映画「マエストロ:その音楽と愛と」でアメリカを代表する指揮者だったレナード・バーンスタイン氏を演じるブラッドリー・クーパーさんの鼻に対し、「反ユダヤ主義を助長する」などと批判が集まっている。ニューヨーク・タイムズやCNNなど海外の大手メディアが相次いで取り上げている。
バーンスタイン氏は、指揮者でもあり、作曲家でもあった。アメリカ・マサチューセッツ州で、ウクライナ系ユダヤ人移民の父と母のもとに生まれた。10歳で音楽に目覚め、ハーバード大学に在籍中に自作も含めてピアノリサイタルを開いた。
20代半ばでニューヨーク・フィルハーモニックの副指揮者に任命され、2年後にはニューヨーク・シティ交響楽団の音楽監督に就任した。その後、ニューヨーク・フィルの首席指揮者になった。「ウエスト・サイド物語」の音楽を手がけたことでも知られる。
映画「マエストロ」は、1990年に72歳で亡くなったバーンスタイン氏の生涯を描いており、クーパーさんが監督と主演を務めている。
2022年に出演者などが明らかになると、ユダヤ系ではないクーパーさんがユダヤ系のバーンスタイン氏を演じることに疑問を呈する声が上がった。
そして2023年8月15日に予告編の動画が公開されると、大きく誇張されたメイクを施したクーパーさんの「鼻」に注目した人たちから、「ユダヤ人に対する侮辱だ」と批判の声が上がった。
ガーディアンは批判の一例として、イギリスの俳優で活動家のトレイシー・アン・オーバマンさんのSNSへの投稿を取り上げている。オーバマンさんは「もしブラッドリー・クーパーが(今回の役を演じるために)義鼻をつけなければいけないのであれば、私には(黒人以外の演者が黒人を演じるために黒い舞台化粧をする)ブラックフェイスやイエローフェイスと同じに見えます。こう感じるのは私だけではないと思います」
「もし、演技力だけではバーンスタイン氏を演じきれないのであれば、ブラッドリー・クーパーに演じさせるのではなく、ユダヤ人の俳優に配役すべきです」と指摘している。
こういった批判を耳にし、バーンスタイン氏の子ども3人が8月16日、公式Instagramアカウントにクーパーさんを擁護する声明を連名で出した。
「ブラッドリー・クーパーは、父のことを取り上げたこの映画を作るすべての過程に私たちを参加させてくれました。彼の努力が誤解され、誤って広がるのを見ると、心が張り裂けそうです」
「レナード・バーンスタインが素敵な大きな鼻をしていたのは本当のことです。ブラッドリーはより見た目を似せるためにメイクをする選択をしましたが、私たちはまったく問題に思っていません。父も同じくまったく気にしなかったと思います」とし、批判に胸を痛めていることを明かした。