「返信不要です」
相手の時間を割かないようにしたい、手間取らせたくない。そんなとき、このひと言をメールの最後に付け加えたことはありませんか。
でも「不要」という表現はなんとなく冷たい感じがして、使うのをためらった経験がある人もいるかもしれません。
「返信は結構です」も、やっぱりちょっと突き放したような印象がある。
「返信は大丈夫です!」だと軽すぎるかな…
筆者もこれまで他の言い換えを考えてみましたが、どれもしっくりこず結局は「返信不要です」に落ち着いていました。
「不備がなければ...」
先日、「返信不要」の言い換え表現を紹介するツイートが話題になりました。
投稿者は、フリーランスのマーケターでライティング講師の清水雪子さん(@yuki8marketer)。1月10日、自身が過去に体験したエピソードを次のように報告しました。
<「返信不要です」。不要、という言葉からは“要らない”というクールな印象を受けるけれど。クライアントからいただいた、とても丁寧なメールの末尾に感動。「もし不備がなければ、ご返信には及びません。ありがとうございます」。ああ、この返信不要は優しいな。読み終えた心が温まった。>
「もし不備がなければ、ご返信には及びません」
確かに良い…!「特に何もなければスルーして良いですよ」という送り手の意図がきちんと伝わり、言い回しも柔らかく感じます。
体験をシェアした思いなどを、清水さんに聞きました。
清水さんによると、メールが届いたのは2021年2月。清水さんが開いているライティング講座の受講生から送られたものでした。2022年になり、この受講生から再び連絡がきたことで当時のメールの文面を思い出し、ツイートで改めて紹介したといいます。
清水さんは、「相手への思いやりや気遣いより先に『不要』のインパクトが強く、使いづらい」と感じていたため、「返信不要」という表現をこれまで使っていませんでした。その代わり、「何かございましたら、ご返信ください」と添えるようにしていたそうです。
受講生からのメールを読み、清水さんは「『及びません』という言葉には『していただくことを恐縮に思います』という響きがあり、私への敬意や思いやりを感じられて、大変ありがたく感じました」と振り返ります。
「読み手の心を温かくする文章を紡ぎたいと普段から思っている人間として、言葉遣いひとつでこんなにも印象が変わるんだということを伝えたい」と考え、SNS上でシェアすることにしたといいます。
「正しい・正しくない」じゃない
清水さんのツイートには1月21日時点で35万件の「いいね」が寄せられ、大きな反響を呼びました。ただ、「返信不要」という言葉に冷たさや素っ気なさを感じるという声も多い半面、細かい表現に気を回すのは面倒という声も寄せられました。
たしかに、「返信不要」から冷たい印象は受けない、それだけで思いやりを感じる、という人もいるでしょう。言葉の受け止め方は当然、人それぞれです。
清水さんはその後のツイートで、「私は『こう書くのがマナーだ』『返信不要という言葉は冷たいから使わないでほしい』と言っているわけではありません」と補足しています。あくまで清水さん個人が、受講生からのメールの文章に思いやりを感じたまでの話だと前置きし、「ビジネスメールとして、これが正しいか・正しくないかの議論ではないのです」と強調します。
作家たちの言い回しは?
国語辞典編纂者で日本語学者の飯間浩明さん(@IIMA_Hiroaki)によると、「返信不要」に近い文言は実は昔からあるといいます。
「例えば、太宰治の『虚構の春』(1936年)には<御返事かならず不要です>とあります。
永井荷風の長編小説『濹東綺譚(ぼくとうきだん)』(1937年)には<この御返事御無用にて候>とあり、ここでは不要ではなく無用が使われています。“心配ご無用”のように、ご無用の方が昔っぽくて風情がある気もします」(飯間さん)
作家の村上龍さんは、『eメールの達人になる』(2001年、集英社新書)で、「このメールに関する限り返信は不要です」とよく書くと明かしています。
「この件、OKでしたら無視してくださって結構です」
「変更がある場合のみ、返信ください」
「何か問題がある場合のみ、ご連絡ください」
といった、特別の事情がある場合を除き返信の必要がないことを明示する一文が末尾に添えられていると、村上さんは「この人は受け手のことを考えているな、と思う」とつづっています。
一方、飯間さん自身は「この種の文言は使った記憶がありません」と話します。
「返信の要・不要は先方が判断するだろうと思うからです。こちらがメールを受け取った場合も同様で、返信が必要だと思えば返信するし、そうでなければしません。これは、先方からのメールに『返信不要』と書いてあっても同様です。要するに、臨機応変ですね」
あえて「返信不要」に類する言葉を使わない、というのも一つの選択肢。
相手との関係性やメールの文脈に合わせて、自分にとって一番しっくりくる表現をその都度選ぶのが良いのかもしれません。
(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)