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プリキュアシリーズ(毎週日曜朝8時30分、ABCテレビ・テレビ朝日系列にて放送中)の20周年記念映画『映画プリキュアオールスターズF』が全国の映画館で大ヒット上映中だ。
監督は、『Go!プリンセスプリキュア』(2015年)でシリーズディレクターを務めた田中裕太さん。キャラクターの心情がひしひしと伝わる演出などで、ファンの支持を集めてきた。
20年間、子どもたちに夢や希望を伝えてきたプリキュアシリーズ。社会的なメッセージの発信を期待する声も聞こえるようになってきた中で、田中さんに制作の上で大切にしていることを聞いた。
◆子どもたちに刺さるものを。その一心で作ってきた
──田中さんは『Yes!プリキュア5』(2007年)から15年以上、プリキュアシリーズに携わっています。作り手として、プリキュアが長く愛されてきた理由はなんだと思いますか。
明確な答えを出すのは難しいのですが、その時代ごとに作り手側が「今の子どもたち」に刺さるものを作ろうと努力してきたからというのはあるかもしれません。毎年、その時代の子たちに愛されて、それが20年間積み重なってきたのかなと。
プリキュアシリーズは基本的に、主要な制作陣が毎年変わります。それに大きくなると、プリキュアを卒業する子も少なくありません。子どもの視聴者も作り手側も、ずっと入れ替わり続けているんですよね。その時代の子どもたちの方をしっかりと向いて柔軟に変化し続けることが、ある意味、プリキュアの使命なのかなと思います。
そして、日曜の朝8時半にテレビをつけたら毎週やっている、子どもたちにとってのスタンダードな番組でありたい。せっかく20年間続いたので、いつまでも子どもたちの心に寄り添う存在になれたらなというのが、作り手側としてあります。そしてここまで続いたということは、おそらくこれからも続けていけるんじゃないか、という気持ちも漠然と持っています。
──最近は時代の変化とともに、出産シーンを描いたり、男子もプリキュアになったりするなど、社会的な視点でもプリキュアシリーズが注目されるようになってきました。
とてもありがたいことではあるのですが、「子ども番組として、見て楽しい」というのが作り手としての第一なので、自分は今でもプリキュアに「まずはエンターテインメントであってほしい」という気持ちがあります。
最近は妙に「高尚なもの」と持ち上げられて語られることも増えてきた印象なのですが、もっと肩の力を抜いて、気軽に見てほしいなと。
例えば、『ふたりはプリキュア』の企画書に書かれていた「女の子だって暴れたい」というコンセプトが特に最近、誇張されて広がっているように感じています。
その言葉は間違いないし、そのコンセプトのもと20年間やってきたのですが、僕はその言葉を、長年現場の中で一回も聞いたことがないんですよね。数年前から急に再注目されて、それ以降言葉だけが一人歩きしているという感覚があります。
もちろん他にも、制作陣がエッセンスとしてそれぞれのシリーズで入れている表現やメッセージは当然あります。でもそれは時代ごとに、子どもたちの方を向いて真剣に作ってきたからこそ出てきたものであり、それ自体が目的ではないと思うんです。深い部分を読み取ってもらえているのは嬉しいのですが、そこをことさら強調したくないというか。
基本的にはプリキュアたちのかっこよくて可愛い姿を見て、ちょっとでも自分も頑張ろうって思ってもらえれば十分かなと。そういう意味では、決して特別なことをやろうと意識してきたわけではないんじゃないかな、と。
ただ20年も続いていれば当然色々な工夫はしてきたわけで。それだけ長いこと手を替え品を替えやってきたんだから、結果として別に男子のプリキュアだって1人や2人いたっておかしくはないでしょ、と。そういうふうに思っています。
◆子ども番組だからといって、「諦めなければ絶対に夢は叶う」といった嘘は、つきたくない
──『Go!プリンセスプリキュア』(2015年)のオフィシャルコンプリートブック(学研ムック、2016年)で、田中さんは「今、世の中はとても厳しく、今を生きる子どもたちは夢や希望なんて考えている余裕がなくなるときだってやってくるかもしれない」「それでも自分をしっかり持って生きていれば、楽しいことだってたくさん見えてくる」といった、作品に込めた思いをつづっていました。
あれから約8年が経ち、さまざまな社会問題が一層深刻になるなど、当時よりもさらに希望を思い描くことが難しい社会になっていると感じています。それでも今後も作品を通し、夢や希望を伝えていこうと思いますか。
もちろんです。これはプリキュアに限った話ではないですが、エンターテインメントは、苦しい時代にあってこそ、活力を与えられるメディアだと思っているので。
訴えていくべきこと、夢や希望を伝え続けることはやめません。
…と言うと、少しカッコ良すぎるかもしれませんが(笑)
2015年当時は、今思えば、まだ現在よりは良かったのかもしれません。この8年間で、コロナという感染症で大変な思いをした人がたくさんいたり、新たな戦争が始まったり…。当時は想像もしなかったことが現実にたくさん起こってしまいました。
小学生である自分の子どもを見て、この子が大人になる時ってどうなっているんだろう…という漠然とした不安もあります。
厳しい現実に置かれる今だからこそ、せめて子どもたちには、アニメを通して幸せを、夢や希望を感じてほしい。
ただ、矛盾するかもしれないのですが、楽しいことだけ描いてはいられないとも思うんです。子ども番組だからといって、嘘はつきたくない。
──田中さんと、脚本の田中仁さんがタッグを組んだのは今回で4作目です。お二人の作風は『Go!プリンセスプリキュア』の天ノ川きらら(キュアトゥインクル)の夢の話を始め、「夢や希望を伝える」形が現実的で、嘘がないと感じています。子ども向けの作品でよくある「なんとかなってしまう」展開や、「根拠のない大丈夫」があまりないなと。
そうですね。だって(現実は)そうじゃん?って思っちゃうんですよ。「諦めなければ絶対に夢は叶う」「頑張れば絶対に大丈夫」といったメッセージも確かに、誰かの支えになるかもしれません。ただ、現実は必ずしもそうではない。そういう厳しい部分って、子どもたちも、いずれは放っておいても気づくじゃないですか。
僕や田中仁さんの特性の1つだと思うのですが、現実の厳しい部分をあまり誤魔化して描きたくないんですよね。不誠実な感じがしちゃうし、何より自分自身がそこに引っ掛かりを感じて、悩んで先に進めなくなることが多いと思います。
『Go!プリンセスプリキュア』を作る時に、当時のプロデューサーたちと、「これは子どもたちには難しいからやめよう」ということはやめようと話し合いました。対象が子どもだからといって、「レベルを下げる」ことは不誠実なのではないか?と思ったのだと感じます。もちろん、なるべくこちらの思いが正しく伝わるよう、わかりやすく噛み砕く努力は最大限します。この考えは今でも仕事の指針として、自分の中に残っています。
子ども向け番組って、単純な話にしようと思えばできるんですよ。でもキャラクターの心情を考えると、どうしてもご都合主義に見えてしまいかねないし、そういう描き方はあまりしたくない。
大前提として、小さい子どもたちにはプリキュアを、単純に面白いなって思って見てもらいたい。だけどその上で、我々の込めた思いをほんのちょっとでも感じ、人生の活力にしてもらえたなら、それは作り手としてとっても嬉しいことだなあと。
実際にSNS上でも、「プリキュアが人生にプラスになった」と言ってくれる方も少なからずいて、20年間続けてきてよかったなって。そういう人がいてくれる限り、作り続けることに意味はあるのかなと思っています。
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※ハフポスト日本版ではプリキュア20周年を記念し、『映画プリキュアオールスターズF』のインタビュー記事を4日連続で掲載する。
14日 田中裕太監督インタビュー(前編)※本記事
15日 キャラクターデザイン・総作画監督の板岡錦さんインタビュー(前編)
16日 田中監督インタビュー(後編)
17日 板岡さんインタビュー(後編)
16日公開の田中さんのインタビュー後編では一部ネタバレを含むなど、映画の内容に踏み込んだ上で、作品に込めた思いを聞いた。
<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>