気候変動をめぐる動きの中で、若者が果たしてきた役割は大きい。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの行動は世界中に影響を与え、日本の若者たちも声を上げ行動してきた。
しかし若者全体をみると、その危機感には差があるようだ。11カ国を対象とした調査で、日本は気候変動を「極端に、とても」心配しているZ世代が最も少なく、「心配していない」Z世代は一番多いとする結果も出ている。
Z世代でなくとも、「今年の夏も暑かったし気候変動ヤバいらしいけど、正直自分ごととして考えにくい」という人もまだまだ多いのではないだろうか?
そんな中、動画プラットフォームのTikTokが、気候変動を学び発信するプロジェクト「みんなで学ぶ気候変動」を始動した。
「気候変動についてよく知らないけれど、興味はある」と集まった10代後半から30代のTikTokで活躍する人気クリエイター12人が気候変動について学び、「どうすれば気候変動を自分に引き寄せて捉えられるか」、「自分たちのファンに伝わるか」、話し合った。
マイボトルを、何人の人が持てば影響がありますか?
気候変動についてクリエイターたちに解説したのは、 公益社団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)サステイナビリティ統合センターの藤野純一さんだ。
藤野さんは「ここ150年で急激に気温が高くなっているのが問題なんです。例えば仙台では将来的に4.6℃も年間平均気温が上がってしまうと予測されています」と身近な日本の例も交えて説明した。
「気温が上がるとどうなるか。皆さんも今年体感した通り、夏は日陰でも暑かったですよね。他にも雪がどかっと降ってしまったり、大雨が降る頻度が増えたり、逆に雨が降らない日も増えたり、極端な気象が多くなることが気候変動の影響の一つです」(藤野さん)
他にも藤野さんは、気候変動の地域格差・世代間格差などの問題や、緩和と適応、イベントアトリビューション(特定の異常気象に、地球温暖化の影響がどれぐらいあるのかを確率的に推定する手法)などについて解説した。
説明を聞いたクリエイターからは、「私はインターネットで古着を売っていますが、それがサステナブルな生活とつながりますか?」と質問が投げかけられた。
藤野さんは、「古着だったり、アップサイクルだったり、服を長く使うことはとても大事だと思います」と回答。「例えばコットンを作るためには大量に水が必要で、インドネシアやバングラデッシュなどで水の搾取が起こってしまっています。それを大量生産、大量消費していたら問題ですよね」などと説明した。
他のクリエイターからは、「マイボトルを何人の人が使えば気候変動に良い影響が出ますか?」という質問が上がった。
「正直、マイボトルだけではCO2排出量に関わる影響は1%にも満たないのですが、マイボトルを入り口に次の行動につながるかが非常に重要だと思います」と藤野さん。
「マイボトルを持ったことを起点に、例えば量り売りのお店に行ってみたり、地域の旬の食べ物を食べるようにしたり、ライフスタイルを変えていく入り口になるんじゃないかと思います」と語りかけた。
どうやって気候変動を自分ごとにできる?
次に、一般社団法人地球温暖化防止全国ネット(JNCCA)事務局長の平田裕之さんがファシリテーターとなり、ワークショップが行われた。
平田さんはこれまで気候変動について大人から子供まで様々な人に伝えてきた中で失敗だったのは、「気候変動対策=我慢」と思わせてしまったことだと話した。
「『それな』と思えるような共感を生んだり、『そっちの方がいいじゃん、かっこいいじゃん』と世の中を変えていくうねりを作った方がいいんじゃないかと今は思っています。みなさんのアイデアを楽しみにしています」
ワークショップでは、気候変動についてマクロ・ミクロの視点で思いつくことを書き出しながら、どうすれば自分に引き寄せて気候変動を考えられるか、どんなコンテンツなら自分たちのファンに届くか、グループに分かれて話し合われた。
「有名人が『サステナブルはロック!』みたいな感じで、カッコいいものだって伝えたらいいですよね」
「その有名人が俺らじゃないですか?」
「インパクトだけあっても、薄い内容だったら意味がないですよね」
「とはいえインパクトのある画も必要ですよね。災害の映像とか?」
「最近キャンプにハマっているんだけど、食材を使い切るのが難しいんですよね。私みたいな不器用な人でもちゃんと食材を使い切れる方法ないかな」
「紙ストローをチラ見せするとかは?匂わせ的な感じで…」
専門家に分からないところを質問しながら、活発な議論が交わされた。
環境に良い紙ストローが嫌いな私は悪者?って思ってたけど…
イベント終了後、クリエイターの神堂きょうかさんは「小学校の頃は地球温暖化についてよく聞かされたんですが、それから今の今まで生きてきて、温暖化で何がどう変わったのかあまり考えたことがありませんでした」と話した。
「今回のイベントに参加する中で、そういえばエコバックが出てきたり、ストローが紙になったり、変化があったなと気づきました。でも個人的には紙ストローはふにゃふにゃになるから嫌いで、『私って悪者なんかな?』って思っていました。そしたら専門家の人が『じゃあプラスチックに似た環境に優しい素材のストローを開発すればいいんじゃないか』と言ってくれて、考え方がちょっと変わりました」
いるか好きのイラストレーター・みいるかさんは、「まだどんなコンテンツを作るか決めていませんが、環境問題と言うと難しく聞こえそうなので、みんなが『あーそうだよね』って思えるような身近な話題から動画を作っていけたら」と意気込んだ。
「グループで話している時に印象的だったのが、マイボトルを持つとか節電とかって環境にも良いけど、『お金が節約できる』よねと言っていたことです。そういうみんなが『おっ』と思うような言葉があると引きがあるのかなと思います。あと、硬い話だから硬い話し方、という風にせず、普段の自分の喋り方とか、 なるべく自分のファンの人がいつも通り聞きやすいような感じで伝えられたらと考えています」
この日集まった12人のクリエイターたちは、TikTokからの依頼を受ける形で気候変動に関する動画を制作し、11月19日に都内で開催されるイベントで作品を発表する。
イベントには20〜30代を中心に約100人の観客が参加する他、気候変動の専門家やワークショップに参加したうちの一部TikTokクリエイターらも登壇する。