アメリカの祝日サンクスギビングデー(感謝祭)の翌日に行われる大セール、「ブラックフライデー」。
近年では日本でも取り入れる企業が増え、広く知られるようになった。
では、「ブラックフライデー」の名前の由来を知っているだろうか?
広く認知されているのは、サンクスギビングデーの翌日、ハッピーな買い物客たちがお店やモールを訪れ、たくさん買い物をして、お店がその1年「黒字」になるほどの売り上げを上げるから、という説。
そのため、アメリカでは毎年11月の第4木曜日に祝われるサンクスギビングデーの翌日の金曜日は「ブラックフライデー」と呼ばれるようになり、それがクリスマスショッピングの季節のスタートとして、認識されている。
しかし、「ブラックフライデー」は本来違った使い方をされていた。
小売業がこの言葉を使い始める前は、もっと暗い意味があったようだ。
サンクスギビングを前に、「ブラックフライデー」の本当の語源を探ってみよう。
「ブラックフライデー」の語源
「ブラック」で始まる日は、大抵かなり悪い1日であることが多い。例えば「ブラックマンデー」は、1987年10月19日の月曜日に起こったニューヨーク株式市場の大暴落を指す。
実は、ブラックフライデーも、同様の意味合いがあった。
この言葉のかなり初期の使用は1869年で、クリスマスショッピングとは何の関係もなかった。金価格の暴落により株式市場が崩壊した日で、その後アメリカ経済に何年も影響を及ぼすことになった。
初めて現在私たちが知るような意味合いで「ブラックフライデー」という言葉が言及されたのは、知られる限り1950年〜60年代のフィラデルフィアとされている。交通警察がその日を恐れて使った言葉のようだ。
「フィラデルフィア警察署が、中心街の小売店などのすごい人混みや交通渋滞を言い表すために使ったのです」と、エミー賞受賞スタイリストのデヴィット・ザイラ氏は話す。そして、印刷物で使われた最初の1つは、1966年に出版された切手収集者向け雑誌The American Philatelistに掲載された広告だったという。
その記録は、インディアナ大学の言語学部が運営するフォーラムThe Linguist Listに掲載されている。
「『ブラックフライデー』は、フィラデルフィア警察署がサンクスギビングデーの翌日につけた言葉。愛称ではない。
『ブラックフライデー』は都市部で正式にクリスマスショッピングの季節をスタートするもので、中心街の小売店らが開店から閉店まで大混乱となり、それにより多くの交通渋滞や歩道が混雑する」
この説を支持するさらなる証拠がある。長年の警察記者でフィラデルフィア・ブルティン紙の特集ライターであった故ジョセフ P・バレット氏は、1994年の記事で「ブラックフライデー」の使用についての自分の役割について語っている。タイトルはThis Friday Was Black With Traffic(この金曜日は渋滞でブラックだった)。
1959年、昔のイブニング・ブルティンは僕を、市役所拠点の警察担当に指名した。ネイサン・クリガーは警察担当記者で、同紙の都市部担当だった。
1960年代初期、クリガーと僕はサンクスギビングの為に一面記事を製作していて、僕らは警察がひどい渋滞を表現する際に使う「ブラックフライデー」という言葉を使ったんだ。
どちらにせよ、その日を嫌っていたのは警察だけではなかったようだ。ザイラ氏によると、当時は、ブラックフライデーに店員が病欠で休み、祝日を週末まで延長するのが慣習となっており、それによる店員と客の比率差も大混乱の一因だったという。
実際、Factory Management and Maintenance誌に1951年に掲載された記事の記録によると、サンクスギビングデー翌日の金曜日に蔓延するずる休みについて言及されていた。
「『サンクスギビング後の金曜日症』は、腺ペストに続く影響がある。少なくとも、ブラックフライデーの為に製品を出荷しなくてはいけない人々にはそう感じる。店頭は半分空になっているのに、みんな病欠で、しかもそれを証明までできるんです」
1951年ほど前からブラックフライデーという表現が一般的だったのか、この著者のクレバーな表現だったのかはわからない。しかし1つ確実なのは、多くの人はこの日を好きではなかったということだ。
ポジティブにイメチェン
当然、小売店は最高の利益を上げる日に、ネガティブな印象の「ブラックフライデー」という言葉を使うことを好まなかった。その為、そこにポジティブなひねりを加えたのだ。
「ブラックフライデーは、時を経て新たな意味を得た多くの日の1つです」とザイラ氏は語る。
早ければ1961年からすでに、PRスペシャリスト達はブラックフライデーのイメージを変えようと試みてきた。PR業界ニュースレターPublic Relations Newsによると、ある有名なPR担当者は「ブラック」を「ビッグ」に変え、家族で買い物を楽しむ日というイメージに変えるようとした。そしてメディアも、クリスマスのために飾り付けされたフィラデルフィア中心街の美しさや、サンクスギビングデー週末の「ファミリーデー」の人気や、パーキング施設の拡大や渋滞緩和のための警察動員の増加などについてのニュースを広めた。
結局、「ビッグフライデー」は浸透しなかったが、ポジティブなイメージは定着。そして今や、消費者はブラックフライデーを小売店が売上増により黒字化することと連想するようになった。
「今や、小売店は名前の語源などはほぼ気にしておらず、世界的に認知されているセールの日を最大限に有効活用し、割引やプロモーションで年間利益の多くを稼ぎ出そうとしている」とザイラ氏は話す。2022年のブラックフライデーでのオンライン・ショッピングの売り上げは、約92億ドル(約1兆3586億円)という記録を打ち出した。
小売店にとっては素晴らしい日だが、ブラックフライデーには今でも暗雲はかかる。渋滞や大混雑する店内はまだ小さい問題で、この数年では、セール品争奪戦によって暴力や怪我も発生し、10人以上亡くなっている。
ブラックフライデーは以前のような意味はないかもしれないが、問題は数十年経った今でも存在する。もしブラックフライデーのセールに行く予定であれば、交通警察も含め、周りへのお思いやりを忘れないようにしよう。
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集・加筆しました。