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トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術を受ける必要があるとする「性同一性障害特例法」の要件は、「違憲」とした最高裁の決定について、性的マイノリティが生きやすい法整備を目指す「LGBT法連合会」が10月26日、声明を発表した。
「生殖不能要件」のみが壁になっていた当事者が、手術をせずに性別変更できるようになることについて、「当事者の人生を大きく改善するものとして、一定程度評価する」と表明。
一方で、「未成年の子どもがいないこと」を求める要件などが特例法で定められていることに触れ、「課題はまだ残されている」と指摘した。
◆「生殖不能要件を廃止し、外観要件のみを残す国はない」と指摘
2004年に施行された「性同一性障害特例法」では、戸籍上の性別変更を認める要件として、
・生殖腺がない、もしくはその機能を永続的に欠くこと(生殖不能要件)
・変更する性別の性器に似た外観を備えていること(外観要件)
とする2つの「手術要件」など、5つの要件をすべて満たす必要があると定めている。
最高裁は今回、手術要件のうち、生殖不能要件について「意に反して身体への侵襲を受けない自由を侵害し、憲法13条に違反して無効」と判断。一方で、外観要件については高裁段階で検討されていないとして、最高裁としての判断はせずに審理を高裁に差し戻した。
LGBT法連合会はこの決定に対し、「当会が確認した範囲においては、生殖不能要件を排した国において、手術を要する外観要件のみを温存している国は見られず、立法府は個別意見も十分に踏まえた対応が求められるものである」「憲法に反する、制限的な規定は許されない」と指摘した。
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また、外観要件に関して、一部の裁判官からは「違憲」だとする意見が出された。
最高裁の三浦守裁判官は「外観要件」がなければ、男性の外性器がある人が、「心の性別が女性だ」と主張して女性用の公衆浴場などに入ってくるという言説について、「(外観要件を定めた特例法の)5号規定がなかったとしても、単に自称すれば女性用の公衆浴場等を利用することが許されるわけではない」と強調。
「その規範に全く変わりがない中で、不正な行為があるとすれば、これまでと同様に、全ての利用者にとって重要な問題として適切に対処すべきであるが、そのことが性同一性障害者の権利の制約と合理的関連性を有しないことは明らかである」と述べた。
LGBT法連合会は、こうした裁判官の個別意見について言及し、「かねてより当会などから指摘されてきたことであるが、特例法の要件の問題と男女別施設の課題が安易に接合され、実態を踏まえれば施設利用における課題解決とは無縁となる言説が繰り返されることに、改めて警鐘を鳴らす」とした。
◆声明全文
LGBT法連合会が出した声明全文は以下の通り。
2023年10月25日、最高裁判所は、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、特例法)の3条1項4号規定(いわゆる「生殖不能要件」)を憲法13条違反と判断した。これにより、国会は同号についての法改正を迫られることとなる。一方で、高等裁判所に決定を差し戻し、3条1項5号規定(いわゆる「外観要件」)について再度審理させることとした。なお、3名の裁判官が個別意見を出しており、5号規定についても違憲であるとし、最高裁判所の判断として法律上の性別の変更の申し立てを認めるべきであるとした。当会は、生殖不能要件を違憲とする今回の決定によって、新たに特例法の要件を満たす当事者の人生を大きく改善するものとして、一定程度評価する。また、この決定に関わった関係者に敬意を表するものである。一方、差し戻される5号規定はじめ、4号規程と関連の深い3号規程(いわゆる「未成年の子なし要件」)など、課題はまだ残されていることについても指摘する。
最高裁判所は、生殖不能要件は、直接的に生殖腺除去手術を強制するものでないとする一方で、生殖腺除去手術を必要としない当事者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲を甘受するか、性自認に従った法律上の性別の取り扱いを受けるという重要な法的利益を放棄するかの二者択一を迫るものであり、この間の社会的変化、医学的知見の変化も踏まえると、身体への侵襲を受けない自由への制約は過剰であるとした。
今回、個別意見において、公衆浴場やトイレの利用について検討され、公衆浴場やトイレが5号規定により制約する合理的な理由や関連性がないとされたことを当会は強調する。かねてより当会などから指摘されてきたことであるが、特例法の要件の問題と男女別施設の課題が安易に接合され、実態を踏まえれば施設利用における課題解決とは無縁となる言説が繰り返されることに、改めて警鐘を鳴らすものである。一方で、当会が確認した範囲においては、生殖不能要件を排した国において、手術を要する外観要件のみを温存している国は見られず、立法府は個別意見も十分に踏まえた対応が求められるものである。この時、新たな規定を検討するにあたっては憲法に反する、制限的な規定は許されないものであることは、留意されるべきである。
当会は、今後の法改正に向けた議論において、今回の決定や科学的、医学的知見を踏まえない、これらに真っ向から反するような差別を助長する言説が無いよう強く求めるものである。人権救済の議論によって、人権を侵害するような言説が助長されるとなれば、それは、本末転倒という他ない。当会は、今回の決定に基づく法改正が、着実かつ迅速に行われることに向け、取り組みを進めていく。
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>