同じ、良いと言っているものも同じで、同質化して行き詰まっているのではないかな、と思うことがあります。
純粋に才能を持っている人が世界にいるのに、ただ伝えられる機会がないだけで、見過ごされている。そうした人たちにスポットライトが当たるような仕事ができれば、と思っています。
オリンピックやパラリンピックがあることで、知らなかった競技やアスリートを知るように、「HERALBONY Art Prize」という場を開くことで、初めて見過ごされてきた人たちの存在が分かる。
障害のある人のために、というのはおこがましい視点です。いかに私たち全員が幸せを目指すことに向かっていけるか、を考えたとき、受容する側、アーティストの作品を受けとる側の意識を変えていくことが求められている。時間はかかるけれど、世界は確実にそうした方向に進んでいると感じています。
応募は2024年3月15日まで。グランプリには賞金300万円が贈られ、ほかに企業賞も選ばれる。受賞作品とファイナリストの作品は、8月上旬から東京都内で開催される展覧会で展示予定。
詳しくは特設サイトへ