関西で出合った名物料理「加古川かつめし」は懐かしく居心地のよいおいしさ

ライターの西森路代さんと白央篤司さんによる「食」をめぐるリレーコラム。今回は、郷土料理を愛する白央さんが関西で体験した新たな味「加古川かつめし」を紹介します。

11月7日、東京都心で27.5度を記録して「100年ぶりに記録更新」なんて見出しが躍った。27.5度にも驚いたが、1923年にもそんな季節はずれの暑い日があったとは。元号でいうと大正12年か。 

私は古い映画も好きで、特に小津安二郎監督のファンなんだが、大正12年といえば小津監督がホームとなる松竹キネマ蒲田撮影所に入社した記念すべき年である。小津さん、「えらい暑いな、異常気象だな」なんて当時言ってたんだろうか。

などと想像していたら、数日のちに気温はどんどん下がって急転、晩秋の風情に。長袖1枚で歩いてたら風邪ひきそうになってしまった。ジャーナリストの江川紹子さんが「四季から二季へ」なんてポストされてたが、本当にそう思う。

それこそ前回西森路代さんが書いてらした、ムルフェ(水刺身)でもちょうどいいような陽気から一気にチゲが恋しい気温になって、体がついていかない人も多いんじゃないだろうか。

季節の変わり目は体調を崩しやすいというのはまさにと年々実感するけれど、最近は季節をこえるハードルが「跳び箱4段」ぐらいからいきなり「9段」ぐらいになった気がする。かんべんしてほしい。

「デミ×牛カツ」のおさまりの良さ

加古川駅
筆者提供
加古川駅

さてムルフェも私は初耳だったが、先日また新たな味わいを関西で体験してきたので、今回はそのことを書いてみたい。向かったのは兵庫県南部にある加古川市(かこがわし)というところ。「加古川かつめし」という名物料理があると聞いて興味を持った。

ざっくり説明すると、

① 白いごはんの上に

② 薄めの牛カツをのせて

③ デミグラスソースをかけたもの、なのだそう。 

かつめし
筆者提供
かつめし

評判のお店を2店ほど食べてみて、私は不思議な感覚に陥っていた。いや、おいしいんである。だがそれは「未体験のうまさ!」とか「意外な相性の良さ」的な発見感ではなく、昨日までずっと私も食べてきたような、懐かしく居心地のよいおいしさなのだった。うーん、白めしのおかずとして「デミ×牛カツ」がこうもおさまり良いとはなあ。これは今までにデミソースのハンバーグでごはんを食べたりもしてきた蓄積からくるものなのだろうか。

ゆでキャベツが添えられているのもよかった。これは加古川かつめしの“お決まり”らしい。デミグラス×カツにちょっと疲れたら、ゆでキャベツ。千切りよりも断然いい口直しに思えた。切るのもラクだし、量もとれるし、カツの添えものに今度家でもやってみよう。

弁当売り場ではカツカレーと互角の人気

帰り道、スーパーの弁当売り場に寄ればやっぱり「加古川かつめし弁当」はあった。店員さんに聞くと「毎日かなり出ますよ」とのこと。カツカレー弁当と同数が並んでいるところに説得力を感じる。これはなかなかの人気商品だぞ。

精肉店に行けば、店先に「かつめし用自家製ソース」が並んでいた。「家でカツを揚げて作る家も多いと思いますよ、このへんは」と店員さんが教えてくれる。調べるうち、オタフクソースから「かつめしのたれ」なる商品も発売されていることを知った。かつめしユーザー思いのほか多いな。最近は牛だけでなく、豚や鶏カツでやる人もいるようだ。

加古川駅前に戻ってきたら、ちょうどかつめしの専門店前で入ろうか迷っている感じのサラリーマンがふたり。お昼はかつめしですか?

「あ、食べたいんだけど……50代にもなるとね、揚げもの控えようかと迷ってて(笑)」「昔はよく食べたんだけどねえ」と笑って教えてくれた。結局ふたりは「やっぱり蕎麦にしよう」と去っていった。

近くのベンチでは男子高校生3人が楽しそうに語り合っている。最近は10代の人たちに聞き込みをするのも世間的にためらわれるのだが、「かつめしって好きですか?」とどうしても訊いてみたくなった。即座に「めちゃ好き!」と最高の笑顔が返ってくる。

「小さい頃から好物」

「期末試験がいい点だったらお母さんに作ってもらう約束なんです」

なんていい話を聞かせてくれるのだろう……ありがとう、本当にありがとう。

ちなみにこういうとき、以前作ったローカルフードの本『ジャパめし。 』(集英社、電子書籍あり)を見せて「各地の食を調べてる者なんです」と説明してから尋ねている。ちなみに高校生の3人は「ゆでキャベツは要らないです。肉だけでいい!」と声を揃えていたのも印象的。若いってそういう時代だね。

私は各地の定番食といわれるものが、実際どんなふうに食べられているのか、売られているのか、地元の人達とのリアルな距離感はどのぐらいなのかを肌で感じたくて旅をする。一度で分かるものでもないが、やっぱり現地に行くと得られるものは大きい。

さて、今度はどこへ行こうかな。

(文:白央篤司 編集:毛谷村真木 /ハフポスト日本版)