雑踏事故の群集心理とは。明石歩道橋事故の「手引き」から学べること【阪神優勝時の混乱警戒】

阪神タイガースの優勝の可能性に備えて、大阪府警は1300人体制で雑踏警備にあたる。大勢の人たちが道頓堀に殺到すると予想されている。

プロ野球・セ・リーグで、優勝マジック1の阪神タイガースは、9月14日の巨人戦に勝てばリーグ優勝が決まる。敗れても2位の広島も負ければ優勝が決定。引き分けた場合は、広島が引き分けか負ければ優勝が確定する。

阪神がリーグ制覇すれば、2005年以来18年ぶり。優勝の可能性に備えて、大阪府警は1300人態勢で雑踏警備にあたると、朝日新聞が報じている

過去の優勝時、阪神ファンと思われる大勢の人々が大阪・ミナミの道頓堀に殺到したからだ。2003年のリーグ優勝時、数千人が道頓堀川に「祝賀」として飛び込み、1人が死亡。周辺の飲食店のオブジェが破壊される被害があった。

道頓堀川にかかる戎橋を埋めた群集(2003年、大阪市中央区)
道頓堀川にかかる戎橋を埋めた群集(2003年、大阪市中央区)
時事通信社

NHKによると、前回2005年のリーグ優勝時は、通行規制などの対策によって川に飛び込む人は大幅に減ったが、周囲は一時、身動きが取れないほど混雑したという。 

人が密集・殺到する場所では、雑踏事故が起きる危険がある。

2022年10月には韓国の首都ソウルの繁華街・梨泰院で、ハロウィンで集まった大勢の人たちが重なるように倒れ、154人が死亡、130人以上がけがをした

人が密集する場所にいたり、大規模イベントなどで雑踏・群衆のひとりになったりしたとき、何か意識できることや、どんな行動を心がけたらいいのか。

2001年に兵庫県明石市の花火大会で起きた雑踏事故や警備体制を教訓に、兵庫県警が作成した「雑踏警備の手引き」から、群集心理や警備側による雑踏事故の制御などを紹介する。 

雑踏警備の手引き
雑踏警備の手引き
兵庫県警

明石市の事故では、JR神戸線朝霧駅の歩道橋上で、会場に向かう客と駅に向かう客とが押し合いとなって転倒し、11人が死亡、247人が重軽傷という大惨事となった。当時、安全を守る責任を果たせなかった主催者の明石市や、警備を担った警察が責任を問われた。

雑踏の特徴

雑踏警備の手引きでは、雑踏の特色のひとつに「人の集合が事前に予測可能」という点をあげている。

「雑踏の多くは、恒例的、年中的な行事に関連して、早くから予測可能である」と説明する一方、「インターネットを通じた呼びかけによる多数人の集合事案が突如生ずることも予想される」とも指摘している。

雑踏警備の対象

雑踏警備の対象となる行事は、主に次のようなものだ。

・祭礼

・花火大会

・各種イベント

・スポーツ競技

・公営競技【競輪、競馬、競艇、オートレース】

・その他慰安、娯楽を目的とする多数の人が集まる催し物(花見、観月会等) 

特に混雑が予想される行事が警備対象となり、近年では渋谷ハロウィンなども警備対象になっている。

群集心理

手引きは「雑踏事故は、群集心理に影響されることが大である」と背景要因を説明。

「個々には小さな存在であっても、群集になると危険度が高くなる」として、次のような理由を並べている。

▽単なる人の集まりで各人に役割や組織性がない

▽匿名性ゆえに理性が低下しやすい

▽異常な雰囲気に巻き込まれると、さらに無責任性、無批判性や暗示にかかりやすくなる

こうした結果として「混乱と無秩序が重なり合って不測の事故が発生する」と指摘。「予想以上の規模に拡大する結果となるものもある」と付け加えている。

群集心理には次のような特徴があるという。

軽薄性:暗示にかかりやすく、平常時は相手にしないような流言や冗談を軽々しく信じやすくなる

無責任性:個々の責任感が弱まり、集団の雰囲気に左右されやすく、道徳や秩序、規範への意識や理性が失われやすい

興奮性:感情が単純で非常に興奮しやすくなり、偏った極端な行動をとりやすい

暴力性:「事故が起こるのではないか」という恐怖心や自分の行動が思うようにならないことによる怒りから暴力行為をしやすい

直情性:近道本能(手順を守らず直ちに結果を得ようとする本能)から、自分本位となって交通整理に従わないなど、直情的な行動をとりやすい

付和雷同:他人の非常識な行動が直ちに感染し、同様の行動をとりやすい

雑踏事故の制御

雑踏事故が起きやすいのは「トンネルや階段、袋小路のような逃げ場のない空間」などだという。

事故防止のため、警備側のソフト面の対策として「人は常に動かす。しかもゆっくり」「人の流れをぶつからせない。一方通行が大原則」などをあげている。

「滞留を防ぐため、群衆の流れの中で停止した群れをなしている人を排除する」とも示されており、移動の流れを妨げる動きは避けるのが望ましいだろう。

事故に遭遇した人の証言

手引きでは、明石市の事故に遭遇した人たちの証言を紹介している。

《アクリル板と男性の間に挟まれお腹が潰されそうになり死ぬかと思った。周りでは、人が押しつぶされ子供ばかり6〜7人が山積みになっていた》女性34歳(当時)

《締め上げられるようになり体が宙に浮いて死ぬと思った瞬間気を失った。自分が死んでもおかしくない状態だった》男性44歳(当時)

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