自殺未遂を生き延びた私。希死念慮は「乗り越えるもの」ではないと知った。

多くの人が私が希死念慮を克服したと称賛してくれるが、実際、それは違う。
ミズーリ大学病院にいる筆者
ミズーリ大学病院にいる筆者
PHOTO BY SCHAEFER PHOTOGRAPHY

2023年の初め、ミズーリ大学病院に足を踏み入れながら、私は汗ばんだ手をジーンズで拭った。

救急車のライト、病院のガウン、私の体から切り剥がされた服が入った袋を受け取るという記憶の断片の中で、気持ちがざわついた。

壁を見上げると、「私たちの使命:命を救い、生活を改善する」と書かれている。私の命は、その病院が救った命の中の1つだ。

私は自らの患者体験を、この病院のER(救急治療室)医療に携わる研修医に話すために来ていた。会議室に入ると、そこには私が何年も探し続けていたERの看護師、ジェンが立っていた。

あらゆるソーシャルメディアをチェックしたけれど、見つけられなかった。彼女の名前をGoogleに入力してみると、同じ苗字の「ジェン」はたくさんいたが、彼女はいなかった。大学スタッフの1人がついに彼女を見つけてくれたのだ。

8年前、自殺未遂をしてERに救急搬送された時、私の命を救うのを助けてくれたのがジェンだった。そして、私たちの間には、その後何年も続くことになる希望の絆が生まれた。

私はジェンに駆け寄って抱きしめた。

彼女は微笑んで、「あなたがまだここにいてくれて嬉しい」と言った。

「私も嬉しい」と答えた。

ミズーリ大学の看護師、ジェンさん(左)と話す筆者(右)
ミズーリ大学の看護師、ジェンさん(左)と話す筆者(右)
PHOTO BY SCHAEFER

生きたい気持ちと死にたい気持ち

救急科での講演のため、自殺未遂以降の私の人生の写真をたくさん貼ったポスターを作った。3人の子どもたちの結婚式に出席し、初孫を抱く写真。緊急救援隊員、退役軍人、刑務所の女性たちに向けてメンタルヘルスの啓蒙活動を行う写真。基調講演を行い、テレビに出演している写真。賞を獲得した私の自伝。その全てが、病院が私を救ってくれなかったら経験することのなかったものだ。

でも、そのポスターには私の人生のもう一部分が欠けていた。

私のパニック発作や、震えて泣きながら、家のすべての部屋を徘徊して過ごす眠れない夜の写真。朝2時に浴びる熱いシャワーや、神に救いを求めて手足をついて祈る写真は、ない。

私がジェンに伝えたことは真実で、ここにいることを喜んでいる日もある。でも、彼女らが私の命を救ってくれなければ良かった、と思う日もある。

多くの人が私が希死念慮(死んでしまいたいという気持ち)を克服したと称賛してくれるが、実際、それは違う。私は自殺未遂を乗り越えたが、まだ死んでしまいたい気持ちはある。

希死念慮は克服すべきものではなく、共に生きるものだ。予防、介入、サポートや予防計画を通じて治療することができる。私は1人ではない。不安、うつ病、摂食障害の治療を求める多くの人々が、希死念慮の考えや衝動に苦しんでいる。

筆者(左)と父親(右)
筆者(左)と父親(右)
COURTESY OF SONJA WASDEN

ミズーリから帰宅して2週間後、私は再び強い希死念慮に襲われた。

教会の日曜学校で、私が試練についての授業をしていたとき、ある女性が、(もし可能なら)私の試練と誰かの試練を交換するか(したいか?)、と質問してきた。私はためらいながら、「もちろん 」と答えた。

宗教的に言えば、それは間違った答えだった。

女性は「死にかけている人とでも交換しますか?」と質問を続けた。メンタルヘルスの啓発者として、私は自殺生存者を元気づけるような例を示すプレッシャーを感じていた。口にしてはいけないと分かってはいたが、真実が喉元を上がってくるのを感じた。

「はい」「死にたい」と言葉がこぼれ出た。

女性は息を呑み、部屋全体が静まり返った。

世界中で40秒に1人が自殺で亡くなっている

自殺について話すことは人々を怖がらせる。1番の誤解は、自殺について話すと、それ自体が自殺を引き起こし、助長するということだ。それは間違っている。

自殺は複雑な問題で、いじめ、人種、性別、障害、性的アイデンティティに対する偏見やスティグマなど、多くの要因が関係している。

人々が自分の命を絶つことを望む原因は、性的または身体的虐待、依存症、経済的困難、人間関係の問題、長期的な病気、文化的・社会的圧力、そしてもちろん精神疾患やそれに関するリソース不足など多岐にわたる。こうしたそれぞれの状況が人々を孤立させ、無力に感じさせ、希望を失わせ、沈黙させる。

世界中で40秒に1人が自殺で亡くなっている。自殺は、0歳から14歳、20歳から34歳のアメリカ人において、第2の死因となっている。自殺はアメリカ全土の人々の主要な死因の1つなのだ。

2004年、私の父は自殺を図った。私の兄と姉が、父が死ぬ前に見つけ助かったが、その後7年しか生きなかった。双極性障害の症状が出現し、自殺した。

父を救うためにもっと何かできたはず、という罪悪感は今でも常にあり、私を苦しめている。父と希死念慮について心の底から向き合い話し合ったら、彼は今日生きているだろうか、としばしば考える。

一部の研究では、1人の自殺による損失は135人の異なる人々の生活に影響を与えると推定されている。

10代の女子生徒の間で希死念慮が広がっている現状は、極めて深刻であり、壊滅的だ。2021年には女子高生の約3分の1が最近自殺を考えたと報告されている。これは全国的なメンタルヘルスケアへの投資減少と一致しており、非常に懸念すべき事態だ。

新型コロナの感染拡大が始まる前から、アメリカのメンタルヘルスケアの不平等は、4年間で約10万人以上の死亡と約2780億ドルのコストダメージをもたらしている。

筆者(右)と孫(左)
筆者(右)と孫(左)
COURTESY OF SONJA WASDEN

オープンに会話しよう

私は適切なメンタルヘルスケアを受けられている幸運な1人だ。メンタルヘルスの専門家の支援なしで生きていくことは、私にとって恐らく致命的な結果をもたらすだろう。

私の弁証法的行動療法士は、「2つの真実」が共存できることを教えてくれた。私たちは迷いながら見つかり、絶望しながら希望を持つことができると。

私がその日曜学校の授業で抱いていた2つの真実は、生きたいということと、死にたいということだった。

メンタルヘルスの啓発者として、私は人々から希望を奪ってしまうのではないかと、その2つ目の真実を認めることを恐れてきた。しかし今では、私が全体像を共有しなければ、それこそ人々から希望を奪うことになると思っている。

再び強い希死念慮に陥ると、自分が周りを失望させているのではないかと思わずにはいられない。しかし、もう1日生きる力を見つけるのは勇気がいることだ。多くの人々が希死念慮に1回以上に苦しむこと、そして私のように一生涯にわたって苦しむ人もいるという現実を受け入れること...そこにこそ希望があるのだ。

希望とは、その瞬間のあるがままに降伏する選択であり、暗い時期は永遠に続かず、より喜びに満ちた瞬間があることを知ることだ。

ジェンはその後、メッセージを送ってくれた。

「出会った日から今まで、そしてこれからも、あなたが私にとって価値があり重要だと感じるのと同じように、あなたが私のことを思っていてくれたと知ることは、私が看護師として20年近く感じていなかった素晴らしい感情でした」

それは、私たちが個々の価値だけでなく、お互いに対する関係の中で価値があるということを思い出させてくれた。

自殺を防ぐために私たち全員ができる1つのことは、家族、友人、同僚、学生、そして私たちのコミュニティで、人々が自分のユニークな経験を恥じずに共有することができるオープンで包括的な会話を持つことだ。それにより、異なる視点を聞くことで自殺に対する私たちの集団的な理解が広がり、苦しんでいる人々に対するより支援的な環境が作られる。

自殺は防ぐことができる。自殺について公に話すことは、より多くの人々が自分のメンタルヘルスのために助けを求めることにつながり、自殺のリスクを減らす。

そうやって命を救うのだ。

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<著者:ソニャ・ワズデン
メンタルヘルスに関する問題を30年以上経験してきた自殺生存者。受賞歴のある自伝「An Impossible Life」は、彼女が精神疾患と闘ってきた経験を詳述しており、「CBS This Morning」で希望の物語として紹介された。Newsweek Expert Forumのメンバーであり、Fortune 500の企業、非営利団体、政府関係者、支援団体、主要メディアと共に、全米でメンタルヘルスの重要性について話してきました。Oprah Daily, The Washington Post, Newsweek, The Hill, Ms. Magazine, National Alliance on Mental Illnessなどに寄稿している。

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ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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