東京電力福島第一原発事故後の2011年10月に始まった福島県「県民健康調査」甲状腺検査を巡り、福島県は約1年前の23年12月、「甲状腺検査に関するアンケート調査」の結果を公開している。
調査では、検査対象者の半数以上が「メリット・デメリット」について「知らなかった」と回答。また、一定数の人が今後も検査を受ける理由として、県側が自ら掲げているメリットに関連する回答を選んでいることもわかった。
福島甲状腺検査に詳しい専門家は以前、ハフポストの取材に「そもそも福島の甲状腺検査にメリットはない」「県や福島医大がメリットとして挙げているものは根拠がない」などと批判している。
結果の概要をまとめた。
◆甲状腺検査、なぜ受ける?
アンケート調査の結果は、今年2月に開かれた「第50回『県民健康調査』検討委員会」でも報告されている。2023年8月2〜23日、郵送やインターネット上で実施し、検査対象者とその保護者ら3653人が回答した。
対象者が16歳未満の場合は保護者が、対象者が16歳〜18歳未満の場合は本人か保護者が、対象者が18歳以上の場合は本人がそれぞれ回答している。
まず、「福島県の甲状腺検査を受けたことがあるか」と尋ねると、16歳以上18歳未満の本人(891人)は92.3%、18歳以上の本人(441人)の81.0%が「ある」と回答した。
次に、甲状腺検査は任意の検査だと示した上で、「今後も受診するつもりがあるか」と聞いたところ、16歳以上18歳未満の本人は「ある」が59.4%、「ない」が14.3%、18歳以上の本人は「ある」が43.5%、「ない」が27.0%だった。
では、今後も受診するつもりがあると回答した理由は何か。
16歳以上18歳未満の本人(529人)で最も多かったのは、「異常がないと分かると安心できる」(71.8%)だった。続いて、「学校で検査が受診できて便利」(42.3%)、「早期診断につながると考えられる」(42.2%)、「これまで受診してきたため」(40.3%)、「放射線への不安がある」(39.3%)などだった。
18歳以上の本人(192人)でも、「異常がないと分かると安心できる」(67.7%)が最多で、「早期診断につながると考えられる」(52.6%)、「これまで受診してきた」(36.5%)、「放射線への不安がある」(35.4%)、「放射線の健康影響を調べる疫学調査に協力したい」(17.2%)などと続いた。
16歳以上18歳未満の本人、18歳以上の本人いずれも「異常がないと分かると安心できる」という回答が最も多かったが、専門家からは「安心につながる検査というのは通じない」という指摘もある。
二次検査の必要のないA2判定でも、「なにか異常があるのでは」と心配になる人も多いほか、B判定もほとんどは良性結節だが、検査対象者は「ついにがんと宣告されるのか」と悩みに悩むという。
また、福島県の冊子「甲状腺検査のメリット・デメリット」では、「検査を受けて異常がなければ安心できる」ことをメリットとして挙げているが、前述の専門家は「そもそも福島の甲状腺検査にメリットはない」や「県や福島医大がメリットとして挙げているものは根拠がない」と言及している。
さらに「早期診断につながる」と回答した人も一定数いたが、スクリーニングが予後を改善したり、再発を減らしたりするということは証明されていない。
16歳以上18歳未満の本人で「学校で検査が受診できて便利なため」という回答も一定数あったが、これは「任意性の担保」の問題につながってくる。
◆検査を受けるつもりはない、その理由は?
一方、受けるつもりはないと回答した16歳以上18歳未満の本人(127人)では、その理由として「放射線への不安がない」(46.5%)が最も多かった。続いて「前回の検査結果で安心できた」(34.6%)だった。
一生症状が出ない無害の病気を診断する「過剰診断」という言葉は使われていないが、「治療の必要がないがんを発見してしまうかもしれない」という回答は3.1%にとどまった。
18歳以上の本人(119人)では、「卒業して学校での検査がなくなった」(36.1%)、「放射線への不安がない」(35.3%)などと続いた。「治療の必要がないがんを発見してしまうかもしれない」は8.4%と1割弱だった。
さらに、「甲状腺検査にメリット・デメリットがあることを知っていたかどうか」について尋ねると、16歳以上18歳未満の本人(891人)は58.4%、18歳以上の本人(441人)は56.5%が「知らなかった」と回答した。
いずれも半数以上が「メリット・デメリット」について知らないと回答しているが、前述の通り「検査にメリットはない」と指摘する専門家もいるほか、県や福島医大はそもそも「過剰診断」という言葉を使ってデメリットの説明をしていない。
がんと診断された際に発生する身体的・精神的負担のほか、生命保険やローン契約の不利な取り扱い、就労・ライフイベントで不利益を受ける恐れについても触れられていない現状がある。
◆「受診してほしくない」保護者は2%前後
次は、検査対象者が16歳未満の保護者(1206人)と、16歳以上18歳未満の保護者(1115人)に、「子どもが福島の甲状腺検査を受けたことがあるか」と聞いた。
その結果、16歳未満の保護者は95.1%、16歳以上18歳未満の保護者は95.2%が「ある」と回答した。
甲状腺検査は任意の検査だと示した上で、「今後も子どもに受診してほしいか」と聞いたところ、16歳未満の保護者は70.2%、16歳以上18歳未満の保護者は61.8%が「受診してほしい」と答えた。
その理由は両者とも同じ傾向で、「異常がないと分かると安心できる」、「早期診断につながると考えられる」、「放射線への不安がある」、「学校で検査が受診できて便利」、「これまで受診してきたため」、「放射線の健康影響を調べる疫学調査に協力したい」の順で多かった。
一方、「受診してほしくない」は2%前後ずつしかおらず、16歳未満の保護者(19人)はその理由について、「放射線への不安がない」、「検査の結果で心身の負担が増すかもしれない」、「治療の必要がないがんを発見してしまうかもしれない」などと答えた。
16歳以上18歳未満の保護者(24人)も、「放射線への不安がない」、「検査の結果で心身の負担が増すかもしれない」、「治療の必要がないがんを発見してしまうかもしれないため」などだった。
一方、「甲状腺検査にメリットとデメリットがあることを知っていたか」については、16歳未満の保護者は40.0%、16歳以上18歳未満の保護者は37.8%が「知らなかった」とそれぞれ回答している。
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甲状腺検査は、10月で開始から13年となった。
事故当時18歳以下だった県民ら約38万人を対象に実施されており、3月末現在で338人が甲状腺がん(疑い含む)と診断され、285人が手術を受けている。
100万人に数人という割合で見つかる小児の甲状腺がんだが、福島で多く見つかっている理由は「放射線被ばくの結果ではない」というのが世界的なコンセンサス。
「むしろ高感度の超音波検査の結果」であり、放置しても生涯にわたって何の害も出さない病気を見つけてしまう「過剰診断」の被害を生んでいると指摘する専門家も多い。
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