日本はジェンダーギャップ指数125位、政治分野は146カ国中138位で「世界最低レベル」だ。戦後からまもなく80年が経とうとしているが、女性の国会議員の数は3割に未だ届いていない。
どうすれば、日本のジェンダーギャップを埋めていけるのか。
日本人女性初の国連事務次長に就任した中満泉さん、東京都杉並区初の女性区長になった岸本聡子さん、2023年の統一地方選挙で20〜30代の女性立候補者を支援する「FIFTYS PROJECT」を主導した能條桃子さんとハフポスト日本版の泉谷由梨子編集長が集い、本音で語り合った。
「女性が政治家になる」リアルとは
泉谷由梨子編集長(以下泉谷):
まずは選挙の現場のことから伺いたいと思います。能條さんは2023年の統一地方選から、20〜30代で女性・Xジェンダー・ノンバイナリーの選挙立候補を支援する「FIFTYS PROJECT」を始めました。実際に支援をする中で見えてきたことはありますか。
能條桃子さん/FIFTYS PROJECT代表(以下能條):
統一地方選挙では、FIFTYS PROJECTが支援した29人中、24人が当選する結果となりました。何よりもあらゆる世代の有権者に求められているとよく分かりましたし、立候補の後押しさえできたら、ちゃんといい勝負ができたり、当選できたりすることが明らかになりました。
支援した人たちはみんな「大変だ」と言いながらもやりがいを感じています。当選した人も落選した人も「出てよかった」と言っていることを、もっと多くの人に知って欲しいですね。
一方で全体を見ると、全国に約3万人の地方議員がいる中、20〜30代の女性市区議員はまだ300人にも満たない。少しずつ変化は起きていますが、課題もあります。
選挙前の2〜3カ月はやっぱり選挙に集中しなきゃいけないとなると、仕事を辞め、貯金を切り崩して活動することになりがちです。地元ではない場所で立候補する難しさに直面した人もいます。また、選挙の過程でも当選後でもハラスメントを受ける可能性が高いと考えると、魅力的な職業とは言いづらいのも現実です。
岸本聡子さん/杉並区長(以下岸本):
私が戦った区長選は、支援者の1000円のカンパで成り立っていました。みんなで当選させたい立候補者を支えていくような、市民の集合的な力が必要だと思います。
私の場合は地元出身ではないことが弱みでもあったけれど、選挙活動をする中で杉並のことが大好きになったし、地域の課題を急速に学ぶことができました。全国で地方議員のなり手が不足する中、「その土地の人じゃないといけない」という思い込みはなくしていってもいいのかなと思います。
中満泉さん/国連事務次長(以下中満):
ハラスメントについてはいかがですか?国連のジェンダー部門では、女性の政治家に対するオンライン上のハラスメントが非常に問題になっています。
実際に私のよく知っているあるヨーロッパの女性政治家が、誹謗中傷に耐えきれず、最近辞めてしまったんです。彼女はとてもタフな人で、財務大臣や外務大臣を担ってきたような人だったのに…。
岸本:
SNS上の攻撃は「みんなに言われている」と思ってしまいがちですが、よく見てみると10〜20人の特定の人たちが毎日のように攻撃的な発信を繰り返しています。そう認識できると、辛いながらも受け止め方が少し変わるかなと思います。
議会で私の人格や存在を否定されるのは堪えますね。議場に入る時に過去の記憶がフラッシュバックして足がすくんじゃうくらい。また、新人女性議員が質問をするときに集団で笑ったり、揚げ足を取ったりするようなヤジもありました。
そうした言動に対しては、女性議員たちが中心となって「ここは許しちゃいけない」と議長宛に抗議文を出しました。
泉谷:
杉並区議会は2023年の統一地方選で、議員の女性比率50%を達成しました。そうでなかったら、ハラスメントに対して女性議員たちが抗議文をまとめるような動きも出づらかったと思います。議員のジェンダーバランスが重要だとよく分かりますね。
女性議員が増えたことで、区政に変化はありましたか?
岸本:
今、子どもから高齢者まで、「居場所」がないということが非常に深刻な問題です。例えば、現在学校に行けない子どもが杉並区だけで約900人います。また、社会的孤立者の割合が世界的に見ても高い日本。杉並区でも3人に1人の高齢者が一人暮らしをしています。
ケアが必要な人、生きづらさを抱えている人の居場所づくりの取り組みは、地域の女性たちが長年地道にやってきました。地域社会とよく関わって生きてきた女性議員が増えたことで、「居場所づくり」を社会課題解決の「鍵」として議論を深められるようになりました。
また、屋敷林の樹木を守りながら地域のケアの拠点を創ろうといった具合に「こども」「若者」「高齢者」「障害者」など縦割りになりがちな議論が横に繋がるようになった気がします。
中満:
1回目当選したことはとても重要なことですが、 当選した上でどういう成果を上げていくか、どうやってインパクトを有権者に見せ、女性議員を定着させて次に繋げていくかも重要ですね。
国政はどう変わっていけるか
泉谷:
2018年に「政治分野における男女共同参画推進法」が制定されましたが、当選者に占める女性の割合は衆院(2021年)で9.7%、参院(2022年)で27.4%。各政党に男女の候補者数の目標を定めるなど努力義務を課していますが、「均等」からはほど遠い現状です。
日本には国連の女性差別撤廃条約に批准することで男女雇用機会均等法が成立するなど、外圧を上手く「てこ」にしてジェンダー政策を進めてきた歴史があります。今、国際的な動きで日本が参考にできることはありますか?
中満:
候補者の一定割合を女性にする「クオータ制」は参考にするべきだと思います。自民党の女性議員の中にもクオータ制を勉強されている人は増えてきていると思いますが、まだまだ真剣に議論されるところまではいっていません。
能條:
クオータ制は本当に重要です。女性割合を引き上げない政党は政党交付金を減らされるなど、実効性がある法改正をする必要があると思います。いつまでも「女性のやる気の問題」に矮小化されても解決しません。
中満:
やはり「努力義務」ではダメですよね。ジェンダー不平等を変えていくために、「これだけやればいい」ということはありません。法律を作ったら、モニタリングし、評価し、達成されなかった場合は原因を究明するといったパッケージを作る必要があります。
例えば、国連は2028年までに全てのレベルでの職員のジェンダーバランスについて男女比率50:50を達成する目標を掲げています。半年ごとの幹部会議で、全ての部門の男女比率の状況や変化のスピードまで公表され、ウェブサイトに掲載するなど、透明性を持って取り組んでいます。
もし私がトップを務める国連軍縮部での女性比率が上がっていなければ、マネジャーとしての私自身の人事評価や契約にも関わってきますから、真剣に才能を探します。やってみてみると分かりますが、「女性を探したけどいない」は嘘です。
泉谷:
現職国会議員のキャリアパスを分析した安藤優子さんは著書で、世襲でない限りなかなか国会議員になれないことや、地方議員から国政へと「登っていく」ハシゴが途中でなくなっていることが国会に女性議員が増えない理由の一つだと指摘していました。
岸本さんは、杉並から国政へ打って出るようなハシゴを、どうやればかけられると思いますか?
岸本:
私は発想が逆な気がします。地方政治に関わって、国と自治体の上意下達的な関係を強く感じます。例えば都市計画はそこで生きている住民にとってとても重要なことなのに、東京都が計画を決めて、基礎自治体である杉並区には決定権がないんです。
私は地方自治が民主主義の再生の鍵だと思っているので、地域から政治のあり方そのものを変えていきたいです。
能條:
国会議員が1番偉くて地方議員が下みたいなのって、すごく自民党的ですよね。ピラミッド型の組織で拾えている声もあるかもしれないけれど、生活に根ざしたような声や、マイノリティの声が届いていない。
私たちがやりたいことは、地域からの声を国に上げる力をつけていくことです。結局、女性でありながら(男尊女卑など古い価値観を持つ)「名誉男性化」しないと国会で生き残れないと思います。だからこそ、違う道筋があってもいいのかなと…。
中満:
お二人がおっしゃったことに同感するところも多いですが、では、なぜ投票率がこんなに低いんでしょうか。どうして投票で変えようとしないのでしょうか。
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「私たちがボスで、政治家はパブリックサーバントなんですよ」
世界で多くの選挙が行われる2024年。後編では、政治と市民の関係性をどう結び直し、民主主義を進化/深化させるのか、国際問題と地域の課題や分断が繋がっていく視点を語り合う。