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北海道・新千歳空港から羽田空港(東京都大田区)に到着した日本航空(JAL)の516便が1月2日夕、滑走路にいた海上保安庁の航空機と衝突した。
この事故で2機とも炎上した。海保機に乗っていた5人が命を落とし、機長は重傷を負った。JAL機の乗客と乗務員379人は脱出用シューターを使うなどして全員が脱出した。負傷者が14人いるが、いずれも命に別状はないという。
窓の外はオレンジの炎、機内には白い煙
乗客が撮影した動画では、飛行機の窓の外がオレンジ色の炎に包まれ、機内に白い煙が立ち込めるなか、客室乗務員が座席に座った乗客に向けて「姿勢を低くしてください」「荷物を取り出さないでください」と冷静に指示を出す姿が映っている。
機内には、子どもが泣き叫ぶ声が響き渡る。上半身を前に倒し、指示通り座席で姿勢を低くしている乗客の姿も見える。「早く出してください」「開ければいいじゃないですか」という子どものものとみられる声も聞こえる。
機内にいつ炎が回るかもしれない状況だったが、乗客たちは前方のドアから脱出用シューターを使って滑り降り、機体から離れることができた。
90秒ルールとは?
ここで注目されているのが「90秒ルール」だ。
JAL機について「全員脱出」と報じられると、ネットなどでは「この状況から即座に全員脱出させるなんて!まさしく訓練の賜物だ」といった反応が広がった。
航空界には「90秒ルール」と呼ばれる世界基準がある。
アメリカ連邦航空局(FAA)が1967年に航空機メーカーに出した要件で、44席以上の旅客機についてはいずれの機種でも特定の条件下で90秒以内に全員が脱出できることを実証しなければならないというもの。
航空機がお客さんを乗せて商用運航するには、FAAが機種ごとに出すお墨付きが必要になる。航空機メーカーはこのお墨付きなしでは、製造した機体を旅客機として販売することができない。
90秒ルールを満たしていると示すために、航空機メーカーは実際の機体を使って緊急脱出ができると実証するか、試験と分析を組み合わせて実証するかのいずれかの方法を用いなければならない。
実機を使っての実証では、照明や乗客役として参加しているボランティアの属性、通路に置かれたバッグや枕、毛布といった障害物の位置などについて細かな条件が設定されている。
具体的には、照明は薄暗がりであること、乗客は男女が混じっていること(4割以上が女性であること)や35%が50歳超であること、2歳以下の幼児がいるという想定で実物大の人形3体を抱えること。さらに、出口の半分が使えないという条件のもとで90秒で乗客全員を脱出させられると証明することが求められている。
JALもこの基準にのっとって訓練しているとされ、すべての乗客の命を救った。
アメリカでは実証条件が不十分の声も
アメリカではFAAに対して、実証実験の条件として「障害がある乗客のことが考慮されておらず、現実からかけ離れている」と民主党の上院議員らが声を上げている。
両足を失っているタミー・ダックワース上院議員(民主党)はCBSの取材に、「飛行機は今やほぼすべての席が埋まった状態で運航しています。全席の3割だけが埋まっているという想定での実証実験はありえません。現実とかけ離れています」と話し、現実の座席の埋まり具合などを反映した「通常の条件下」では90秒以内に機内から脱出することは難しいという考えを示している。
さらに、より多くの乗客を乗せるために旅客機の座席は小さくなり、前の座席との距離が縮まっていることによる脱出への影響も指摘されている。
CBSによると、この30年で座席の横幅は約10センチ狭まって約40センチほどになった。列と列の間隔は、約88センチから約71センチへと狭まっているという。