「顔が見える電力」をモットーに再エネ事業などを展開するUPDATERが11月26日、東アフリカ・タンザニアで新規事業の実証実験を開始した。
「トラブルがあっても大丈夫、前向いてゆっくり行こう」という意味の現地の言葉「ポレポレ」から名付けられた「ポレソーラー」事業を提案したのは、当時新卒3年目だった宇野雄登さんだ。
「何回も事業計画書を出し直したり、スケジュール通りになかなか進まなかったりしましたが、現地でビジネスパートナーと出会うこともできて、なんとか実証実験まで漕ぎ着けました」
宇野さんが目指すのは、「アフリカで電気を“通してあげる”」のではなく、ビジネスとして成り立たせつつ、現地の人と一緒に成長する「本質的な再エネ開発」だという。
ポレソーラーでタンザニアの農村はどう変わるのか。事業の舞台裏に迫った。
「太陽光大好き人間」がタンザニアに行って受けた衝撃
宇野さんが太陽光発電の魅力に引き込まれたのは、小学生の授業がきっかけだった。太陽の光で校庭を走るラジコンにワクワクして夢中になったという。
中学2年生の時に東日本大震災があり、世の中の流れが「もっとエネルギーや環境問題を考えていこう」と変わっていったのも目の当たりにして、「太陽光発電を広めたい」という気持ちが強くなっていった。
「大学では材料工学科に進学して、太陽光パネルをより薄く、より安くするための研究をしていました。太陽光のことを勉強できるのが嬉しくて、毎日のように図書館に行って太陽光の本を読んでいました」
タンザニアとの縁ができたのは大学3年生の時。とある企業のインターンで、太陽光で光るランタンを、電気も水道も通っていないような村や集落に提供する仕事をしたそうだ。
「太陽光のランタンがあれば、子どもたちが夜に宿題をできるようになったり、携帯も充電できるようになったり…。本当に電気があることで生活が変わるのを目の当たりにしました」
タンザニアに行く前は、「電気がないから“通してあげる”んだ」と心のどこかで思っていたが、実際に行ってみると、彼らの生き方や価値観に感銘を受けたと宇野さんは言う。
「タンザニアで出会った人たちは、本当に身近な幸せに敏感で、それをとても大事にしているんです。GDPがいくらだとか、モノをどれだけ持っているとか、そんなお金的な豊かさでは全くないところで、人は幸せになれるんだと衝撃を受けました」
タンザニアの人々の「精神的に豊かな生き方」を学ばせてもらいながら、医療や教育など電気がないと受けられないサービスを提供し、一緒に成長していきたい。ビジネスという形なら、対等な関係で取り組めるのではないか。
宇野さんは大学生の頃から事業の構想を練り始め、UPDATERに入社して3年目で、事業提案をした。
アフリカで二極化する再エネビジネスの「落とし穴」
アフリカの再エネビジネスは「二極化」していて、どちらも「本質的な再エネ開発にはなっていないのではないか」と宇野さんは指摘する。
「一つは小さなスタートアップが、一般家庭や個人に明かりや携帯の充電などのソリューションを提供するパターンです。しかしそれだけでは、現地の人々が稼ぐ力をつけたり、作物に付加価値をつけて売ったりして、自力で豊かになる環境を作るのは難しいです」
もう一つのパターンは、超大規模な太陽光パネル、いわゆる「メガソーラー」の事業だ。砂漠や空いている土地いっぱいに太陽光パネルを敷き詰めて大規模な発電をする企業もあるが、国全体に電気のインフラが行き渡っておらず、農村まで電気が届かない現状があると宇野さんは言う。
「アフリカ全土には、いまだに電気を使えない人が6億人以上います。日本やヨーロッパなどの国々と違って、アフリカはものすごく土地が広い。インフラが整っていない中、一つの大きな発電所でたくさん発電して配分するような既存の中央集権的なやり方だと、全く採算が合わないんです」
そこで宇野さんが発案したのは、村の工場に太陽光パネルを設置する事業だ。実証実験では、トウモロコシ用の製粉機を取り扱う小さな工場に設置する。トウモロコシのまま販売すると1kgあたり28円だが、加工すると1kgあたり53円になるそうだ。
「電気があって製粉機を動かせれば、収入が2倍近くになるんです。周辺の農家さんも工場に持ち込むようにすれば、村全体の収入アップにも繋がります」
太陽光パネルは日本からリユース品を持ち込み、タンザニア現地の人は初期費用をかけずに太陽光パネルを設置できる。10年契約を結び、使用した電気の分だけ従量課金でお金を支払ってもらう、いわゆる「PPA」モデルの仕組みだ。長期的に契約を結ぶため、その間のメンテナンスや故障した際の対応も行うという。
「10年契約を結び、5年で投資回収できる見込みです。工場は契約終了後、費用をかけず太陽光発電ができるようになります」
実証実験では、想定通りに発電・消費され、売り上げが立つかだけではなく、工場の稼働率や現地の人々の収入の向上率、そこからさらに派生して、学校に行ける子どもや医療サービスを受けられる人が増えたかなどの影響についてもデータをとり、ゆくゆくはインパクト投資も狙う。
山あり谷あり。事業の実証実験が始まるまでのリアル
宇野さんがポレソーラー事業を提案したのは2022年5月。新卒3年目でも挑戦しやすい社風ではあるものの、もちろんいきなりオーケーをもらえたわけではない。何回も却下され、資料を作り直して再提案を繰り返したという。
「大石英司社長に言われたのは、『将来どこまでを目指したいのか、大きい未来を見せてくれないと、お金を出す方も出せない。そこをしっかりイメージして作りなさい』ということでした」
それは、マーケットの予測などデータに基づいた部分と、それをやる本人がどれくらいの事業の拡大を目指してコミットする意志があるのか、という2つの意味で問われていた。
「1カ国で終わっていいのか、アフリカ全土に広げたいのか。何割の人が電気を使えるようにしたいのか。それだけが理由ではないけれど、電気が使えないことで医療サービスや教育が受けづらくなることも考えたら、イメージがどんどん膨らんで…最初は売り上げ目標200億円だったのが、最終的に3200億円を目指す事業になりました」
文化が違う、遠い国とのビジネスだからこその難しさもあった。太陽光パネルをタンザニアに運ぶだけでも、想定外のトラブルがたくさん起きたそうだ。
「現地の人とのやり取りでも、日本への期待値が高すぎたり、『太陽光事業ってこういうものだよね』という認識が違ったりして、ズレが生じることもありました。しかし、タンザニアの農村出身のジョフリーさんと出会い、ビジネスパートナーとして仲介に入ってくれるようになってからは、事業が一気に加速していきました」
最後に、なぜ宇野さんはタンザニアのことをそこまで自分ごとのように考えられるのか聞くと、「偶然、タンザニアに行く機会があったからです」と話した。
「たまたまタンザニアで3カ月過ごす機会があって、友達もできて愛着も湧いて。ビジネス的にもポテンシャルがあるし、社会課題もたくさんあったからこそ、事業として取り組むチャンスに繋がったと思います。やっぱり仕事って、自分の人生の中で大きな割合を占めるじゃないですか。 だからこそ、自分が何かすることによって、世の中にちゃんと影響を与えられると感じながら仕事をすることが、とても大事だと思っています」