2022年に劇場公開された日本映画の監督613人のうち女性は68人で、全体の11%にとどまった。2021年の12%から1ポイント下がり、映画界のジェンダー格差の改善が進まない実態が浮き彫りになった。
さらに、このうち興行収入10億円以上を記録した実写映画の監督は13人いたが、女性は1人もいなかった。
この映画界のジェンダーギャップに関する調査を行った一般社団法人「Japanese Film Project」(JFP)の代表理事で映像作家の歌川達人さんは「意識改革だけではなく、女性を取り巻く労働環境が変わらないと、格差の解消につながらないのではないか」と話した。
興行収入10億超作品で、女性監督は0人。「ステレオタイプを再生産の恐れも」
JFPでは2021年から映画界のジェンダーギャップに関する調査を行っており、今回の調査では、映画制作スタッフの「意思決定層の役職」に加えて「アシスタント職」のジェンダー比率も調べた。
その結果、興収10億円以上の実写邦画に関して、意思決定層では女性比率が低いのに対して、アシスタント(助監督や各職の助手)においては女性比率が高く、両者の間にジェンダー格差があることが明らかになった。
たとえば、意思決定役職である監督は女性が0人だったのに対し、助監督は5%、監督助手は25%が女性だった。意思決定層にある編集は女性8%に対し、編集助手は半数近い46%が女性だった。
また、2022年公開された全作品においても、前年比で女性比率は▽監督1%減▽撮影2%減▽照明1%増▽録音:前年と数値の変化なし▽編集4%減▽脚本4%減▽美術3%減と、大きな変化はみられず、むしろ女性の比率が減少している職種も多くあった。
この調査結果について、相模女子大学大学院特任教授の白河桃子さんは、「男性だけで意思決定して映像作品を作っていたら、見落としがあったり、有害なアンコンシャスバイアス、ステレオタイプを再生産してしまう恐れがある」と、作品そのものにも影響が及びかねないと指摘した。
アニメ映画のジェンダー格差は? 賃金形態の違いも
興収10億円以上の日本のアニメーション映画においては、意思決定役職における女性比率は、▽作画監督・作画総監督41%▽プロデューサー関連スタッフ18%▽美術監督20%。それに対し、アシスタントの女性比率は▽アニメーター58%▽制作進行32%▽美術関連スタッフ53%だった。
アニメ分野の女性比率は、実写邦画に比べると高く思えるが、横浜国立大学都市科学部/都市イノベーション研究院教授の須川亜紀子さんは「例えば企業に雇用されている制作進行という職とフリーランスの多いアニメーターという職で、女性比率を単純に比較することはできない」と指摘する。
作品を掛け持ちすることが多い「完全出来高制」と、契約相手の作品の専念する「拘束契約」など、フリーランスのアニメーターの契約や賃金形態も踏まえた上での労働調査が求められるとして、「女性が置かれた状況を把握するには、様々な調査結果をクロスレファレンスして考察する必要がある」と提言した。
演劇の制作、6割以上が女性
また、JFPは今回初めて、演劇におけるジェンダー調査も行った。2022年に劇場で上映された演劇作品(古典・大劇場演劇・ミュージカルは除く)に携わるスタッフにおいて、現場における創造的な責任者である演出家は、747人中女性が172人で、23%にとどまった。
演出家以外の職種では▽製作・企画・プロデュース33%▽照明16%▽制作63%で、演劇の制作担当の女性は、半数を超える高い割合いるにもかかわらず、プロデュースや演出という意思決定層では女性が少なく、ジェンダー比率に差があることも明らかになった。
意思決定層と制作でジェンダーバランスが逆転している点について、NPO法人「舞台芸術制作者オープンネットワーク」理事長の塚口麻里子さんは、「創作・組織運営が男性によるトップダウンという家父長制的権力構造の傾向が伺える」とコメントした。
さらに、意思決定層のポジションに就くには実績と経験年数が求められ、ワークライフバランスの観点から「その過程には様々なライフイベントも起こりうる」と分析。性別役割分業の慣習などから「 女性の方がケア労働の負荷がかかり、働き方を変えざるを得ないケースが多い」ことが、ジェンダーバランスの逆転を起こす理由の一つと推測できると述べた。
なお、今回の調査は、演劇年鑑をもとにまとめたものだが、スタッフ情報の掲載そのものが少ないため、関係者が把握しづらかったり、作品参加の履歴が残らなかったりするという課題も浮き彫りになった。JFPは「今後は、舞台監督や裏方スタッフ、助手に関しても、資料に記載される必要がある」との考えを示している。