最大震度7を観測した能登半島地震で、石川県は1月10日、災害関連死(震災後に災害による負傷の悪化または身体的負担による疾病のため死亡したと思われる死者数で、市町が判断したもの)を8人と発表した。
2万6000人あまりが避難生活を送る中、災害から助かった命が危険にさらされている。
被災地で災害関連死を防ごうと活動する現地医師が、ハフポスト日本版の電話インタビューに答えた。
「この1週間で、どんどん悪化している。要介護でなんとか歩けていたのに、避難所で動かずにいたことで、寝たきりになってしまった人もいる。一刻を争う適切な対応が必要だ」。石川県内灘町の金沢医科大学病院リハビリテーションセンターの医師、松下功さんは被災地の窮状を語る。
松下さんは、高齢者や障害のある人など、災害弱者の災害関連死などを防ぐため、東日本大震災をきっかけに組織された「JRAT」(日本災害リハビリテーション支援協会)石川支部で2日から被災者救援の活動を開始、現地対策本部で指揮にあたっている。
JRATでは、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士らがチームを組み、避難所を回る。
高齢者が静脈血栓症にならないような体操や、低体温症の予防策、摂食・嚥下などについて、被災者の状態を見ながら指導している。
水が不足する中、誤嚥性肺炎を予防するには、ウェットティッシュで口の中を拭くなどして口腔内を清潔に保つこと、血栓症予防のため、狭い場所では足首を動かすことが有効という。
生活の不活発化を防ぎ、高齢者らが自分で動く力を失わないよう、避難所の環境も調べ、車椅子や杖などの福祉用具や簡易ベッドの手すり、段差のスローブなどの必要性について、市町の担当者に情報を伝えている。
9日にはリハビリテーション科専門医と理学療法士のチームが七尾市と穴水町の計10カ所を訪ねた。避難していた被災者の数は10人から300人(夜間は600人)まで、避難所の規模はさまざまで、被災直後には要介護3程度だった人が、全く動けなくなっていたケースもあったという。車中泊の人も多く、JRATでは血栓症予防に弾性ストッキングの配布も検討している。
穴水町の避難所では、複数人が新型コロナに感染しており、JRATのメンバーは感染症対策をしながら対応にあたった。
松下さんは「能登半島は、高齢化率が非常に高い地域。特殊な地形のため、救援に向かう陸路が限られている上に、その道が寸断されている。雪が降り積もり体温を奪う季節に、感染症が追い打ちをかける。非常に厳しい状況だ」と話す。余震も続いており、ハフポスト日本版の取材中にも強い揺れがあった。
石川県は10日、災害関連死を8人と発表した。松下さんは「地震で助かった、とそれだけで安心してはいけない」という。「災害弱者の状態が悪化するのは、あっという間です。このままでは日ごとに寝たきりになる人や死亡する人が増える。僕たちは助かった命を守り、平時の状態に戻さなければいけない」。
長引く避難生活による心身機能の低下や災害関連死の危険は、今後さらに増えていく。JRATでは、応急対応としてのリハビリだけでなく、避難所での生活不活発病予防、地域生活の自立へと、段階を踏み、息の長い支援を続けていく予定だ。
七尾市から穴水町まで、通常40分で行けるところが倍の1時間20分かかる。珠洲市や能登町など、甚大な被害のあった地域へは日帰りできないため、中継する前線基地をつくろうと計画をしている。
人手は全く足りていない。JRATでは全国の医療従事者に向けて、参加を呼びかけている。問い合わせはJRAT(https://www.jrat.jp/contact.html)へ。