ダイハツ・ビッグモーター、働く人が「闇落ち」する原因は?「『組織風土』に逃げるな」と専門家は指摘

組織ぐるみで不正に手を染め世間を驚かせたダイハツとビッグモーターの問題。組織開発の専門家である勅使川原真衣さんは、報告書にある「組織風土」の言葉に注目する。

大手自動車メーカーのダイハツが12月20日、生産中の全車種の出荷停止を発表し、衝撃が広がっている。

第三者委員会の報告書では「組織風土」の問題があると指摘された。2023年、中古車大手ビッグモーターでも組織的な不正が明るみに出たことはまだ記憶に新しい。

いったい何が起こっているのか。

これまで多くの製造業企業に対してコンサルティングを手がけてきた組織開発の専門家、勅使川原真衣さん「テレビ番組のコメンテーターなどからは、『個人の倫理観』についての言及もありました。しかしまずもって、個人の倫理観の問題でない。まじめな社員が、“ちゃんと”目標達成に向けて動いた結果であることを、ニュースの受け手は考えるべきです」と指摘。

「つまり本件は、生産性至上主義とトレードオフになりやすい実直な職務遂行や、他者との協働が蔑ろにされた結果であり、その点にいち早く気づき、軌道修正して来れなかった経営幹部の問題です」と話す。

不正が明らかになったダイハツ・ビッグモーター
不正が明らかになったダイハツ・ビッグモーター
時事通信社

ダイハツでは、車両の安全性を確認する衝突試験で不正が明らかになり、4月に2車種を出荷停止。さらに第三者委員会の調査で、生産・開発中の全28車種で不正が確認されたという。

第三者委員会の調査報告書では「組織風土の問題」が挙げられている。社員に対するアンケートなどに寄せられた具体的な事例としては以下のようなことが報告されている。

・「できて当たり前」の発想が強く、失敗があった場合に激しい叱責や非難

・全体的に人員不足、余裕がなく目の前の仕事をこなすのに精一杯

・机上で決定した日程は綱渡り日程でミスが許されない

・なんとか力業で乗り切った日程が実績となり、無茶苦茶な日程が標準となる

「組織風土」の問題については、ビッグモーターの第三者委員会調査でも同様に挙げられていた。しかし勅使川原さんは「組織風土」と言いさえすれば問題の真の原因が判明したかのようになる風潮に、異議を唱える。

「本件で浮かび上がってくるのは、集団がいかにして短絡的な意思決定の罠にはまるか?という、大きな問題提起と言えます。無茶苦茶な目標に対してNOと言わせない会社上層部。そしてそもそも、その目標というのは、本来的に効率と相容れない質の追求を、同時に高度に両立させるという、行きすぎた生産性至上主義の号令である点が痛ましい。そう考えるとダイハツに限らず、どの組織にも当てはまる懸念ではないでしょうか」

「『組織風土改革』というと、わかったようなわからない感じになりますから、もっとシンプルに、『利己的に動いた人が得をする、そうするほかない』というようなインセンティブ設計を企業がしてしまっていないか?と、点検してみるべきです。企業は社員に対してどういう仕事の進め方、言動を奨励し、社員に対して報いていくのか。断固許さない行動は何なのか?それをきちんと社員に対して提示、実践、振り返り、軌道修正していく……と間断なき、双方向的な行いが『組織風土』を形づくっていくのですから」

一方で、ダイハツとビッグモーターには「違い」があるとも、勅使川原さんは指摘する。

「ビッグモーターで不正を誘発していたのは、管理職個人の報酬に直結する(過度な)「成果主義」でした。それに対して、ダイハツでは、報酬に直結するわけではない、「生産性を上げる」という至極まっとうそうに聞こえる「成果主義」です。この点は似て非なる、議論の重大なポイントだと思います。楽して儲けよう、などいう浅慮とは真逆の方向に、社員のがんばりが消費されてしまったのが悔やまれます」

第三者委員会の調査で、不正のきっかけとしてダイハツには成功体験があったことが指摘されている。2011年に発売し、大幅に短い開発期間だったにも関わらず、10年間で約90万台を販売した『ミライース』だ。

 第三者委員会の貝阿彌誠委員長は記者会見でこうも答えている。

「『ミライース』で成功した短期開発をとくに2014年以降加速させた。認証部門はデザイン決定に時間がかかったり設計変更があったりなど、スケジュールのしわ寄せを受け、管理職はほとんど現場に行くこともなく、経営者は認証に無関心だった」

見つかった中で最も古い不正は1989年販売の車種だったが、2011年の「成功」以降、不正は明らかに増えていったという。

不正に手を染めるまで行かなくても、社員や品質を犠牲にして「力業でなんとか乗り切ったという実績」が、いつしか企業の中では、「生産性の高いやり方」として賞賛され、あまつさえ標準化される。そんな仕事の進め方はもはや「あるある」だと勅使川原さん。

勅使川原さんは、「生産性」に取り憑かれた仕事の進め方を断ち切らないと、同じような不正はこれからも蔓延していくと警鐘を鳴らす。

「『効率』と『効果』は本来、両立し得ない概念なので分けて考えるべきなのに、『コスパ』『タイパ(短期開発)』『生産性』と言えば、正しく経営しているかに思われすぎています。立ち止まる時間、意見が対立する他者と対話し、協働する時間を惜しむと、大変なしっぺ返しが待っているでしょう」

勅使川原真衣さんプロフィール

1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。BCG、ヘイ グループなど外資コンサルティングファーム勤務を経て独立。専門は組織開発。二児の母。2020年から乳ガン闘病中。著書に「能力」の生きづらさをほぐす(どく社)。朝日新聞デジタルと大和書房ウェブマガジンで連載中。

 

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