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「成人式までまだ時間もあるし、みんなと同じように振袖を着たいと思える日が来るかもしれない。そうやって、本音を自分で否定するような、封印するような考えを無意識にするようになりました」
大人になる節目を仲間と一緒に祝う成人式。女性は振袖、男性はスーツという風潮に疑問を抱き、参加を諦める人もいます。
東京都内の大学に通う新成人の小野心優さん(20)も、そう迷っていた一人でした。
そんな小野さんが参加したのは地元の成人式ではなく、「女性」の体に合うメンズスーツを販売する『keuzes』(クーゼス)が開催した成人式イベント『SEIJIN-SHIKI』。小野さんが自分らしい格好で晴れの日を迎えるまでに抱えてきた思いや葛藤を聞きました。
◆「振袖を着たくない」と、成人式には行けない?
小野さんは小学生の頃から、スカートやワンピースは好みではなく、ズボンや短パンをよく履いていました。
それは、嫌なことでも断れなかったり、いじっても大丈夫だと思われたりといった自分の性格に、コンプレックスを抱えていたことが背景にあるといいます。
「憧れていたクールな人に、見た目からでもなりたいという思いが、根底にあったんだと思います」
水泳のコーチに「女性らしい体になってきたね」と言われた小学4年生の時、人生の中で一番、自分の体が嫌になりました。ですが当時はジェンダーやLGBTQという言葉が普及していないこともあり、自分の気持ちを肯定できず、本音に蓋をするようになりました。
進学した中高一貫校は、グローバル教育に力をいれていることもあってなのか、「男性らしさ」「女性らしさ」を押し付けられることはあまりありませんでした。制服も女性らしさが強調されにくいものだったことから、次第に自分の体への拒否感に意識を向けずに生きるようになりました。
それでも高校時代、YouTubeでクーゼスの「女性の体にも似合うメンズスーツ」を知った時は、「こんなにかっこよくスタイリッシュになれるなんて」と感動し、その記憶が脳にずっと残っていました。
その後、面接や大学の入学式などのたびに、いわゆる女性らしさが強調されるレディーススーツを着ることに苦しさが募ることも。大学2年になり、クーゼスのスーツを購入した時は、思った以上に自分に似合っていて「これからの人生を一緒に歩むパートナーができた」ような気持ちだったといいます。
一方で20歳に近づくにつれて、成人式に関する広告を目にすることが増えました。インスタグラムでは「成人式に行かないで後悔した」という投稿が目に入ったほか、小学校時代の友人と会いたくて、成人式に行きたいという思いはありました。
ですがこれまでの半生で、参加できないなという思いも募っていました。それは、振袖を絶対に着たくなかったからだといいます。
周囲は振袖の話で盛り上がり、成人式について調べると、どこのサイトにも「女性は振袖で参加するのがマナー」と書いてありました。自分の晴れの日のはずなのに、自分が着たくない服を着て祝われると思うと、そこまで大切なものだと思えなくなっていきました。
そこに、セクシュアリティの揺らぎも重なりました。
性自認でいうと、男性の体に憧れはあるという小野さん。性的指向で考えると、男性と交際したことはあるものの、女性にも好意を抱いたことがあるといいます。
セクシュアリティはグラデーションだと言われ、小野さんも「100%、明確に決めなくて良いという気持ちもあるんです」と話します。
服装はセクシュアリティと紐づいて語られることも多いですが、小野さんが生きていく上で大切にしたいのは、「自分の好きな自分でいたい」ということ。
「成人式に参加したい。だけれど、自分の好きな格好をしたい」。本来なら相反する2つの本音に手を差し伸べてくれたのが、クーゼスの成人式イベントでした。
「決まった枠に無理に自分を当てはめなくても、自分が表現したい自分で胸を晴れそう」。そう思い参加を決めたものの、当日までは周りの人にどう思われるのかという怖さもあったといいます。
ですが自分らしい格好でイキイキとした表情を見せる参加者を見て、その不安は一気になくなりました。それに、一般的な成人式は旧友との再会の場ですが、同じような思いを共有できる新たな友人ができたといいます。
「成人式はこういうものという伝統も大切だと思います。ですがそれを望まない人もいると思うんです。だからこそ、いろんな伝統が、少しずつ柔軟になっていくことで、いろんな人が生きやすくなるのかなって」
そう語る小野さんは、新成人代表のスピーチでこう述べました。
「私自身も、自分自身が好きなものや姿を抵抗もなく表現できる、そして表現できるような道を作っていく人になれますように」
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>