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怒涛の10日間だった……。
夢のような日々だった。途中から肝臓が悲鳴を上げているのがわかった。みんなも中盤からどんどん疲弊していった。だけど何かに取り憑かれたように遊び続け、飲み続け、いろんな国の人々と交流し続けた。途中から、誰がどこの国の人で、自分が何語を喋ってるのかわからなくなるほどだった。日本人とも片言の英語で話し出したり、かと思ったら台湾や中国の人々の日本語の喋り方がうつっていたりして、とにかく最高に楽しく、最強に濃密な10日間だった。
それは9月22日から10月1日まで、アジアをはじめとする各国から大勢が集まり、高円寺で交流しまくった「NO LIMIT 2023 高円寺番外地」。国同士が対立を煽っても、民間人同士で仲良くなりまくってたら争いは止められるのでは、という壮大なテーマを掲げた「祭り」で、10日間で50ほどのイベントが開催されたのだ。
ということで、前回の原稿では4日目までをレポートした。さすがに仕事などがあり5日目は参加できなかったので6日目からを振り返ろう。
6日目の9月27日に開催されたのは「東アジア大バカ高円寺集会」という名のライブイベント。日本のバンドだけでなく、台湾からは「純平回家了」、そして「夢棄如来」が出演。日本からは炎上寺ルイコさんも参加。「高円寺21世紀音頭」では、客席のみんなが輪になって盆踊り。ライブの最後には、中国人だか台湾人だか香港人だか韓国人だかわかんないけどやたらとノリのよい男たちがステージに乱入、踊りまくって終了。
そのあとは、「フェミお茶会」だ。
「NO LIMIT」には海外や国内から多くの人が参加しており、当然女性も多いわけだが、そんな女性たちでジェンダー問題について語り合う集まりだ。国籍はバラバラなのに、やはり女性たちの抱えているモヤモヤは同じで、誰かが話すたびにあちこちから共感の声が上がる。その中でも多くの人が共感したのが、何か嫌なことを言われたりされたりしても、とっさに怒りを表明するのは難しいということ。怒るより、驚いて固まってしまったり、恐怖で何も言えなかったりという経験は誰にもあるだろう。それを乗り越えるために必要なのは「怒る練習のワークショップでは?」というある女性の提案には、参加者たちから拍手が上がった。
その翌日、9月28日は、「NO LIMIT 2023 高円寺番外地」で私がもっとも楽しみにしていたイベント「世界ぐうたら抵抗運動 遂に激闘!」。
この連載の「全国の大学に広がる『だめライフ愛好会』とはなんなのか」でも取り上げた「だめライフ愛好会」、そして92年に結成された「ダメの老舗」である「だめ連」、さらには中国の「寝そべり主義」が激突、という内容だ。
公開イベントに登場するのは初となる「だめライフ愛好会」からは中央大学、東海大学、大阪芸大のだめライフ愛好会が参加。今や飛ぶ鳥を落とす勢いで40ほどの大学に増殖しているだめライフについて語ってくれた。
「だめ連」からは、かれこれ30年以上、最低限しか働かず「交流」をメインに実に楽しく生きている神長恒一さんが参加。そして中国からは「寝そべり主義」に詳しいヤンさんが参加。
出演者の後ろの壁には、「寝そべり主義者宣言」の現物。21年頃から中国各地でばらまかれ始めた作者不明の文書だ。
そんなトークイベントで面白かったのは、中国で数年前から流行しだした「寝そべり族」がすでにあまりにも浸透し、金持ちや中産階級まで「自分は寝そべり族」と言い出しているということ。どうやらスローライフっぽい意味らしいのだが、本来の「寝そべり主義」とは、競争社会への対抗だ。よって「寝そべり主義者」として寝そべっている人々は、そういう人々と自分たちを混同されたくないと思っているようである。
というようなことを、中国でさまざまな活動をしているヤンさんが説明してくれる。では、ヤンさんたちがどのようなことを目指しているのかと言えば、その方向性は「だめ連」とまったく同じだったので感動した。
いわく、中国で「成功」とされる生き方は画一的で、それに対抗したいこと。いろんな生き方があり、評価の基準も多様だと伝えたいこと。そんな世の中での一番の抵抗は、収入が少なくても楽しく心豊かに生きること。
さらにヤンさんは既存の経済の中で「儲けること」ばかりが良しとされていることへの疑問を投げかけた。中国は今、不動産屋や貿易などのバブルが崩壊しつつあるという。そんな中で、「金儲け」ではなく、もっとクリエイティブに生きる方法を探りたい。しかし、中国では日本のようにネットで自由に発信することができないので、広く伝えることが難しい。
そのために、拡散力がある方法として「カンフー」をやっているということで、思わず椅子から落ちそうになった。
前回の原稿で、中国の女の子が、「SNSなんかより今は版画の方が拡散力がある!」と言っていてブッ飛んだと書いたけれど、今度はカンフーである。いったいなんなんだ、版画に続きカンフーって。もう中国の秘密兵器、ワケわかんなすぎて面白すぎるじゃないか。
さて、このイベントには会場に入りきれないほどの人が押し寄せたのだが、イベント後はみんなでそのまま駅前広場に移動して乾杯だ。こうした路上飲みであれば、お金の心配をせずに誰とでも交流できる。この路上飲みも「NO LIMIT」名物だ。
その翌日、9月29日は「TKA4」にてライブイベント。知久寿焼さんの歌を皮切りに、沖縄のバンドなどなどで大盛り上がり。なぜかライブの途中に店の中に電飾をたくさんつけた神輿が突入してきたり、ゲストで「GEZAN」が登場したり、みんなで焚き火の前で語り合ったりと、今思うと夢みたいな時間を過ごしたのだった。
そうして最終日の10月1日、私は名古屋で講演のため「アジア粗忽者一揆」という名のデモには参加できなかったのだが、アフターパーティーではみんなとの別れを惜しみつつ、再会を約束したのだった。
それにしても、長いようで終わってみればあっという間の10日間だった。
この10日で、アジア各地にたくさん友達ができた。顔見知りもめちゃくちゃ増えた。
期間中、海外から来た人は、私が把握してるだけで約100人。それ以外にも日本在住の外国人や日本在住の日本人が山ほど来た。いったい、総参加者は何百人くらいになるのか、想像もつかないほどだ。
とにかく毎日、周りに外国人が増え続け、酒の空き瓶・空き缶が増え続け、そして飲みすぎて怪我をする人なども増え続けた。
だけど誰かが体調を崩したら、「香港で救命を学んだ人」とかが介抱してたりする。香港人ではないから、おそらく救命を学んだのは逃亡犯条例反対の100万人デモの場だろう。なんたってあの現場では、警察官が参加者に催涙ガスやゴム弾を発射していたのだ。デモ参加者にも救命の知識が求められるような場だったわけである。
さて、ここまで「NO LIMIT 2023 高円寺番外地」について3週連続でレポートしてきたが、ここに書いたのは私が見てきたほんの一断面。参加したかったけれどできなかったイベントも多くある。特に昼のイベントは二日酔いでことごとく行けなかった。パプアからの生中継イベントとか、版画ワークショップとか、行けなかったことが悔やまれる。
そうして今、怒涛の10日間が終わってみると、あの、「何をするにも言語の確認」から始まった日々が懐かしい。
「日本語わかんない人、手挙げて!」と言っても通じないというところから始まる多国籍な日々。
もちろん、これだけ人が集まればいろいろなトラブルもある。しかも各国から選りすぐりの「言うこときかない」系のメンド臭い奴ばっかが集まってるのだ。だけどトラブルが起きたら、その時々にちゃんと話し合えばいいと私は思う。
今の日本、いや、世界には、とにかくトラブルを忌避する空気が蔓延している。なんでも先回りして心配して、自分が責任を取るのが嫌だから「トラブルが起こる可能性があるならやめておこう」という空気だ。
だけど、そこからは当然何も生まれないし何も始まらない。
「NO LIMIT 2023 高円寺番外地」は違う。とりあえず松本哉氏らは無責任に各国の人々に高円寺への集結を呼びかけた。そうしたら本当に、中国や台湾、香港、韓国だけでなくニューヨークからも人が押し寄せてきた。リーダーもいない中、国籍も言葉も習慣も常識も何もかも違う人たちが10日間を一緒に過ごす手作りの祭りだ。いろんなトラブルを起こしながら各自が学んでいくしかない。
こういう実践にこそ、私は意味があると思っている。
そうしてこの手作りの祭りは、地域経済にも貢献した。私が把握している限り、少なくとも3軒の店で、「過去最多の来客」記録が更新されている。会場はみんな、「NO LIMIT 2023 高円寺番外地」の趣旨に賛同する個人がやってる店。商店街の小さな店が生き残ること。それも実はすごく大事なことだと思う。
さて、次回の「NO LIMIT」は台湾で開催されると宣言する映像も確認された。
ということで、死ぬほど楽しい10日間、準備したすべての皆さん、本当にお疲れさまでした!!
(2023年10月4日の雨宮処凛がゆく!掲載記事『第652回:怒涛の国際交流10日間、終わる〜各国に友人が激増し、大量の酒の空き瓶が残された〜の巻(雨宮処凛)』より転載)