「親って本当につらい」『かいけつゾロリ』作者が子育てに悩む親に伝えたいたった1つの願い

35年にわたって『かいけつゾロリ』シリーズを描き続けてきた児童書作家の原ゆたかさん。「ゾロリは自立の物語」だと語る原さんのその言葉の意味とは。
児童書作家・原ゆたかさん
不登校新聞より
児童書作家・原ゆたかさん

小学生を中心に高い人気を誇る『かいけつゾロリ』シリーズ。35年以上このシリーズを書き続けてきた児童書作家・原ゆたかさんは、ゾロリにどんな思いを込めているのでしょうか。

「ゾロリは自立の物語」だと語る原さんを、不登校経験者らが取材しました。(撮影・矢部朱希子)

* * *

――原さんはなぜ子どもの本を書く人になろうと思われたのでしょうか?

もともと児童書作家になろうと思っていたのではありません。子どものころから絵を描くことが好きだったので、絵を仕事にしようと考えていました。映画をつくる仕事にも憧れていたので、演出に興味があり、絵本や児童書ならば、絵でお話を演出できるのではないかと考えて児童書の絵描きになろうと決めました。

最初のころは、雑誌や学習ドリルの挿絵を描く仕事をしていました。そのうちに、作家さんが書いたお話に絵をつける仕事の依頼がくるようになりました。そしてどうしたらもっと楽しんでもらえる本になるかと考えるうちに、「ここは絵を大きく描きたいのですこし文章を削っていただけませんか」などと、作家さんに提案するようになりました。

かいけつゾロリが生まれたきっかけ

そんななかで、作家のみづしま志穂さんとつくっていたのが『ほうれんそうマン』シリーズです。『かいけつゾロリ』は、もともと同シリーズに登場する敵役でした。みづしまさんがシリーズをお休みすることになった際、編集者から「絵だけでなくお話も書けるのではないか。ゾロリを主役にしてお話を書いてみないか」と提案されて、お話も書き始めました。

――ゾロリの物語を書くにあたって何か意識されたことはありましたか?

意識したことはありませんが、本がキライな子も最後までおもしろく読めるものをつくろうと考えていましたね。私は小さいころ、母に読み聞かせをしてもらっていたので本が好きでしたが、自分で読めるようになったころ、大人に薦められた本がおもしろくなくて本がキライになった時期がありました。

子どもたちの読書は、楽しみではなくて、なぜか文字や難しい言葉を覚えるための勉強のように位置づけられることが多いですよね。でも、本の楽しさを知る前に、難しい本を手渡されたら、本自体がキライになってしまいます。私は本の楽しさと読むたいへんさの両方を知っているので、本が苦手な子に向けて本を書こうと思ったんです。

シリーズを書き始めた当時は悪役を主役にした児童書はありませんでした。でも、子どもたちはちょっと悪いことに憧れる時期もあります。子どもたちの代わりに、本のなかでゾロリがいたずらをすることで、読んですっきりすることもあるでしょう。

といっても、実際に悪いことをしてはいけないので、ゾロリには最後にかならず失敗させることで、「悪いことはうまくいかない」というお話にできると考えました。

でも、ゾロリはどんなに失敗してもけっしてくじけずに、次に向かって歩き出します。人生うまくいくことのほうがすくないけれど、あきらめずに次に進んでいけばまたチャンスがあると感じてくれたらいいなと思っています。

そして、ゾロリが失敗するのに反して、ゾロリと関わったまわりの人はみんな幸せになっているんです。本のキャッチコピーで「まじめにふまじめ」という言葉を考えたのですが、ゾロリは大まじめにふまじめなことを考えています。しかし元来、人がいいので、結局誰かのためにがんばってしまうんです。

原ゆたかさんとゾロリ
不登校新聞より
原ゆたかさんとゾロリ

――長く続けてきて感じていることはありますか?

あらためて読み返してみると、ゾロリのお話は、「自立」がテーマなのだと気づきました。というのは、ゾロリのママは『ほうれんそうマン』シリーズのときにすでに亡くなっていて、飛行機乗りだったパパも行方不明です。つまりゾロリには両親がいません。そのうえイシシとノシシという頼りない子分までついてくることになり、ゾロリはしっかりせざるを得なくなりました。

でも、もしゾロリのそばにママやパパがいたら、ゾロリは甘えんぼうなので、自分で考えてがんばることができないと思います。それがよくわかるのが、『かいけつゾロリのてんごくとじごく』です。

えんま大王のかんちがいから死んでしまうことになったゾロリは、天国のママに会いに行くことができました。そのときゾロリは、「ママといっしょにくらせるなら、このまましんでもかまわないや」と言うんです。するとママはゾロリの頬をたたき、夢を叶えていないのに今こっちに来たらダメだと言い、「じぶんのうんめいはじぶんできりひらくのよ」と言って突き放します。きびしい母親ですよね。

でもママはゾロリの姿が見えなくなってから、涙を流して、「ゾロリちゃん、ごめんね。ママ、ほんとはだきしめてあげたかった。でも、いつまでもあまえんぼのゾロリちゃんじゃいけないとおもうわ。しっぱいしてもいい。やるべきことをしっかりやってから、ここにきてほしいの。……あの子、ひどいママだとおもってるかもしれないわね」とつぶやきます。

ゾロリのママは相当な勇気をふりしぼってわが子を送り出したんです。このシーンは、子どもたちの力を信じて見守ってほしいという気持ちをこめて保護者の方に向けて書きました。

『かいけつゾロリ いきなり王さまになる?』(ポプラ社)
不登校新聞より
『かいけつゾロリ いきなり王さまになる?』(ポプラ社)

――親からしたらどうしても子どもは心配で世話を焼きたいのだと思います。

その気持ちもよくわかります。大人は子どもより長く、先に生きているから、子どもの危なっかしい部分が目について、失敗しないようにと先回りしたくなるんですよね。子どもが宿題を後回しにして遊んでばかりいたら、「早く宿題しなさい」と言いたくなっちゃう。でも、なんで宿題を先にするのがいいのかということは、自分で失敗してみないとわからない。親がなんでも手をかけていたら、子どもはひとりで生きていく力を養うことができません。

子どもはいつか大人になって自分で生きていかなければなりません。親の役割は子どもを自立させること。そのためにも、保護者の方には子どもに手を貸さない勇気をもってほしいと思います。

――ゾロリとママの関係性は、原さん自身の経験が影響しているのでしょうか?

とくに経験を反映させようとは思っていないけれど、もしかしたら影響しているのかもしれません。私の場合は、親が離れたのではなく、自分で親から離れたんです。19歳ごろに家出してね。

高校生のときに私は絵の道に進もうと決めて、美大を受験しました。でも美大の試験には、実技のほかに学科もあって、勉強は好きじゃなかったため不合格になりました。

高校卒業後は芸術コースのある予備校に通ったのですが、その予備校でもまだ美大受験のノウハウがなかったこともあり、自由にすごす時間があって、感性を養うという名目で、予備校仲間と映画や展覧会を観に行くなど遊んでばかりいたので、また不合格になりました。それでも親は「美大を出たほうが、仕事があるだろうから」とまた受験を勧めるのですが、絵を描きたいのに関係のない勉強で立ち止まらされるのがイヤで、うんざりして家出しました。

『かいけつゾロリ きょうりゅうママをすくえ!』(ポプラ社)
不登校新聞より
『かいけつゾロリ きょうりゅうママをすくえ!』(ポプラ社)

自分の人生を考える期間

1カ月くらい、当時暮らしていた愛知県を離れて、四国を放浪しました。あとで聞いたことですが、母は毎日泣いていたそうです。自分としては、死のうと思っていたわけではないから、そんなに心配しないだろうと思っていたけれど、母はつらかったみたいです。でも、私にとって親から離れるのは必要なことでした。自分の人生をちゃんと自分で考えることができたので。

ただ、旅は過酷でした。春先で、気候のいい季節だから野宿でもすごしやすいだろうと思っていたけれど、夜はすごく寒かったし、野犬に囲まれるなど、怖い思いもしました。優雅にスケッチしながら旅しようと思っていたのに、全然そんな余裕はなく、絵を描くどころか毎日「今日はどこで寝よう」とばかり考えていました。自分だけで生きるというのは本当にたいへんでした。でも、それを痛感したからこそ、自立への覚悟が決まったように思います。絶対に絵で食べていくと決心できました。

家へ帰る途中、大阪へ寄って残っていたお金を全部つぎ込み、画材を買いました。そして帰宅すると、両親に「私は絵を描いて生きていきます。アルバイトをしながら絵を描きためて、出版社回りをします」と宣言しました。親は何も言わなかったです。というより、言えなかったのかな。ここで口を出したら、今度こそ家へ戻ってこないのではないかと怖かったのだと思います。

こうやってふり返ってみると、親って本当につらい立場ですね。ただ子どもを信じて見守ることしかできないのだから。ゾロリのママもきっともどかしいと思う。悩んでいる保護者の方にはぜひ、ゾロリのママを見てほしいです。ママはゾロリが心配でしょっちゅうようすを見に来ているんですけれど、幽霊なので手出しができない。ひたむきにじっと見守っています。そんなママの姿を励みにしてもらえたらと思います。

――ありがとうございました。(聞き手・本間友美、古川寛太、不登校ラボ)

【プロフィール】原ゆたか(はら・ゆたか)
1953年、熊本県生まれ。1974年、KFSコンテスト、講談社児童図書部門賞受賞。キツネのゾロリを主人公にした『かいけつゾロリ』を、1987年から35年以上、年2冊刊行し続ける。そのほかおもな作品に、『ほうれんそうマン』シリーズ、『プカプカチョコレー島』シリーズ、『イシシとノシシのスッポコペッポコへんてこ話』シリーズなどがある。

(この記事は2023年10月6日の不登校新聞掲載記事「『親って本当につらい』『かいけつゾロリ』の作者が子育てに悩むすべての親に伝えたいたった1つの願い」より転載しました)