いつも何気なく飲んでいるコーヒー。
「朝の一杯がないと1日が始まらない」なんていう人もいるだろう。
しかし、そうしたコーヒーが危機的状況にあることを知っている人は少ないかもしれない。
コーヒー2050年問題とは
地球温暖化などの影響で、2050年にアラビカ種のコーヒー栽培に適した土地が現在の半分にまで減ることが予測されており、「コーヒー2050年問題」と呼ばれている。
つまり、このままでは将来、コーヒーを気軽に飲めなくなってしまうかもしれないのだ。
コーヒー生産には寒暖差や標高、気候などが重要になってくるが、気候変動による温暖化で、寒暖差の減少、湿度の上昇、そして葉の光合成機能を失わせる「さび病」の影響が懸念されている。
商業向けに栽培されているコーヒーはアラビカ種とロブスタ種に分かれており、スターバックスによると世界全体で生産されている6〜7割をアラビカ種が占めているという。一般的に、アラビカ種はスターバックスなどのカフェで利用されており、ロブスタ種はインスタントコーヒーなどに使われることが多い。
スターバックスが扱っているコーヒーは全てアラビカ種のため、この問題は同社にとって深刻な危機だ。
このコーヒーの危機を救うため、同社はどのような取り組みをしているのだろうか?
環境負荷の削減だけじゃない
スターバックスといえば、ストアでのリユースカップの利用促進やフードロス削減、廃棄物やCO2の削減に貢献する「グリーナーストア」など、環境に配慮した取り組みに積極的に注力している。
しかしそれは、私たちから見える一部分に過ぎない。カスタマーに見えない遠く離れた生産地でも、様々な対策を行っている。
環境保全やコーヒー生産における水、CO2、廃棄物などの環境負荷を削減するなど、生産者と共に様々な取り組みを行うと同時に、気候変動の影響に耐えられる品種の開発も進めている。
そうした研究の拠点となっているのが、コスタリカにある自社農園『ハシエンダ アルサシア』だ。ここはスターバックスのコーヒーを生産するための場所ではなく、コーヒーの未来をみんなで守ることを目的に作られたという。
「ハシエンダ アルサシアを拠点に、アグロノミスト(農学者)が気候変動やさび病に耐えられる品種の開発や、環境負荷の観点から水を減らした栽培の方法など、日々研究を重ねているんです」
そう話すのは、スターバックスでコーヒースペシャリストを務める、若林茜さん。生産地にもたびたび足を運ぶという。
「研究で得られた情報は生産者の支援のため、世界10カ国にあるファーマーサポートセンターを通じて無償で提供しています」と若林さんは付け加えた。
他にも、同社はコーヒー産業において、環境NGOのコンサベーション・インターナショナルと共同開発した独自のサステナビリティ・カイドライン「C.A.F.E.プラクティス」を2004年に設定。コーヒーの倫理的調達の普及を目指し、内容も常にアップデートされている。
ガイドラインは品質、経済、社会、環境への影響という4つの観点からコーヒー農園を評価しており、環境面では生物多様性の保護や、気候変動対策を実施しているかというチェック項目もあるという。しかし、世界最大級のコーヒーチェーンであるスターバックスでも、「コーヒー2050年問題」を単独で解決することは難しい。
「最善の解決策として、より良い未来を生産者にもたらせるように、小売り業者や貿易業者、政府まで、すべての人が力を合わせて協力することが必要だと考えています」と若林さんは述べた。
コーヒー1杯のストーリーに想いを馳せる
心を込めて生産されたコーヒーを最終的にカスタマーに届ける同社のスタッフたちも、工夫を凝らしている。カスタマーにコーヒーを提供する際、どこから届いたコーヒーなのかなど、1杯の裏側を想像できるような一言を添えるよう心掛けているという。
「コーヒーの生産地や関わる人を知る『きっかけ』を作ることが私たちの役割だと思っています」と若林さん。
では、コーヒーのエンドユーザーであるカスタマーの私たちができることはあるのだろうか?
「いま味わっているコーヒーはどんな国でどんな人が作っているのだろうと想いをはせることで、その国を身近に感じることができる。そうすると、生産者がコーヒーを作り続けるにはどんな環境が必要なのか、そのためにはどんな課題を解決すべきか考えるきっかけになるかもしれません。
そうした背景やストーリーを知ることが、購買行動に変化をもたらすことになるのではないでしょうか」
スターバックスは、「コーヒー2050年問題」と向き合いながら、様々な取り組みを通じてコーヒーを未来へ繋いでいこうと進んでいる。